後腹膜膿瘍を形成したSalmonella Oranienburg重症感染症の一例

 症例:8歳、女児
 既往歴:特記事項無し
 現病歴:1999(平成11)年4月19日から発熱、下腹部痛、悪心、嘔吐があり、翌日近医受診、内服薬等処方されるも症状改善しないため、4月26日K市民病院入院。入院時血液所見ではWBC 30,900、 CRP 29.8と激しい炎症反応所見あり。腹部超音波検査およびCTで膵頭部、肝尾状葉付近に嚢胞様陰影が認められ、4月28日当院小児外科へ転院となる。

 入院後経過:入院後著しい発熱、傾眠傾向も見られ、全身状態悪化、内ヘルニアあるいはリンパ管嚢腫の感染を疑い、同日深夜緊急手術となる。手術所見では、膵体部前面から小網背側とウンスロー孔にかけ膿瘍形成あり、乳白色の膿の流出が見られた(200ml)。腸管穿孔が無いことを確認し、ドレナージチューブを挿入し、手術を終えた。ドレナージおよび抗生剤治療(CZON、NFLX)にて症状は急速に改善した。

 微生物検査:後腹膜膿瘍の培養でSalmonella Oranienburgが分離された。

 疫学調査:4月17日、イカの駄菓子の摂取歴有り。妹もイカ菓子摂取後、嘔吐が見られた。

 考察:イカ菓子による多発性サルモネラ食中毒の一例と考えられる。サルモネラ症に伴う腹腔内膿瘍は脾膿瘍が多くその他の膿瘍は稀である。本症例における膿瘍形成機序は検討中であるが、腸管穿孔が無いことより、腸管感染に伴う血行播種あるいはリンパ行性感染が考えられる。

Typhoid fever以外のサルモネラ腸管感染症における抗生物質治療の適応については否定的な意見が多いが、本症例のごとく重篤化する場合もあり、慎重な経過観察および必要に応じた抗菌薬治療が必要であろう。

名古屋大学医学部附属病院検査部 飯沼由嗣
     同     小児外科 安藤久實
名古屋市衛生研究所  安形則雄

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