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Vol.2 (1981/10[020])

<国内情報>
アイスクリームによるS. enteritidis食中毒事例


本年1月から9月15日までの富山県における食中毒届出件数は15件で,その内訳は,ブドウ球菌4,腸炎ビブリオ4,サルモネラ1,病原大腸菌(推定)1,セレウス菌(推定)1,植物性自然毒2,不明2となっている。猛暑のわりには腸炎ビブリオが少なかったが,これらのうちで今後に問題を残したと思われるアイスクリームが原因となったS. enteritidis食中毒事例を紹介したい。

事例の概要:発見の端緒となったのは,一患者からの富山保健所への通報(7月20日,17:00,7月16日から発熱,頭痛をともなう腹痛,下痢患者が数名いるので検査してほしい旨の内容)であった。同保健所の疫学調査の結果,富山市内のある氷菓子店で,7月15日に自家製造,販売した白アイスクリーム(成分規格からは氷菓)を摂食した39名の中から,発熱,頭痛,腹痛,下痢を主症状とする食中毒患者が23名でたことが判明した。前述の通報者はそのうちの1グループ6名中の1人であり,6名とも別々に開業医を訪れていたが,それぞれ夏かぜによる下痢などという診断を受けていたということであった。通報が遅れた理由は,同グループ6名の勤務先がそれぞれ異なっていたためであろう。同保健所で検査の結果,患者15名の糞便中12名と,一患者宅のフリーザーに保存されていた同一ロットの2ケのアイスクリームからサルモネラが検出され(アイスクリーム中の菌数は6.9ラ104および9.4ラ103/g),当研究所においてそれらはすべてS. enteritidisと同定された。

汚染の原因究明:同店では白アイスクリーム,抹茶アイスクリーム,氷水を製造販売しているが,7月14日まで,あるいは7月16日以後の製品については全く問題がなく,7月15日製造の白アイスクリームの1ロットのみ(100ケ分で同日11:30〜16:15までに販売されたもの)が事件に関連していることが判明した。その製造工程は概略次のようである。角寒天,コーンスターチ,砂糖の順で加熱溶解し,こして調合容器に入れた後加糖練乳を加え,更に加熱溶解後,全量を2分して2本の冷却缶(1缶100ケ分)に入れ,0℃まで冷却後,生卵を1缶に5ケ入れて攪拌,−26℃で冷凍機用まわし缶に入れて冷却,アイスストッカーに保存(製品温度−16℃),それを販売している。製造者の言によれば,当日の生卵中3ケに異常を認めたのでそれは取除いたということであった。生卵以外の成分はすべて充分に加熱処理されており,持ち帰り用モナカの皮も汚染されておらず,施設のふきとりからも全くサルモネラは検出されていない。

このような状況を勘案すると,特定のロットに加えられた生卵の中にサルモネラ汚染卵があったと推定され,しかもアイスクリーム中では菌が増殖する条件は全くないことから,生卵中でかなりの菌数−5ケの平均値としてアイスクリームの菌数から逆算して105〜106/g−があったと推定される。この生卵は一米穀商から7日8日,13日または15日に各2箱購入したものの中から使われていたが,購入日を特定することはできず,卸売商と,生産地が小矢部方面であるということまでは確認されたが,その先は不明であった。

今後の問題:生卵は日本人の食生活にはほぼ欠かせないもので,現今それによる事故は滅多にない。実際にこの氷菓店でも,前述の生卵を使う製造法を50年以上続けていたということで,それがまた店の人気の秘密でもあったらしい。もちろん事故は今回が初めてである。

アイスクリームの原材料はすべて加熱処理すべきこととなっているが,今回の事故を契機として,小規模に自家製造されているアイスクリームには生卵が非加熱のまま使われていることを我々は初めて知ったような次第である。いささか盲点のようであるが,日本人の食生活嗜好を考えると,全国的に調査を行えば,同様の製造方法がかなり採用されていることが予想される。この事例を紹介して関係者の注意を喚起するとともに,やはりアイスクリームの原材料すべてを加熱処理すべきことを徹底させたい。

本稿作成にあたり,詳細な疫学調査資料を提供していただいた富山保健所衛生課長荒尾行雄氏に感謝します。なお,事例の概要のなかで,潜伏期,症状等は典型的なサルモネラ食中毒のそれであったので省略しました。



富山県衛生研究所 児玉博英





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