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Vol.3 (1982/4[026])

<国内情報>
腸チフスの臨床(感染性腸炎研究会1979年の調査から)(月報25号のつづき)


 7.最終検査病日(表7)

 保菌者化を防止するため,胆のうのエコー,またはX線検査とCP投与終了後少なくとも2週間を経てからの胆汁検査は,必ず実施する必要がある。糞便については胆のうの異常の有無にかかわらずCP投与終了後3週間の継続検査が望ましい。しかし,今回の調査では,胆汁については約半数が2週間以内に,糞便については約2/3が3週間以内に検査が打ち切られていた。厚生省の通達に基く保健所による6カ月間の経験者検便に期待する所大なるものがある。

 8.その他

 急性腹症として開腹手術を受け,その後腸チフスと診定された者が4名あった。虫垂切除2名,開腹手術1名,胆のう炎としての手術1名である。また,再発,再排菌者はそれぞれ4名(4.6%)であったが,後者のうち3名は保菌者に移行した。なお,CP耐性チフス菌は,本年も分離されなかった。

 附:疫学調査上の注意

 腸チフスの潜伏期間は通常12日前後であるが,長い場合は3週間におよぶ。従って,赤痢の場合のように,1〜2回の検便で事たれりとするのは危険である。確かに検便によって保菌者は捕捉されよう。しかし,感染し,潜伏期間内にある者を逃す恐れが多分にある。感染機会のあった者に対しては,不明熱,特に風邪症状に重点を置いた3週間の健康監視を怠ってはならない。

 なお,ウィダール反応にあまり信頼性のおけぬことについては,腸チフス中央審査会でつとに指摘している通りである。

 むすび

 諸種抗生剤の氾濫している今日でも,腸チフスの臨床症状は往時と変わりはない。むしろ抗生剤の繁用により確定診断が遅れ,患者が重症化する傾向すら伺える。

 腸チフスに対して卓効を奏する抗生剤としては依然CPの右に出る薬剤は無い。幸いわが国ではまだ耐性チフス菌による患者の経験は輸入例1名にとどまっているが(本情報19,p.9),既にアジア,東南アジアには侵入,タイ国では約30%におよぶという。

 耐性チフス菌による腸チフス患者の治療,これが今後我々臨床家の直面する課題である。



東京都立墨東病院 今川 八束


7)抗生剤投与終了後最終検体採取までの日数(腸チフス患者,1979)





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