The Topic of This Month Vol.31 No.8(No.366)

HIV/AIDS 2009年
(Vol. 31 p. 226-227: 2010年8月号)

わが国のエイズ発生動向調査は1984年に開始され、1989年〜1999年3月まではエイズ予防法、1999年4月からは感染症法に基づき、診断した医師の全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集のHIV感染者数*AIDS患者数* は厚生労働省エイズ動向委員会による平成21年エイズ発生動向年報(平成22年5月27日確定)に基づく(同年年報は厚生労働省疾病対策課より公表される:http://api-net.jfap.or.jp/status/2009/09nenpo/nenpo_menu.htm)。

1.1985〜2009年までのHIV/AIDS報告数の推移:2009年に新たに報告されたHIV感染者は1,021(男965、女56)で、2008年(1,126)、2007年(1,082)に次ぐ過去3位の報告数であった。AIDS患者は431(男407、女24)で、過去最高であった2008年と同数であった(図1)。なおこの他に、「血液凝固異常症全国調査」において血液凝固因子製剤によるHIV感染者が累計で1,439(生存中のAIDS患者171・死亡者648を含む)が報告されている(2009年5月31日現在)。ちなみに全数を捕捉しない任意報告であるが、2009年に厚生労働省疾病対策課に病変報告として報告された死亡例は9(日本国籍男性8、外国国籍女性1)であった。

国籍・性別:2009年は日本国籍男性がHIV感染者全体の88%(894)、AIDS患者全体の90%(386)を占め、AIDS患者は増加した(図2)。日本国籍女性、外国国籍男性・女性HIV感染者の報告数はそれぞれ38、71、18で、AIDS患者は15、21、9であった。

感染経路・年齢群別:日本国籍男性HIV感染者、AIDS患者ともに同性間性的接触(両性間性的接触を含む)が多い(図3)。2009年の日本国籍男性HIV感染者のうち同性間性的接触によるものは74%(659/894)を占め、30代(287)、20代(210)が多い(図4)。また、日本国籍男性AIDS患者のうち同性間性的接触によるものは53%(205/386)を占め、30代(97)、40代(48)で増加が続いた(図4)。日本国籍女性は、ほとんどが異性間性的接触による。静脈薬物使用によるものは、2009年のHIV感染者、AIDS患者合計8(日本国籍者6、外国国籍者2)で、これ以外に静脈薬物使用と性的接触の両方を報告したものが5あった。母子感染の報告はまれで(本号5ページ)、2007〜2009年はない(2010年は6月までに2例報告されている)。

推定感染地域:日本国籍者では男女ともに国内での感染が多く、2009年はHIV感染者の90%(男性90%、女性76%)、AIDS患者の80%(男性80%、女性67%)を占めた。また、外国国籍男性のHIV感染者でも2001年以降国内感染が国外感染を上回っており、2009年は51%(国内36、海外11、不明24)を占めた。

報告地:2009年にHIV感染者が届け出られた都道府県別では、東京(374)、大阪(171)、神奈川(57)、愛知(54)、福岡(38)、千葉(34)、兵庫(31)、埼玉(27)、広島(24)、北海道(23)の順で、人口10万対報告数では東京(2.91)、大阪(1.94)、沖縄(1.09)、広島(0.84)、山梨(0.80)、福岡(0.75)、愛知(0.73)、神奈川(0.64)、千葉(0.56)、兵庫(0.55)の順に多かった。

2.献血者のHIV抗体陽性率:2009年は献血件数5,287,101中102(男96、女6)の陽性者がみられ、献血10万件当たり1.929(男2.693、女0.348)と、2008年(2.107)を下回った(図5)。

3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は、2009年は150,252と減少し(図6)、陽性件数は442、陽性率は0.29%(2008年0.28%)であった。このうち保健所での検査陽性率は0.24%(289/122,493)に対し、自治体が実施する保健所以外での検査陽性率は0.55%(153/27,759)と、昨年までと同様に、利便性の高い保健所以外での検査の陽性率が高かった。また、相談件数も 193,271件と減少した。

4.HIV-2:HIV-1が世界中で広く流行しているのに対し、HIV-2の流行は地域的にもいまだ限定的で、感染例の多くは生涯を無症候のまま経過するとされる。しかし、2004年以降に国内感染とされる2例を含む5例の報告があり、うち3例のウイルスで遺伝子組換えが認められた。さらにこの3例はAIDSを発症しており、今後HIV-2にも注意が必要である(本号7ページ)。

5.抗HIV治療と薬剤耐性:近年薬剤耐性を誘導しにくい抗HIV治療薬が開発され、薬剤耐性獲得による治療の失敗は減少しているものの、従来の薬剤で治療され既に多剤耐性を獲得した症例では治療に難渋する症例が依然、問題となっている(本号8ページ)。

まとめ:増加が続いていたHIV感染者の報告数は2009年に減少したが、自治体が実施したHIV相談件数・検査件数はともに減少しており、新型インフルエンザ流行時のHIV検査機会の減少の影響があった可能性を考慮しなければならない。

わが国では、20〜30代の日本国籍男性の同性間性的接触による国内での感染を中心に、HIVの感染拡大が続いているものと考えられる。同様の傾向は欧米においても認められている。英国および仏国の新規HIV感染者は2008年にそれぞれ7,370、4,068と報告され(http://www.avert.org/aids-europe.htm)、米国では毎年56,300と推計されている(http://www.cdc.gov/hiv/resources/factsheets/us.htm)。日本国籍男性の同性間性的接触による30〜40代のAIDS患者は2009年も増加が続いており、早期検査受診の促進が最も重要である。各自治体においては、地域の患者発生の特性に応じ、男性同性愛者(本号3ページ4ページ)、青少年、性風俗産業従事者およびその利用者、増加が著しい20〜40代男性などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談機会の提供、受診しやすい環境の整備などの工夫が望まれる。また、対策を講ずる際には、必要な関係者(教育関係者、医療関係者、企業、NGO等)と協力して実行することが重要である(本号3ページ4ページ)。

*AIDS患者報告:診断時点で既にAIDS指標疾患を発症しているHIV感染者の報告である。つまり、これらの感染者は、AIDSを発症するまでHIV感染に気付いていなかったと考えられる。

*HIV感染者報告:HIVに感染後AIDS指標疾患を発症する前の期間(平均10年)内に、何らかの機会(血液検査、病院受診、献血等)に感染が判明した場合の報告である。いったんHIV感染者として報告されると、AIDS指標疾患を発症してもAIDS患者としては報告されない。

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