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Vol.6 (1985/9[067])

<国内情報>
Echo16を検出した集団下痢症について


昭和59年7月2日,栃木市の一小学校で在籍児童746名中“カゼ”様疾患による欠席者149名,罹患登校者255名の発生報告があり,約2週以前より欠席者の増加がみられていたが,6月29日にピークに達した旨の届出があった。校医の診断は感冒様下痢症であったが,主症状としては腹痛,下痢,発熱,嘔吐を認めている。同地域内の他の小・中学校では類似症状は認められず,同小学校に限定される起因が推定されたので,学校給食関係からの罹患に懸念がもたれ,7月3日に至り,採取可能な保存検食,飲料水,給食従事者および有症児童について食中毒起因細菌の検査を実施したが,その結果は全て陰性であった。なお,同校プールは上水道使用であるが,児童飲料用水,給食調理用水は自家井水(小規模水道)使用であり,水源より高架タンクに貯水し,給水されていた。当時残留塩素0.1ppmを認め,給水装置の異状も認められなかったが,水源と浄化槽が5mと接近しており,平素の浄化槽維持管理に何らかの疑念がもたれた。

届出後の保健所調査では,6月11日頃よりさみだれ的に欠席児童がみられ,有症者も6月17日頃より発生し,6月28日には欠席233名(32.1%),有症者135名(18.6%),発症者累計で583名(80.4%)に達した。

細菌検査陰性のため,ウイルス性疾患を疑い,下痢症者8名の生便についてウイルス分離を試みた。接種細胞にHEL,CMK,HeLa−S3を使用したが,HELにのみ感受性があり,初代で3/8にCPEを認めた。3代で回収しSchmidt pool血清で同定を行ったが,中和組合せ試験ではクリアーな判定はできなかった。各単味血清に当たったところ,Echo16抗血清(デンカ生研)で中和がクリアーに成立した。さらに,有症者のペア血清について分離ウイルスで中和抗体測定を行い2/4に有意上昇を認めた。以上の結果,極めて少数例の血中抗体レスポンスではあるが,Echo16と決定した。本下痢症例の原因をEcho16型ウイルスによるものと考えるにはやや無理もあるが,この様な集団下痢症例のあったことを紹介するものである。

病原微生物検出情報によると,昭和59年中に分離されたEcho16は,全国で46株で近年になく多くみられ,分離季節は6〜10月に集中し,本県例にも似ているが,このことより今回の事例中にたまたま,症例とは無関係にEcho16が発見されたものとも考えられ,特に昭和59年中にEcho16を分離している愛知(5),秋田(1),栃木(3),岐阜(3),大阪(3)の症状では発熱は全例にあるものの胃腸炎症状の報告は少ない。あるいは発熱,発疹,上気道炎タイプと発熱,胃腸炎タイプがあるのかとも推定されるが,エンテロウイルスの感染の場が最初腸管であることから下痢と何らかの関係もあり,随伴症状として現れる胃腸炎を主症状としてチェックしているかもしれない。

いずれにしても胃腸炎を伴う感冒様疾患は各種ウイルスによって児童に起こりうるが,ただ今回の例の特徴として,季節が6〜7月で単一集団の発生で3週余に及ぶ発生からみても,飲料水系統等によるエンテロウイルスの汚染によるものと考えられるところが大きかった。



栃木県衛生研究所 中井定子


表1.日別欠席者・発症者数
表2.学年別有症者数
表3.症状別発症者数(725名調査)





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