HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.2 (1981/10[020])

<国内情報>
広島県下で発生のみられたSalmonella miyazaki食中毒事例について


Salmonella miyazaki(以下S. miyazakiと略す)は1955年福田,笹原らにより宮崎市内に発生した食中毒患者より,新抗原型サルモネラとして分離をみて以来,時折同市内にてヒトの散発,食中毒例の発生がみられる。また,環境からの分離例も宮崎市の下水からのものが多く,他では佐賀県,札幌市においてわずかの分離報告をみるにすぎない。すなわち,S. miyazakiは極めて地域に偏在する菌型といえよう。

ところで,本年6月14日広島県下の某高校で発生した食中毒原因物質検索にあたり,S. miyazakiによる食中毒に遭遇し,宮崎県以外で発生のみられた最初の事例と思われるので,その概要を速報する。

(発生状況)6月18日,全寮制高校(島嶼部)の給食担当者より保存検食の検査依頼が管轄保健所にあり,事情聴取したところ食中毒の疑いがもたれ,ただちに校医に連絡し,診断の結果「食中毒の疑い」として同日届出がされた。同校は全寮制で朝,昼,夕食とも集団給食を実施していることから,同給食場を原因施設と断定し,究明のための調査を開始した。

患者発生は初発が14日にみられ,16日がピークを示し(85名),終発が20日という1週間にもわたるものであった。通常のサルモネラ発症様式とは様相をやや異にしており,単一暴露とも考えられるものの,過去宮崎市の事例における発症時間(12〜21時間,平均17.5時間)からみると,4〜5日間の連続暴露も推測される。患者総数はスタッフを含め395名中157名(発病率39.7%)に及び,主要症状は下痢(86.6%)と下腹部痛(76.4%)で,便性は94.9%が水様,回数はバラツキがみられたが平均5回であった。発熱は28.6%(45名)にみられ,うち39℃以上の高熱は2名のみであった。

(菌検索状況)食中毒原因菌検索(8項目)は常法どおり実施し,患者便132件中107件(81.1%),スタッフ便13件中8件(61.5%)からそれぞれS. miyazakiをほぼ純培養状に分離をみた以外,原因菌と思料される菌分離はみなかった。なお,同時に菌検索を実施した保存検食(15〜17日の朝,昼,夕食)28件からは菌分離をみず,原因食品は不明に終った。なお,毎朝食献立に生卵が入っていたが,手違いにより採取されていなかったことを付記する。

(分離菌株の性状および薬剤感受性)分離菌株の生化学性状は宮崎で最初に分離された鬼束株と一致しているが,薬剤感受性についてはP,S,K,Te,Olの各薬剤に対し耐性を示し,鬼束株とは相違がみられた。

(まとめ)今回のS. miyazaki分離例は広島県下で初めてであり,全国的にみても食中毒事例では宮崎以外では最初のものと思われるので,あえてその概要を報告したものである。今回の分離株がどのような経路で出現したかは究明しえなかったが,S. miyazakiの報告の歴史をみると,1955年最初の分離をみたのち,1968年までには環境,動物等の幅広い分布調査がなされたにもかかわらず,全く分離をみていないが,1970年以降頻繁に分離をみるようになっている。このことから広島県においても近い将来,環境等からの分離がみられることも予測されるので,幅広い分布調査の必要を痛感している。なお,詳細については現在調査中の鶏卵等の結果を加え,後日報告したい。



文 献

1) Fukuda, T., Sasahara, T., Kitao, T., Tanigawa, H., Fukumi, H. & Murata, Y.:A New Salmonella type:Salmonella miyazaki(9,12:1,z13:1,7),Jap. J. Med. Sci. & Biol., 11:13−14,1958

2) 笹原徹,谷川博利:宮崎市内の野犬のサルモネラ菌検査成績,日本獣医師会雑誌,11(9):426,1958

3) 笹原徹,福田武夫,月足正成:赤痢様患者からのSamonella miyazaki菌の検出例について,日本伝染病学会雑誌,42(7):187−188,1968



広島県衛生研究所 岸本敬之





前へ 次へ
copyright
IASR