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2003/12/18


SARSに関する消毒(三訂版)

(感染症情報センター)


現在のところSARSコロナウイルス感染症は2003年9月8日、シンガポールでの実験室内での感染者を最後に患者は確認されていない。今後、SARSが再流行するかどうかは不明であるが、(1) 既存のコロナウイルス感染症は冬季に流行することが多い。(2) SARSコロナウイルスは熱には弱いが、低温では長期間生存することがわかっている。
http://idsc.nih.go.jp/others/sars/update56-data.html)などの理由により、今冬のSARSの再流行に備えておく必要があり、インフルエンザワクチンの接種などSARS及びその他の呼吸器感染症を含めた対策について、WHOの見解などを感染症情報センターのウェブサイトから紹介している(http://idsc.nih.go.jp/others/sars/index.html)。

SARSコロナウイルスへの感染の最終的な確認のためには実験室診断が必要である。SARSコロナウイルスの迅速診断キットが発売される可能性があるものの、現在は医療機関等がすぐにSARSコロナウイルスの検査が行うことは不可能であり、また検査実施機関も限られているために、SARSコロナウイルスの感染確認には時間を要することが考えられる。
従って、消毒及び清掃はSARSが確定されなくても、疑われた患者が発生した段階で実施する必要がある。最近になって、台所用合成洗剤がSARSコロナウイルスの処理に効果が高いことが実験的に確認され、家庭などでの消毒としての選択肢が増えた。SARSが臨床的に疑われる患者が発生した場合などにはここに示す例を参考に消毒を行うことが推奨される。消毒に関しての要点は以下の通りである。


1:家庭などで使用する際の一般的な消毒薬としては下記のいずれかが推奨される。
 (1) エタノール(70〜80%)
 (2) 界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)
「おおむね1リットルのぬるま湯に対して5〜10cc程度以上の台所用合成洗剤*を加えたもの。」

*効果が確認されているのは食器・野菜洗浄用の家庭用合成洗剤であり、成分として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを16%以上含むもの。

2: SARSが疑われる患者、あるいはSARSが確認された患者の部屋などの消毒にあたっては、最寄りの保健所等と相談して適切な対応を取る。手袋、マスク(サージカルマスク以上の性能のもの)、ゴーグル、ガウン等を着用して消毒作業を行う。

3:なるべく外窓を開け放し、十分な換気を行うとともに、可能な限り日光が部屋の中に届くようにする。

4: 消毒剤を噴霧することにより、ウイルス等が空気中に舞い上がる可能性が否定できないため、消毒にあたっては可能な限り清拭することが望ましい。また、消毒剤が長期間残留するほど効果があるため、唾液、体液などの汚染のある場所には、それらの十分な清拭とともに、消毒剤を用いて2度拭きすることや、界面活性剤の場合では、界面活性剤に浸したティッシュペーパーなどで汚染された場所を覆い、5分程度以上経過したあとでから拭きするなどの対応も効果的であると思われる。

5: 消毒する対象の材質などによっては、劣化、退色などを引き起こす場合もあり、心配な場合には部分的に試してから行うこと、あるいは十分な拭き取りを行うことも推奨される。また、電子機器など精密機器の消毒には、消毒剤が内部に入り込み障害を起こさないよう細心の注意を払うことも必要である。

6: エタノールについては引火性があることから、消防法、労働安全衛生法、航空法などでの規制があるため、大量に使用する場合には界面活性剤の使用が推奨される。

7: 台所用合成洗剤を溶かす場合は冷たい水よりも、温度が高い方がより効果的であると考えられている。

家庭、職場などでの一般的な消毒方法について(例)


注)SARSが疑われる患者の喀痰などが確認された場所については特に念入りに拭き取りを行うことが望ましい。

●居間・食事部屋
【対象】ドアノブ・窓の取手・照明のスイッチ・ソファー・テーブル・椅子・電話機・コンピュータのキーボードとマウス・小児の玩具・床・壁など
【方法】界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)に浸した雑巾で2度拭きする。

● 台所
【対象】食器、箸、調理器具
【方法】以下のいずれかの方法
・界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)に5分以上浸した後、通常の洗浄を行う。
・80℃以上の熱湯に10分以上浸したあと、通常の洗浄を行う。
・80℃以上の熱水洗浄をする。

