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高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)−更新28

 2004年2月20日 WHO(原文

 

家猫の感染に関する報告(タイ)

WHOは、タイの一家庭で複数の家猫がH5N1感染したという報告を受けた。調査が行われており、現時点でははっきりとした結論に達することはできない。しかしながら、心配は大きく、感染した猫との密接な接触によるヒトへの感染の危険について、また、猫の集団における疾病サーベイランスの必要性について、いくつかの具体的な問題が提起された。

3匹の死んだ飼い猫のうち2匹のH5N1感染が、本日タイのカセサート大学獣医学部(Faculty of Veterinary Sciences,Kasetsart University)から発表された。これらの動物は、一家庭で飼っている15匹の猫の一部である。この猫のうち14匹が死亡した。死んだ猫のうちの一匹が鶏と接触しているのを、飼い主が見ていた。

*訳注:http://www.ku.ac.th/aboutku/english/参照

タイ公衆衛生省は猫での(インフルエンザ)罹患率を調査中であり、接触者の健康を検察中である。FAOも専門分野で協力している。

これらの調査結果を待つ間は、結論を求めるには時期尚早であるが、H5N1感染を猫で確認したということで、現時点のヒトの健康に対するリスクを増強する可能性があるとは考えにくい。また、将来的にヒトの間での集団発生の出現に重要な影響を与えるとも考えにくい。

幾つかの研究から、ブタ、アザラシ/オットセイ、クジラ、ミンク、フェレット(鼬の一種)を含む少数のほ乳類の種が、遺伝子学的構造からは純粋にトリ型であるインフルエンザウイルスへ感受性があり、自然感染することが分かっている。これらの種のうち、ブタだけがヒトの健康に大きな影響力を持つ。ブタは、トリ型とヒト型のインフルエンザウイルスに共感染(co-infected)する可能性があり、したがって、新しいインフルエンザ亜型が出現する結果となるかもしれない遺伝物質の混和における、「混合容器(mixing vessel)」としての役割を果たす可能性がある。ほとんどの専門家が、1957年と1968年のパンデミック・ウイルス(汎世界的流行するウイルス)の出現に、ブタが役割を果たしてと言う点で合意している。

今日まで、インフルエンザウイルスによる自然感染で起こる疾病に対し、家猫に感受性があるとは考えられてはいなかった。1970年(PDF)1972年(PDF)、1981年といった昔の研究の中には、実験室内環境での家猫の実験的感染を報告したものがあった。感染が起こった(気道からウイルスが分離された)が、すべての猫で異常は見られなかった。発熱、鼻汁、咳、くしゃみを含めたインフルエンザの典型的な症状を発症したものは無かった。これらの所見は、その他の猫がH5N1ウイルスに感染した場合に、大量のウイルスを排出しないであろうことを強く示唆する点において、重要である。

これとは対照的に、H5N1ウイルスは鳥では、気道と同様に腸管でも増殖する。現在の集団発生では、感染した鳥の排泄物中に非常に大量のウイルスが排出されており、結果として環境の広範囲な汚染につながっている。このようにH5N1ウイルスが、環境中に大量にいる状況が、ヒトの曝露とそれに続く感染の、最も重大な危険を生み出す。余りあり得ないと考えられているが、家猫が容易にH5N1に感染すると証明されたとしても、その感染が環境中のH5N1ウイルスの存在に大きな影響を与えるとは予測されない。

現在の集団発生に関与している特定のウイルス株を含めて、トリ・インフルエンザウイルスには、ヒトに効率よく感染するためのレセプター(受容体:receptor)が欠如している。

しかしながら、今回および2回の以前のH5N1型ウイルスによる集団発生でみられたヒトの感染から、このレセプターの欠如にもかかわらず、鳥類からほ乳類への感染伝播が起こり得ることが明らかになった。多くの広範な曝露とそれに続く感染の機会にもかかわらず、ごく少ない数のヒト症例の発生であったことは、ヒトも猫も含めて、鳥類からほ乳類へのH5N1感染伝播が稀な出来事であることを強く示唆する。

報告されたような家猫のH5N1感染は、歴史的に前例の無い状況下での通常では見られない出来事である。タイ当局によって行われている調査の結果は、この異常な事例の解明に重要な役割を果たすと考えられる。

