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5/1/2003


SARSの診断検査のための検体採取について
(WHO 4月29日)

 

  ・可能な検体採取のまとめ
  ・気道からの検体の採取方法
  ・バイオセーフティ 

現在、SARSコロナウイルスの確実な検出方法や抗体検査はない。既存の検査とそれらの特徴についての概要は、以下のウェブサイトを参照のこと。

Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS), Laboratory diagnostic tests
日本語

診断のための検体はウィルス培養、PCR、抗原検出、免疫染色/血清学的抗体検査に適していなければならない。SARSの病態の理解を深めるための研究目的として、将来診断検査が容易に出来るようになったときの検査のために、SARS患者の発病時からの検体を経時的に採取し、保存しておくことをWHOは勧める。これは、特にSARSが報告されていない国での第1症例を把握するときに重要である。ウイルスの排泄パターンや感染性を有する時期をより詳細に解明するためには、臨床データや接触者に関する情報を実験室での結果と比較対照する必要がある。

可能な検体採取のまとめ:
実際的な理由やWHO研究所ネットワークからの結果によると、ウイルス検出(分離とRNA検出)に最も適しているのは、上気道からの検体である。また、複数部位から検体採取を行えば、検出率が向上すると思われる。

検体の種類 方 法 培地/容器/輸送 時期 可能性ある検査方法
鼻咽頭 吸引液:呼吸器系ウイルスに最適な検体 滅菌バイアル
氷に入れて(+4℃)輸送
どの時期の検体でも可。特に疾患の初期の検体が有用である。 ウィルス培養
PCR
電子顕微鏡検査
鼻咽頭、または口腔咽頭 ぬぐい液:プラスチックの柄を有するダクロンまたはレーヨンの綿棒で滅菌したもの ウィルス輸送用培地を入れた滅菌バイアル

氷に入れて(+4℃)輸送
どの時期の検体でも可。特に疾患の初期の検体が有用である。
気管 吸引液 半分を遠心分離:細胞沈渣をホルマリン固定。遠心分離しないものを滅菌バイアルに

氷に入れて輸送。固定した細胞は室温で、未固定の細胞は冷凍で。
臨床的に該当するとき:挿管、重篤な肺病変、または胸水

疾患の初期および進行した時期の両方
標準的な培養
ウィルス培養
PCR
電子顕微鏡検査法

固定した、あるいは未固定のスライドグラス:免疫蛍光法、分子生物学的検査
気管支洗浄液  
胸水 胸腔穿刺液
尿 清潔に採取し、滅菌容器に 遠心分離を行い、沈渣を2-3mlの滅菌した輸送用培地、組織培養用培地、またはリン酸緩衝生食液に再懸濁。 急性期 抗原検出
ウィルス培養
PCR
便   便カップまたは尿容器の中に10-50 ml採取。氷に入れて輸送 どの時期の検体でも可。第10病日前後が最適。 ウィルス培養
PCR
電子顕微鏡検査
結膜 ぬぐい液:プラスチックの柄を有するダクロンまたはレーヨンの綿棒で滅菌したもの ウィルス輸送用培地を入れた滅菌バイアル

氷に入れて輸送
可能な限り早期 ウィルス培養
PCR
電子顕微鏡検査
血清   200μl以上がよい。氷に入れて、あるいは冷凍で輸送 急性期:可能なかぎり早期に(7日まで)

回復期:3-4週間後に
特異抗体の検出(IgM抗体、IgA抗体、およびIgG抗体の上昇)
全血   EDTA

氷に入れて輸送*
どの時期の検体でも可。  
血液   標準の血液培養ボトル   標準的な培養
PCR
組織(生検、剖検) 肺、上気道 ウィルス輸送用培地、または生食を入れた滅菌容器

新鮮凍結で-70℃
  電子顕微鏡検査

免疫蛍光法、分子生物学的検査
  主要な器官 ホルマリン固定、またはパラフィン包埋

室温で輸送
  電子顕微鏡検査

気道からの検体の採取方法

a. 鼻咽頭洗浄液/吸引液
呼吸器系ウイルスの検出に最適な検体採取法である。患者は、頭部を少し後ろに傾けた状態で座る。片方の鼻孔に滅菌生食液を1〜1.5 ml点鼻する。プラスチック・カテーテルを生食液2-3 mlを使ってフラッシュする。管を鼻孔に入れ、口蓋と平行になるように挿入する。鼻咽頭分泌物を吸引する。他の鼻孔についても、この操作を繰り返す。検体を滅菌バイアルに集める。

b. 鼻咽頭ぬぐい液
綿棒を鼻孔から口蓋と平行になるように挿入する。そして、分泌物を吸収させるために、2、3秒そのままにしておく。両方の鼻孔につき、ぬぐい液を採取する。

c. 口腔咽頭ぬぐい液
舌を避けて、後部咽頭と扁桃領域のぬぐい液を採取する。

d. 下気道
上記の表を参照

バイオセーフティ:検体の取り扱い、処理、輸送に関するバイオセーフテイ上の注意の詳細は、以下のウェブサイトを参照のこと。

Interim Laboratory Biosafety Guidelines for Handling and Processing Specimens Associated with Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS)

「疑い例」あるいは「可能性例」の患者から検体を採取する医療関係者は、個人毎の防御装備を装着しなければならない。:きつく装着したマスク(高いろ過効率:N、R、P 95/99/100、FFP 2/3)、ゴーグル、手袋、使い捨てガウン。以下のウェブサイトを参照のこと。

Hospital Infection Control Guidance for Severe Acute Respiratory Syndrome (SARS)日本語

検体を入れた試験管やバイアルは、こぼれないよう適切に密封しなければならない。そして、検体の種類や採取の日付のラベルとともに、バイオハザードラベルもきちんと貼る。 輸送に際しては、診断のための検体として適切に梱包を行い、正しくラベルを貼らなければならない。

WHO biosafety guidelines for handling of SARS specimens
日本語

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