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SARSトップページ > 重症急性呼吸器症候群(SARS)に関するQ&A > 一般の方向け

 

1)SARSという病気について


1 SARSはどんな病気ですか?

 SARSはSevere Acute Respiratory Syndromeという英語名の略で、日本語では「重症急性呼吸器症候群」と訳されています。中国広東省で最初の症例が起こったとされる、新型コロナウイルスの「SARSコロナウイルス」が原因の、新しく発見された感染症で、2003年に世界中で大きな問題となりました(「重症急性呼吸器症候群(SARS)集団発生の状況と近い将来に対する教訓」,医療従事者向けQ2 & Q8)。


SARSを発症している人や、SARSコロナウイルスとの密接な接触後、通常2〜10日(平均5〜6日)たって、38℃以上の急な発熱、咳、息切れ、呼吸困難などインフルエンザのような症状がみられます。発熱が初めてみられてから約1週間後に、呼吸困難や咳など、肺炎の症状が現れ始め、それとともに他の人への感染力も強くなって行きます。胸部レントゲン写真をとると、肺炎または呼吸窮迫症候群(ARDS)の所見が見られます。また香港からの報告では、下痢症状も比較的多くの方にみられ、頭痛、さむけ、食欲不振、全身のだるさ、意識がはっきりしないなどの症状が見られることもあります。前回の流行時のまとめでは、SARSの可能性があると診断された方のうち、80〜90%は発症後6〜7日で症状が改善し回復し、10〜20%の方が呼吸不全など重症化しています(「SARSの疫学に関する合意文書」,医療従事者向けQ&A「疫学・サーベイランス」)。


症状が無い時期には、他の人への感染力は無いか、またはきわめて低いと考えられています(「SARSの疫学に関する合意文書」)。また現在までのところ、熱がさがってから10日以上経過した方から、他の人に感染したという報告はありません。

2 SARSはどのようにして感染しますか?

 SARSコロナウイルスは基本的に、症状のあるヒトからヒトへと感染すると考えられています。最も感染の危険性が高いと考えられる状況は、SARS患者さんの看護や介護をしたり、同居していたり、あるいはその体液や気道分泌物に直接触れたりしたなど、「SARS患者との濃厚な(密接な)接触」があった場合です。

感染は、患者が咳やくしゃみなどをした際に飛び散るしぶき(ウイルスを含んだ飛沫)を吸い込むことによる感染(飛沫感染)が中心であると考えられます。しかし、SARSの集団発生の例を疫学的に調査した結果、例えばそれ以外の、ウイルスやそれを含んだものに触れた手指や物を介した感染(接触感染)、排泄物に触れた手を介した感染(経口感染)、特別な条件下での空気感染なども完全に否定することはできませんが、可能性はかなり低いと考えられています。

また、市場、調理のため、屠殺などで、野生動物と接触した人たちの血液を調査した結果から、一部の動物との密接な接触による感染の可能性も否定できないと報告されています。


3 SARSに感染すると必ず症状がでますか?

 SARSコロナウイルスに感染した人のうち、症状が出る割合(発症する割合)は確認されていませんが、いくつかの報告があります。香港のPrince of Wales病院での研究では、症状がないか、軽かった病院スタッフからは、SARSコロナウイルスに対する抗体が確認されず、感染した人で症状の出ない(発症しない)ことはまれであると結論されましたが、一方で、香港の献血者と健康な医療従事者を中心に行われた調査では、SARSの症状もなく、肺炎がみられなかった人でもSARSコロナウイルス抗体が陽性であったことが確認されています。こういった報告から、SARSの不顕性感染(感染はしているが症状は出ない場合)、あるいは極めて軽症な症例が存在する可能性も、現時点では否定できません。



4 SARSの検査法はありますか?

 検査法は、大きく分けて2種類あります(医療従事者向けQ5)。

1)病原体の検査: 2種類あり、ウイルス遺伝子の断片があるかどうかを調べる遺伝子増幅法と、生きたウイルスを培養して分離・同定する方法です。どちらも咽頭ぬぐい液、喀痰、血液、便、尿などで検査をします。新しく、LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法という遺伝子増幅法も開発され、検査結果が比較的速く得られるようになりましたが、依然として感染初期の診断には問題点が残っています。また、ウイルスを培養して分離する方法には時間がかかります。いずれの検査方法でも、検査結果が陰性だからといって、それだけで感染を否定することはできません。

2)血清学的検査: 血液中に抗体があるかどうかを調べるもので、これには酵素免疫測定法 (ELISA) 、免疫蛍光法 (IFA) 、中和抗体法(NT)の3つの方法があります。しかし、どの方法でも発病初期には検出されず、感染してから10日目頃から抗体が検出され始め、感染した人の多くが抗体陽性になるのには3〜4週間かかります。

参照:1)SARSコロナウイルスに関する検査対応について(5訂)




5 SARSにはどのような治療法がありますか?

  有効なSARSの治療法というのはまだ確立されていませんので、肺炎などの症状をとり、全身状態をよくするための対症療法が中心となります。症状がではじめた頃は、SARSとそれ以外の原因からの肺炎との区別をつけることは難しいため、まず、一般的な細菌性肺炎を考えた抗菌剤による治療が行われることになります。また、肺炎が重症になったときには、酸素が投与されたり、人工呼吸器がつかわれたりすることもあります。

抗ウイルス剤とステロイド剤を組み合わせた治療、インターフェロン、グリチルリチン、HIV/AIDS治療薬などによる治療で効果があったという報告もありますが、実験的治療の段階で、まだ確実に効果があると科学的に証明されてはいません。



6 SARSにかかっても治りますか?

 前回の世界的な流行の時の報告では、SARSの可能性があると診断された方のうち、80〜90%がインフルエンザ様の症状や、軽い肺炎を起こした後、6〜7日で症状が改善し回復しています(Q1参照)。10〜20%の方が呼吸不全などで重症化しており、WHOが集団発生終息後に発表した全体の致死率は9.6%、つまりSARSコロナウイルスが原因で肺炎になった方のうち100人に9人〜10人が亡くなったことになります(医療従事者Q&A疫学・サーベイランス)。しかしながらQ3にもあるように、SARSにかかっても分かるほどの症状が出ないまま治った可能性のある方もいて、実際にかかっても治った方はもっと多かったのではないかとも言われています(医療従事者向けQ12)。



7 SARSを予防するワクチンはありますか?

 実用化されたワクチンはまだありません。ワクチンの研究・開発は行われていますが、使用されるようになる前には、動物を用いた試験など、その有効性や安全性について種々の検討を重ねる必要があります。



8 SARSにかからない方法はありますか?

 予防のためのワクチンはまだありません。SARSが基本的に飛沫感染であることから(Q2参照)、手洗い、咳・くしゃみなどの症状のある人が、マスクを使用することが最も重要です。一般的には、手洗いの励行など個人衛生に気をつけること、体力や免疫力の強化、十分に睡眠をとり過労をさけることなどがあげられます。また、SARSの流行期においては、不必要に医療機関に行かないこと、また不用意に野生動物に接触しないことが勧められます。

ちなみに、消毒が必要な場合には、消毒薬としては70〜80%の消毒用アルコール、グルタールアルデヒド、界面活性剤などがあり、消毒するものや、場所、場面などで使い分けることが必要です。詳細は「SARSに関する消毒(三訂版)」を参照してください。

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