イカ菓子喫食が原因と考えられるSalmonella Oranienburgによる化膿性脊椎炎−兵庫県

本年(1999)初頭から全国を席巻した、イカ菓子を原因とするSalmonella Oranienburg(SO)とS. Chester(SC)によるサルモネラ混合流行(1998年12月〜1999年5月)も、厚生省により5月17日をもって終息宣言がなされた。本流行最盛時に我々は、ヒト下痢症糞便由来株と食品(おやつちんみ)由来株の疫学的解析を実施した(本月報Vol.20、No.4No.7、1999:Jpn. J. Infect. Dis., 52, 53, 1999:同52, 138, 1999)。以後9月初旬までに当所で検索したSO株は、糞便由来62株の他、胆汁由来1株、股関節膿由来1株、椎骨由来1株、および血液由来2株の計67株であった。なお、SCは糞便由来株のみ12株であった。本報告では、サルモネラ感染例としては極めて稀な例と考えられる、SOによる化膿性脊椎炎例について述べる。

兵庫県城崎郡日高町の患者(中学生女子、12歳)は、1999年5月17日、腰痛・腹痛・発熱を訴え、近医を受診したが回復がみられないため、公立H病院を受診(1999年5月20日)し翌日入院となった。原因不明のまま公立W病院に転院(7月7日)し、ギブス固定による安静加療を受けた。CT像で第1、2腰椎椎体の破壊が認められたため、脊椎カリエスが疑われて、国立神戸病院に転院(7月22日)した。しかし、腰椎椎体および椎間板組織の生検によりSOが分離され、かつ、炎症性細胞浸潤を主とした組織像が認められたため、化膿性脊椎炎と診断された。患者は、加療後まもなく軽快・退院(9月17日)し、上記W病院で通院にてリハビリしながら、学業に復帰している(9月30日現在)。

患者の家は数年来、イカ菓子のおやつちんみを販売しており、患者本人はかなり以前(少なくとも1998年12月以前)から毎日2〜3袋(約12〜18g)を喫食していた模様であり、4月中旬に腹痛・下痢の症状があったようである。公立H病院入院時には、腰痛・腹痛・下痢・発熱の症状があったが、腰痛以外はしばらくして消失し、腰痛のみが持続した。

上記患者由来株と、ヒト糞便由来初期流行株、食品(おやつちんみ、ただし患者の喫食品ではない)由来株、およびその他のヒト由来SO株(胆汁、股関節膿、血液)についてその遺伝子的差異を調べるため、BlnIおよびXbaI制限酵素によるDNA切断産物のパルスフィールド・ゲル電気泳動を実施した(図1)。両酵素ともすべてそのパターンが同一であることから、これらの菌株は遺伝子的に同一であると考えられた。このことから本患者由来株は、イカ菓子を原因とする全国的SO流行株であることが示された。

本事例のように、サルモネラ(SO)による骨(腰椎骨)感染例は、SOによる後腹膜膿瘍形成感染例(本月報Vol.20、No.6、1999参照)同様、非常に稀な例と考えられたのでここに報告した。

兵庫県立衛生研究所微生物部
浜田耕吉 辻 英高
国立神戸病院整形外科
北川 篤 鷲見正敏

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