刑務所におけるSalmonella Enteritidis食中毒事例−熊本市

(Vol.24 p 267-267)

2003年7月25日、 熊本刑務所から熊本市保健所へ受刑者十数名が7月15日頃から体調異常を訴えており、 4名検便を実施したうちの2名からサルモネラを検出した旨の届け出があった。調査の結果、 受刑者654名中170名が発症しており(発病率30%)、 症状は下痢96%、 腹痛78%、 発熱45%などであった。有症者の共通食は当該刑務所の給食以外になく、 患者発症状況などから当該給食施設の給食による食中毒と断定した。

医療機関で分離された菌株2株は、 当研究所でSalmonella Enteritidis(S .E.)と同定された。

検食27検体(7月13、 14日分)、 調理場ふきとり74検体、 調理場使用水1検体、 有症者便26検体、 調理従事者便21検体について細菌学的検査を行った。検査の結果、 検食2検体、 有症者便12検体、 調理従事者便3検体からS .E.を検出した。調理従事者は、 ローテーションを組んで調理を実施していた受刑者で、 給食を喫食していた。また7月1日に実施された定期検便の結果は全員Salmonella 陰性であった。

S .E.が検出された検食は、 7月13日昼食の「納豆あえ」および同日夕食の「青菜ピーナッツあえ」であった。「納豆あえ」は、 冷凍ほうれん草を納豆であえたもの。「青菜ピーナッツあえ」は冷凍小松菜を市販の粉末ピーナッツと醤油、 砂糖であえたものであり、 汚染菌量は「納豆あえ」40MPN/100g、 「青菜ピーナッツあえ」90MPN/100gであった。以上の結果から、 7月13日に調理された「納豆あえ」、 「青菜ピーナッツあえ」が原因であると断定された。

汚染源調査として、 冷凍ほうれん草(同ロット品)、 粉末ピーナッツ、 醤油の検査が行われたがいずれもS .E.陰性であった。小松菜、 納豆はすでに検食が廃棄されており、 業者に同一ロット品もなく検査できなかった。また調理工程、 器具の使用状況について調査を行ったところ、 2種類の和え物の調理には、 すのこ(水切り用)、 プラスチック製の桶(和え物を入れる)、 長手袋(和え物を混ぜる)が共通して使用されていた。このうち桶は、 普段和え物だけでなく卵の割り置きにも使用されており、 使用後は洗浄のみで消毒は実施されていなかった。13日以前では10日夕食調理時に卵の割り置きに桶を使用していたが、 桶は全部で5個あり、 使い分けがされておらず、 また区別もないため、 どの桶で卵を割り、 和え物を作ったのかは不明であった。これらのことから、 汚染された原因は断定できなかったが、 調理器具である桶による二次汚染の可能性は高いと考えられた。

また、 13日昼食の「納豆あえ」は調理後喫食まで30℃前後の室温下で2時間弱放置されており、 このために食品中でS .E.が増殖したと考えられた。

当所で得られたS .E.菌株19株について薬剤感受性試験およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施した。薬剤感受性試験は、 12薬剤(ABPC、 SM、 TC、 CP、 KM、 EM、 ST、 NA、 MINO、 OFLX、 FOM、 NFLX)を用いて行った。すべての株がEMに耐性、 残り11薬剤に関しては感性であった。PFGEは、 Xba I、 Bln Iとも今回の食中毒株はすべて同じパターンを示し(図1、 2)、 当所保存S .E.株は違うパターンを示した(データ示さず)。しかし両酵素処理した菌株ともバンド数が少なく、 従来言われているようにS .E.の疫学調査としてPFGEが適しているのかどうか考えさせられた。ファージ型は、 国立感染症研究所に依頼し、 その結果すべての分離株がファージ型4であった。

今回は調理器具の断定まで至らなかったが、 調理器具を介したS .E.の食中毒は近年だけでも1996年福岡県(本月報Vol.18、 133-134)、 1997年熊本市(本月報Vol.18、 265-266)、 1999年愛媛県(本月報Vol.21、 118-119)で発生している。3事例とも原因食は野菜の和え物であり、 学校給食であったため患者数が多かったが、 今回の事例も同じような様相を示している。加熱されない食品の提供と、 卵を使用した器具の洗浄および調理器具の使い回しについては改めて注意が必要であると考えられた。

熊本市環境総合研究所 丸住美都里 松岡由美子 新屋拓郎 藤井幸三
熊本市保健所 東 順子 原田清孝

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