The Topic of This Month Vol.27 No.8(No.318)

サルモネラ症 2006年6月現在

(Vol.27 p 191-192:2006年8月号)

わが国におけるサルモネラのサーベイランスは、(1)食品衛生法に基づく食中毒の発生届出(厚生労働省食品安全部監視安全課「食中毒統計」)、(2)主として食中毒集団発生の患者を対象にした、地方衛生研究所(地研)・保健所による病原体検査結果からのサルモネラ検出報告(病原微生物検出情報)から成る。さらに、国立感染症研究所細菌第一部では病原体サーベイランスの一環としてSalmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis(S . Enteritidis)分離菌株のファージ型別を行っている。なお、感染症法に基づく感染症発生動向調査では食中毒関連疾患は小児科定点報告の5類感染症である「感染性胃腸炎」に一括されており、「サルモネラ症」としての個別報告はなされていない。

1.食中毒統計による患者情報:2003〜2005年の細菌性食中毒の患者総数は16,551名、13,078名、16,678名と推移している。この中でサルモネラによる患者数は6,517名、3,788名、3,700名であり、ここ2年間における減少傾向が顕著であるものの、細菌の病因物質別患者数では引き続き第1位を占めている(IASR 27: 169, 2006参照)。また、各年の1事件当たり患者数は、18.6名、16.8名、25.7名で、食中毒統計における大規模事件の目安となっている患者数500名以上の食中毒事件はこの3年間には発生しなかった。発生時期としては、サルモネラ食中毒は7〜9月の夏場をピークとしている(図1)。

2.地研・保健所からの病原体情報

1)検出数:サルモネラ検出数は、1999年まで5,000前後であったが、2000年以降減少し、2004年と2005年には1,300程度になっている(図2)。

2)血清型:ヒト由来サルモネラの血清型では、1989年以来Enteritidisが第1位であり(http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/pbacteria-j.html参照)、その割合は2002年62%、2003年62%、2004年47%、2005年50%を占めている(表1)。Enteritidisの減少に伴ってサルモネラ全体も減少している(図2)。サルモネラ属菌は、同定に用いる生化学性状試験の一つであるリジン脱炭酸酵素試験において通常陽性を示すが、近年、本試験に陰性を示すEnteritidis株が報告されているため、検査上注意が必要である(IASR 25: 154-155, 2004および26: 93-94, 2005参照)。一方、1988年まで第1位を占めていたTyphimuriumは、2003年第2位、2004年、2005年第3位であった。2000年以降フルオロキノロン耐性株が約20例報告されており、それらによる感染は治療に抵抗を示す可能性が高いので引き続き注意を要する(IASR 24: 179-182, 2003参照)。それ以外の血清型では、Infantisが上位になっている。国産鶏肉から分離されるサルモネラの過半数はInfantisで、輸入鶏肉から分離されるサルモネラのほとんどはEnteritidisとの報告もある(本号3ページ参照)。

3)集団発生:2003〜2005年に報告されたサルモネラ集団発生は、それぞれ60件、32件、31件で、うち、患者数10名以上の事件はそれぞれ42件、23件、26件と(表2)、1990年代に比べると明らかな減少傾向にある(IASR 21: 162-163, 2000 & 24: 179-180, 2003参照)。S . Enteritidisによる事件の割合は2003年76%、2004年78%、2005年54%であった。2003年のS . Typhimuriumによる事件は患者数358名(IASR 25: 99-100, 2004参照)、2004年のS . Infantisによる事件は患者数366名(IASR 25: 303-304, 2004参照)と、比較的規模が大きく、いずれも仕出し弁当によるものであった。

原因食材としては、S . Enteritidis事例では洋生菓子など鶏卵を用いたものが多く(IASR 25:79, 2004参照)、珍しいものとしてはS . Typhimurium事例において「すっぽん」も報告されている(IASR 25: 261, 2004参照)。また、調理道具を介した鶏卵からの二次汚染によると考えられるもの(IASR 24: 267, 2003参照)も報告されている。

3.S . Enteritidisファージ型:感染研細菌第一部に送付されたS . Enteritidisのうち、家族内事例を含む集団発生由来株のファージ型別の結果を表3に示す。これまでほぼ第1位を占めていたファージ型(PT)4が2002年28件、2003年24件、2004年14件、2005年8件と減少傾向を示している。また、PT1とPT47もそれぞれ2005年には9件と7件に減少している。一方で、PT14bが2002年の2件から2005年の9件に増加するなど、ファージ型に多様性がみられる。なお、上述のリジン脱炭酸酵素試験陰性株の多くはPT14bもしくはPT4に型別されている。

4.爬虫類によるサルモネラ症:2004〜2006年にペットのカメとイグアナを感染源と疑う敗血症および髄膜炎のサルモネラ症例が報告された(IASR 26: 342- 343 & 344-345, 200527: 71-72, 2006および本号13ページ参照)。起因菌はS . Braenderup、S . Paratyphi B、S . Schlessheim、S . enterica subsp. arizonae 45:g,z51:-、S . Poonaで、食中毒ではS . Enteritidis等特定の血清型が多いのに対して、爬虫類による事例では、様々な血清型が分離される。サルモネラは哺乳動物に限らず広い範囲の動物を宿主とするので、動物を飼育する際の衛生面への注意等について適切な啓発活動が肝要であろう(平成17年12月22日健感発第 1222002号参照)。

終わりに:サルモネラによる食中毒の発生件数は、最近減少傾向にあるが、2004年にはS . Haifaによって1名の死者が発生した(IASR 26: 19-20, 2005参照)。また2006年7月にはS . Enteritidisによって9歳児が亡くなっている。サルモネラは下痢等の腸内感染にとどまらず全身感染に移行して重症化する場合もあるので、発熱を伴う下痢の場合は早目に受診し、その容体の変化に十分な注意を払う必要がある。

食品の食中毒菌汚染実態調査結果では鶏ミンチ肉のサルモネラ陽性率が高く(平成18年3月17日食安監発第 0317001号、http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/060317-1.html参照)、鶏卵のみならず鶏肉の取り扱いにも十分な注意が必要であろう。

また、国内での患者発生は無かったものの、2004年には日本にも輸入されていた米国産アーモンドによるS . Enteritidis感染の広域集団発生が米国とカナダで報告されている(CDC, MMWR 53: 484-487, 2004)。

今後も引き続き、国内外のサルモネラ症の発生状況および血清型の動向に注意を払うとともに、食中毒予防対策をはじめとした感染予防のための衛生管理の徹底が重要である。

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る