【対象】ダイニングテーブル・流し台・壁・床
【方法】界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)に浸した雑巾で2度拭きする。

●浴室
【対象】水道の蛇口・シャワーヘッド・浴槽・洗面器・ドアノブ・窓の取っ手・照明スイッチ・排水溝・壁・床など
【方法】界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)に浸した雑巾で2度拭きする。

● トイレ
【対象】水洗便器と流水レバー・便座とフタ・汚物入れ
【方法】流水レバー、便座、フタについては界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)に浸した雑巾で2度拭きする。便器の内側については界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上、またはやや濃い目の溶液)を用いて、トイレ清掃用のブラシ(取っ手付きスポンジブラシなど)を用いて飛び散らないよう丁寧にこする。フタをして5分以上経過してからフタをしたままフラッシュする。使ったブラシは界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上、またはやや濃い目の溶液)の中に5分間以上漬けておく。

●その他
衣類・寝具
【方法】
(1)SARS患者あるいは疑似症患者が使用した衣類や寝具については、界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)に5分以上浸してから洗濯機にかける。又は
(2)80℃以上10分間以上のお湯につけるなど熱水洗濯を行う。


2:職場や集合住宅の共用部分
現在のところ建物全体や近所の家などに対して特別な消毒は必要ないと考えられるが、以下の共用部分などSARSが疑われる患者の手が触れた場所や、喀痰などが付着している可能性のある場所については清掃・消毒を行うことが推奨される。

【対象】

・エレベーター(昇降機)あるいはエスカレータ
特にエレベーターの呼出しボタン、停止階ボタン、エスカレータの手摺り部分
・建物への出入り口
 建築の入口にあるドアノブやハンドル、セキュリティ対応のオートロックボタンなど不特定の人が触れる部分。
・ 共用のトイレ、給水場所など
【方法】界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)に浸した雑巾で2度拭きする。トイレについては上記の「トイレ」の項目を参照のこと。

SARSコロナウイルスに対する消毒剤
より詳しい説明


推奨する消毒剤の例は、これまでに得られた知見に基づき、エンベロープ* のあるウイルスに対する消毒方法として作成したものです。適切な消毒剤についての情報は、新たなデータの集積により改定される可能性があります。

*エンベロープ(envelope)のあるウイルス
ウイルス粒子の一番外側にある膜のあるウイルス。この膜は脂質2重層に、糖タンパクが挿入された構造をとる。消毒剤を作用させたときこの膜のあるウイルスの方が膜のないウイルスよりも消毒剤で感染力がなくなりやすい。SARSコロナウイルスはエンベロープを有するウイルスである。


1. 加熱滅菌可能なもの
  (ア) 高圧蒸気(オートクレーブ)滅菌(121℃、20分)
  (イ) 乾熱滅菌(180〜200℃、1時間 あるいは 160〜170℃、2時間)
  (ウ) 煮沸消毒(98℃以上、15分以上)

2. 加熱滅菌不可能なもの
 現在のところ、その効果と入手の容易さなどから、消毒用エタノール及び界面活性剤の使用が推奨される。
・基本的に消毒剤の噴霧は避け、広い面などでは拭き取り、可能なものについては消毒剤へ漬け置きすることも検討する。
・ 消毒剤が触れている時間が長い方がより効果が高い。(床などでは界面活性剤を浸したティッシュなどで覆って5分程度置いてから拭き取りなども検討する。)

◎ 消毒用エタノール(70〜80%):
・人体に対する毒性が少なく、手指の消毒などに適している。ただし、密閉した容器に保存しないとアルコール分が蒸発し、濃度が保たれないため効果が激減する。
・脱脂効果のため皮膚が荒れることがあるので、スキンケアが重要である。
・粘膜面には使用できない。アルコール系消毒剤として、イソプロバノール(70%)が使用されることもあるが、ウイルスに対する効果はエタノールより劣っている。
・手指の消毒には速乾性皮膚消毒剤(例:商品名ウエルパス、ヒビスコールなど;塩化ベンザルコニウム又はグルコン酸クロルヘキシジン、エタノール、界面活性剤、湿潤剤含有)の利用頻度が高い。
・血液などが付着している場合などには、内部まで届かないことがあり洗い落とす必要がある。
・引火性、揮発性があるので、取り扱いに注意が必要であり、広範囲な噴霧や放置には向いていない。また、消防法、労働安全衛生法、航空法などでの規制がある。