インフルエンザウイルスは非常に不安定で、その動向は予測できない。現在は、各種のほ乳類において感染が疑われる症例への警戒は高く、これを維持して行く必要がある。現在見られているような、国当局への疑いあるいは確定例の獣医師による報告が、この警戒状態を継続する上での鍵となる分野である。

WHOは、ヒトおよび動物における集団発生の連続発生を解明する国際的協力の一環として、密接に相互関連しているFAO(国連食糧農業機関)およびOIE(国際獣疫事務局)と顕密な協力を行っている。

タイ(ヒト症例)の状況

2004年1月23日以来、タイ公衆衛生省は9例の、検査により確認されたH5N1型鳥インフルエンザのヒト感染症例を報告した。このうち7例が死亡した。状況は毎日、公衆衛生省の職員とWHOスタッフにより検討されている。

最初の5症例についての、タイのインフルエンザA (H5N1) の暫定的臨床像 [原文] が先週WHOにより発表された。引き続く4症例には、完全に回復した2例(2歳の男児と27歳の女性)と、13歳の男児、2月3日に死亡した4歳の男児が含まれる。全症例が、以前の更新情報で公表されている。

タイ当局は現在、さらに147件の疑わしい症状で入院した患者の報告について調査している。これらの内21件がH5N1感染の疑われる症例(suspect case)と考えられている。全員が肺炎の臨床診断である。8人が死亡し、8人が完全に回復し、5人が依然入院中である。

症例の調査は3つの流れに沿っている:検査診断、感染源の可能性があるものの疫学的追跡調査、疾病の臨床的特徴の検討である。

調査中例の126人の患者について、最終的な診断検査の結果がまだ入手できていない。ウイルス分離検査の結果も保留である。この検査には最高14日までかかり、初期のPCR法による結果を確認し補完するために用いる。リアルタイムPCR検査(real-time PCR)の装置の追加を含む、最近行われたタイ国立衛生研究所(National Institutes of Health)の研究設備の強化は、臨床検体の処理を促進し、したがって報告から初期の検査診断結果を得るまでの時間を短縮している。126人の患者からなるこのグループの中で、感染家禽への曝露の可能性か、疾患の臨床像のいずれかについての詳細情報をさらに得るために、19人が依然調査中である。

タイのサーベイランスシステムは高い警戒水準にある。本日までに、510の報告が保健当局の注意を引いた。これらの内354件は、続く検査、疫学、臨床面からの徹底した調査により検討対象から外された。

最後に発表された確定例は北東の県であるコーンケーン県 (Khon Kaen Province)の4歳の男児であった(更新26参照)。彼の家族は鶏を飼育しており、この小児の発症のちょっと前にその多くが死んだ。

最近報告された感染が疑われる症例のひとつに、南部の県の2歳の女児がいる。この家族の家禽は、彼女の発症の7日前に死んでいる。症例はまだ、検査による確認が終わっていない。本日までのところ、この県での家禽類のH5N1感染が報告されていないため、農業省に情報提供され、現在その地域の動物の疾病状況を調査中である。

本日までのところ、ヒト−ヒト感染が、タイ国内で起こったことを示唆する証拠は無い。

タイ当局が注目する報告数は減少しており、今週のその数は少ない。農業省は現在、今週初めに検知した、以前に広範囲の殺処分を実施した県の家禽類における、感染の再発生への対応を行っている。一層の拡大を防止するために、新規に影響を受けた地域での迅速な殺処分が現在行われており、それによって疾患が蔓延する機会を減少させることになる。

タイ公衆衛生省は、WHOの全面的支援を得て、継続した警戒と強化サーベイランスの必要性を強調している。

日本(家禽類)の状況

日本当局は、大分県で検知された国内2件目の鳥インフルエンザの集団発生が、H5N1型の株により引き起こされたことを確認した。

中国(家禽類)の状況

本日までのところ、中国当局は16の省での53件の集団発生を報告した。このうち49件がH5N1型の株によって起きたことが確認された。現時点で、推定120万羽の鶏、アヒル、ガチョウが殺処分された。

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(2004/2/23 IDSC掲載)