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鳥インフルエンザA(H5N1)の感染制御:公衆衛生上の懸念

 2004年2月10日 WHO(原文

 



現在、アジアの一部で見られている、家禽類における高病原性H5N1型鳥インフルエンザの集団発生は、農業分野への直接的で深刻な影響を及ぼしている。ヒト症例は、多くの死亡者を出しているが、広範囲の家禽類の集団発生を伴い、ベトナムとタイの2ヵ国から報告されている。

家禽類での集団発生が急速に拡大している他の国々でもまた、ヒト症例が検知されることが予測される。

現在検知されているヒトの症例数は、広範な地理的広がりをみせている感染鳥類の分布状況に比べると、非常に少ない。このことから、H5N1型のウイルス株が、容易にヒトへ感染するわけでは無いだろうことが示唆される。

本日までのところ、ヒト−ヒト感染の発生は確認されていない。しかしながら、家禽類において継続的に感染がみられることは、ヒトの間で容易に広がる能力を持った、新型のインフルエンザウイルス亜種が出現する機会を提供し、ひいてはインフルエンザ・パンデミック(インフルエンザの世界規模の大流行)を開始することにもなり得る。そのような稀な出来事がもしも起こったとしたら(前世紀中に3つのパンデミックが興っている)、直ちに世界中の人々の健康に対して深刻な影響を及ぼす。

この様な理由から、当面の無視できない家禽類における経済的損失と、可能性はあるが未だ予測のつかないヒトへの影響を比較検討する際には、現在発生しているH5N1の状況の公衆衛生上の懸念に対して、高い優先順位が与えられなければならない。

動物における他のいくつかの疾病がヒトへ感染伝播することができる。これらの「人獣共通感染症(zoonoses)」として知られる疾患の事例は、ヒトの健康を守るために必要であることから強制導入された、厳格な動物の健康を守る対策が、消費者の信頼を再獲得する助けとなったことを示していた

最近の事例はまた、動物間の感染の拡大を止め、経済的損失を最小限に止めることを目的とした、人獣共通感染症の感染制御対策は、ヒトの健康への長期的リスクを減少させる対策と、密接に協調している必要性があることを示している。現在の状況において、家禽類での疾患を制圧することを目標にした対策は、環境内でのウイルスの存在も減少させ、したがってヒトが曝露や感染をする機会も減らす。この様な対策は緊急に実施し、ヒトの健康を守ることを最優先させなければならない。前回の高病原性鳥インフルエンザに関連したヒトの感染は、香港やオランダといった、家禽生産が高度に産業化し、保健および農業分野の基盤がしっかり整備された地域で起った。それでも、家禽類における感染の制圧の実施は複雑で、困難、かつ犠牲の大きいものであった。両方の集団発生とも、感染家禽群の即刻処分、農場の検疫と消毒、厳格なバイオセキュリティー、動物の移動の禁止、農業従事者への補償によって、次第に制御された。

現在の状況はそれとは異なっている。高病原性鳥インフルエンザの集団発生の感染制御は、家禽類が放し飼いにされている地域では特に困難であることが知られている。感染が広がる国々幾つかでは、最高で家禽群全体の80%までが、小さな裏庭農場で飼育されている。地方の家庭のほとんどが小さな放し飼いの群れを飼っている。

現状のこのような特徴を考慮すると、H5N1型ウイルスが、この地理的地域の鳥類のあいだに定着するようになり、おそらくは世界の他の部分へ広がっていく可能性がある。これは2月3日−4日にローマで開かれた、「鳥インフルエンザの制御に関する FAO/OIE/WHO共同専門家諮問会議原文)」において達した幾つかの結論のうちのひとつである。

動物における感染制御に対して、利用可能な唯一の青写真というものは無い。ヒトに対するリスクの軽減策も同様である。過去40年間以上のあいだに、わずか18の高病原性鳥インフルエンザの集団発生が世界中で起きたが、ほとんどがH5N1ではない株によって起こされたものであった。現在手持ちの事実は、感染が広がる国々での迅速で効果的な対応に対し、普遍的に適用できる提言を提供するために十分なものでは無いと考えられる。

感染制御対策は、各国独自の疫学的状況と対応能力に合わせ、保健医療分野と農業分野が協力して調整して行かなければならない。農業担当当局は、家禽類におけるH5N1の保有宿主を迅速に一掃するという当座の問題に直面する。感染が広がる各国当局は協調し、共に取り組んで行く必要がある。

ヒトおよび動物における疾患の発生報告における透明性が、絶対的に必須である。

多くの不明な点があるにもかかわらず、感染および曝露を受けた鳥の即時処分が、ヒトの健康を守るためと、農業分野におけるこれ以上の損失を減らすための両方から、第一線の防御であることで専門家の意見は完全に一致している。この他の対策、たとえば健常な群れへのワクチン接種は、感染拡大の防止策と共に行われるならば、補助的な役割を果たす場合も幾つかの事例でみられる可能性がある。WHOは、殺処分が確実にこれ以上ヒト症例を増やさないような方法Update5)で行われることが必要であり、家禽類へのワクチン接種によって、警戒の緩和や他の必要な感染制御対策の緩みへとつながっていはならないと、繰り返し強調してきた。

この状況に呼応しWHOは、1)インフルエンザ・パンデミックを阻止する、2)現在のヒトにおける集団発生を制御し、これ以上の拡大を防ぐ、3)H5N1に対する新たなヒト・ワクチンの迅速な開発を含めた、より良い危機管理対策と対応に必要な研究を実施するという、3つの戦略的ゴールに重点を置く。WHOは、これ以上ヒト症例が出る危険を減少させ、強調した国際的対応を推進するために、一連の専門分野別指針原文)を発表した。



1高病原性鳥インフルエンザはOIE(国際獣疫事務所)によって「リストA」に分類されている疾患である。リストAには感染が伝播する疾患で、「国境を越えた、非常に深刻で迅速な拡大の可能性があり、深刻な社会経済および公衆衛生上の影響を及ぼし、動物および動物由来製品の国際貿易上の主要な関心事であるもの」が含まれる。

2その一例は、畜牛におけるウシ海綿状脳症(BSE)、あるいは狂牛病の拡大であり、稀ではあるが、必ず死に至る新しいヒトの疾患の発生につながった。

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(2004/2/12 掲載)