A: 破傷風トキソイドは1994 年(平成6年)10月の予防接種法改正により、定期接種として生後3カ月〜90カ月未満に三種混合ワクチン(DPTワクチン)として4回、11〜12歳に二種混合ワクチン(DTトキソイド)として1回、個別接種で実施されていますが、ご質問にありますように、それ以前は色々な形で接種が行われてきましたので、これまでの経過を述べておきます。
1940 年代後半から1950 年代前半にかけて、ジフテリア、百日咳単味ワクチンが接種されるようになり、その後、ご質問にありますDPワクチンが1950 年代後半から接種されるようになりました。その後1964 年(昭和39 年)からはDPT ワクチンの使用が一部で始まり、1968年(昭和43年)からは、DPTワクチンが多く用いられるようになっています。ただし、この頃のワクチンは全菌体百日咳ワクチンを含むDPTワクチンであったため、副反応が問題になったことと、死亡例がみられたことなどから、厚生省は1975 年(昭和50年)2月1日に、百日咳ワクチンを含む予防接種の一時中止を指示しています。一部の地域ではこの頃、DTトキソイドを用いていたところもあるようですが、具体的にどこが使用していたかはわかりません。
しかし、百日咳患者が増加傾向にあったこと、百日咳は早期に免疫を与えることが有効であるとの認識の元、厚生省は地域の特性を生かした接種(患者発生にあわせた接種)を行うよう通達を出し、同年(昭和50 年)4月からDPTワクチンの接種が再開されました。ところが、副反応を恐れてDPTワクチンの接種を控えていた地域も多くあったようです。ご質問の昭和50年前後に生まれた方というのは丁度この頃に相当するかと思います。その後、百日咳ワクチンの改良がすすみ、1981年(昭和56年)からは無菌体百日咳ワクチンを含む沈降精製DPT ワクチンが使用できるようになりましたので、多くの地域でDPTワクチンが接種されるようになりました。
このように使用されていたワクチンは様々ですので、現段階では母子手帳の記載を信じるしか方法はないように思いますが、前述のようにワクチンの種類が多くありますので、DPワクチンの記載がDTトキソイドの誤りであるという可能性は完全に否定できません。細菌製剤協会から発行されている「ワクチンの基礎−ワクチン類の製造から流通まで2001 (平成13年)」という資料からワクチンの生産実績を調べてみましたところ、DP ワクチンの生産は昭和42年4,581L、昭和43年4,983L 、昭和44年2,438L 、昭和45年767L 、昭和46年1,189L、昭和47年793L、昭和48 年214L、昭和49 年30L、昭和50 年85L、昭和51 年0L、昭和52 年0L となっています。もしも、この方の接種日が昭和51年以降かなり経過しているようならば、DPワクチンである可能性は低いように思います。
職務上必ず接種することを前提とすれば、母子健康手帳の記載内容に誤りがないか、予防接種実施市町村に確認するのがいいでしょう。もし、破傷風の予防接種を接種していないようであれば基礎免疫から行っていただき、免疫をつくっていただくことをお勧めします。
確認してもわからない、または不確実であるようであれば、抗体検査を行い確認し、抗体がないようでしたら、接種していない場合と同様に行うことをお勧めします。
なお、接種にあたっては必ず添付文書を確認の上、適切に実施してください。。
(感染症発生動向調査週報 IDWR 2002年第28週)