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4/30/2003


WHOによるSARS検体の取り扱いに関するバイオセーフティ指針
(4月25日)

 

以下のバイオセーフティ指針は、SARSに関連した臨床検体の取り扱いのためにWHOにより用意された。

SARS(関連)検体は、実験室内感染を防止し、密接な接触者への疾病の拡大を防ぐために、適切なバイオセーフティ手法に従って取り扱わなくてはならない。主な感染経路は飛沫感染と考えられるので、防御対策なしでエアゾロルが発生するのをなくすために特別の注意を払う必要がある。この文書中で勧奨されている封じ込め設備やバイオセーフティ手法に関する詳細は、WHOのウェブサイト上の「WHO Laboratory Biosafety Manual, 2nd revised edition(PDF)に記載されている。最新の知見から、この症候群の原因である病原体はかつて知られていなかったコロナウイルスで、現在「SARSコロナウイルス」あるいは「SARS-CoV」と呼ばれている。従って実験室での手技はすべて、ウイルス病原体の取り扱いとして適切な方法でなければならない。特に、飛沫、空気、あるいは汚染表面や汚染物を介した感染拡大の可能性に強く注意を払う必要がある。もし、検体の適切な封じ込めやウイルスが無制限に拡散するのを防ぐことに少しでも問題がある場合は、いかなる実験手技も行ってはならない。

実験室におけるSARS臨床検体と実験産物の取り扱いに関するWHOバイオセーフティ指針:

以下の取り扱いは、バイオセーフティ・レベル2(BSL-2)の施設で、適切なBSL-2手法で行ってもよい:

血清と血液検体のルーチンの診断検査

不活化(溶解、固定、その他の処理)が確認されているウイルス粒子、または、非感染性の不完全なウイルスゲノムの一部の、両方あるいは一方を取り扱う手技

真菌および細菌培養のルーチン検査

追加検査のために、診断を行う研究施設へ検体を送る際の最終梱包。検体はすでに、密封し除染された輸送用の一次容器に入っている必要がある。


SARS検体の可能性があるものを取り扱う際のBSL-2実験室操作に関して、WHOは以下のような予防策をとることを強く勧奨する:

エアロゾルを産生すると考えられる手技はすべて、生物学的安全キャビネット内で行わなければならない。

実験/研究室スタッフは、特定の操作手技を行う際のエアロゾル発生のリスクと曝露のリスクに基づいて、使い捨ての手袋、袖口に折り返しがあり隙間ができないようになっている前開きでない、あるいは全身を包み込むようになっているガウン、防護眼鏡、外科用マスクかフルフェイス・シールド(顔面を完全に覆うもの)などの防護用具を着用するべきである。生物学的安全キャビネット内で作業を行っている際には、フルフェイス・シールドを着用する必要はない。

ヒトから採取した検体の遠心は、密閉型遠心用ローターあるいは、蓋付きの遠心管を用いて行うこと。これらのローターや遠心管からの検体の取り出しは、生物学的安全キャビネット内で行う。

生物学的安全キャビネットの外で行う作業は、原因病原体の不慮の飛散による曝露の危険を、最小限にとどめるような方法で行う。

作業台の表面や実験器具は、検体を処理した後に除染を行う必要がある。脂質エンベロープを持つウイルスに対して効果のある一般的な除染剤を用いれば、十分なはずである。

生物学的汚染廃棄物は、「WHO Laboratory Biosafety Manual, 2nd revised edition(PDF)に概略が示されているように、ウイルス粒子を不活化する方法で処理する必要がある。

仮に実験施設が基準ぎりぎりである場合には、最初の診断検査の時点から、適切な設備が整ったリファレンス・ラボへ検体を送付することを考慮すべきである。

以下の取り扱いは、バイオセーフティ・レベル3(BSL-3)の施設と、BSL-3の手法を必要とする。

  ・病原体ウイルスの細胞培養
  ・病原体の増殖と濃縮を含む操作

生物学的安全キャビネット内で手技や検査の一部を行うことができない場合には、個人的防御装備(例えば防毒マスクのような呼吸防護器具 [respirator] )と物理的封じ込め装置(例えば遠心分離用安全容器、密閉型ローター)を適切に組み合わせて必ず用いなければならない。