◎界面活性剤
・ 従来のコロナウイルス及びSARSコロナウイルスに対しては有効性が確認されている(感染症研究所未発表データ)。
効果が確認されているのは食器・野菜洗浄用の家庭用合成洗剤であり、成分として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを16%以上含むものである。
・家庭用合成洗剤における界面活性剤の濃度は製品により異なるが、SARSコロナウイルスの消毒として推奨される「界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤として濃度0.5%以上)」は15-17%の界面活性剤を含む台所用合成洗剤の濃度として計算されている。これより濃度が高いものはもちろん有効である。


○過酢酸
・低濃度(0.001-0.2%)で芽胞を含むすべての微生物に対して効果がある。また、有機物が存在していても有効である。
・最終的に水、酸素、酢酸に分解し、有害物質が残留しない。
・一部の金属を腐食する。
・刺激臭がある。

○グルタルアルデヒド(2%、pH8):
・化学作用、蛋白変性作用が強く、殺菌力も強いためあらゆる微生物を消毒することが可能である。
・刺激が強いため人体には使用できない。
・器具の消毒には血液や体液を十分に除去した後、2%グルタラール液に1時間浸漬の後、十分に水洗する。
・排泄物や体液の消毒には2時間以上浸漬する方が確実である。
・床の消毒には0.2%液で清拭し、30分以上放置の後、水拭きする。
・内視鏡の消毒などには、3%液での15分消毒が過程に組み込まれていることがある。
・消毒にあたっては保護具の使用、換気が必要である。

●ホルムアルデヒド(液体:1-5%溶液、ガス:1m
3あたりホルマリン15ml以上を水40ml以上と共に噴霧又は蒸発させ、7-24時間):
・液体は医療器具の浸漬消毒あるいは清拭に用いる。
・室内の殺菌をする場合にガス状にして使用することができるが、毒性、刺激性が強い。

●エチレンオキサイドガス:
・濃度約500mg/L、55-60℃、3時間以上処理。中央材料室などで非耐熱性器具等の滅菌に利用する。その後のガス残留がないように注意する。
・吸入すると気道の炎症や吐気、めまい、神経症状を起こし、催奇性、発癌性のリスクも指摘されているため、十分に換気することが必要である。

●ヨウ素系消毒剤(ヨードホール):
・ヨウ素とキャリア(非イオン系界面活性剤)の複合体を作り、水溶液としたものである。アルカリ性になると効果がなくなり、有機物の混在によって効果が減弱する。
・喀痰や血液が付着していると効果は著しく低下する。
・一般の金属には腐食作用があり、皮膚、粘膜、布類への着色がある。
・手術部位の皮膚消毒には10%溶液、10%エタノール液が用いられる。
・手指、皮膚の消毒に7.5%スクラブ液も用いられる。
・創傷部位の消毒には10%ゲルが用いられる。
・高濃度のヨウ素系消毒剤には皮膚に対する刺激作用があり、ヨード過敏症を起こすことがある。
・うがいには7%濃度のものを添付書類の指示に従って希釈し用いられる。

●次亜塩素酸ナトリウム:
・有効塩素濃度は0.02-0.05%(200-500ppm)で1時間以上浸漬使用することが多いが、確実な殺ウイルス作用を期待するためには0.1%(1,000ppm)以上30分以上の作用が有効である。
・布、金属に対して腐食性があり、有機物が付着していると効果が低下する。
・人体には使用できない。
・リネンには0.1%(1,000ppm)で30分浸漬後水洗、食器などには水洗後0.01-0.02%(100-200ppm)で5分以上浸漬する。
・排泄物の消毒には0.1-1%(1,000-10,000ppm)濃度が有効である。
・合成洗剤入りの次亜塩素酸ナトリウム製剤の方がSARSコロナウイルスにはより有効と考えられる。

3.塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジンにも消毒効果があると考えられるが、効果が十分得られない場合が有る。
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日本医師会のウェブから一般的な消毒剤に関する情報が入手可能である。

1類、2類、3類微生物の消毒方法(pdf)
消毒・滅菌の概要(pdf)
消毒薬一覧(pdf)

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