以下の取り扱いには、動物実験におけるBSL-3施設とBSL-3の手法を必要とする。

SARS検体から病原体を回収することができるかどうかを見るための動物感染実験

SARSの推定病原体の確認または特性を決定するための、動物感染実験に関連した操作全般


患者由来検体の輸送:
国内での検体の輸送は、各国の現行の規約に則って行うことが必要である。

SARSの「疑い例」あるいは「可能性例」から採取したヒト検体の国際的空輸に際しては、現行(2003年版)の国際航空輸送協会(IATA:International Air Transport Association)危険物規約に必ず従わなければならない。

  −危険物索引  
  −診断用検体の委託輸送2003
   
現行のIATAの規約(2003版)によると、SARS病原体が入っていることが分かっているか、あるいはそれが疑われる検体のすべてについて、診断あるいは調査研究の目的で移送する場合には、UN 3373「診断用検体」として輸送することができる。

これ以外の目的で輸送される検体は、UN 2814として輸送する必要があり、「感染性物質、人体に有害(重症急性呼吸器症候群ウイルス)」と記載することが必要である。

病原体の意図的継代のために準備された培養検体は、「診断用検体」として送付することはできないが、UN 2814、「ヒトに感染する感染性物質、人体に有害(重症急性呼吸器症候群ウイルス)」として送る。

輸送するすべての検体(UN 3373またはUN 2814)は、3層の梱包層から成る三重の梱包をしなければならない:

「診断用検体」UN 3373は、品質の良い梱包材で包装されなければならない。つまり、輸送中の衝撃や重荷に十分耐えるだけの強さがある梱包がされなければならない。通常の条件下での輸送で起こりうる振動、温度変化、湿度変化、気圧変化によって生じる可能性があるどんな中身の漏出も防ぐように梱包し、密封しなくてはならない。

一次容器は2次梱包材の中に梱包するが、通常条件下での輸送で壊れたり、穴が開いたり、2次梱包材中に内容物がもれたりしないように包装しなければならない。2次梱包は適切なクッション材に包み、最外層の梱包に入れる必要がある。どのような内容物の漏出によっても、クッション材やこの外層の梱包の保護作用を損なうことがあってはならない。

液 体

 

一次容器は漏出耐性で500ml以下の容量のものでなくてはならない。吸収材を一次容器と2番目の梱包のあいだに入れることが必要である。もし、複数の壊れやすい一次容器をひとつの2次梱包材に入れる場合は、容器を別々に包むか、互いに接触することを避けるように離して配置する必要がある。吸収材は一次容器の内容量全体を吸収するのに十分な量でなければならず、2次梱包は漏れ防止容器である必要がある。一次容器も2次梱包も内部圧力によって、95kPa(0.95 bar)より大きい内外圧力差が生じても漏出が起きないものでなければならない。ひとつの外装梱包容器には4Lを超えた材料を梱包してはならない。

固 体

 

一次容器は粉末などの漏出のない容器で、500g以下の容量のものでなくてはならない。もし、複数の壊れやすい一次容器をひとつの2次梱包材に入れる場合は、容器を別々に包むか、互いに接触することを避けるようにする必要がある。2次梱包は漏れ防止容器である必要がある。ひとつの外装梱包には4kg以上を梱包してはならない。

航空輸送の場合、完成した荷物の全体の外側の寸法は、最低10mm以上でなくてはならない。
梱包方法は一定の実践的基準を満たしている必要がある。

内容明細、梱包条件、印やラベル、添付書類、冷却剤に関する詳細な情報は、適当な担当局、現行のIATA輸送指針、梱包材会社、クーリエ会社(利用予定の運送会社)などへ問い合わせていただきたい。

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