B型インフルエンザウイルスの流行:1998年5月〜12月−静岡県

国内では非流行期である夏季にインフルエンザウイルスが分離されることは少なく、特に集団発生の報告は稀である。今回は、5〜7月に静岡県内の小中学校でインフルエンザの集団発生があり、その分離株と同一の抗原性をもつウイルス株が次シーズンの流行インフルエンザウイルスとなったので、その概要を報告する。

インフルエンザ非流行期である1998年5〜7月に、静岡県西部(掛川市、浜松市)の小中学校15校の2.3%〜7.0%にあたる生徒が発熱、咳、頭痛を主訴として欠席した。流行は各校とも全校に広がらず、学級単位で起きた。MDCK細胞を用いてB型インフルエンザウイルスが分離された(IASR Vol.19、No.8、1998参照)。

インフルエンザの流行要因としては、気温と湿度の影響が大きいといわれている1)が、1998年5〜7月の静岡県地方の気温、湿度などは平年並みであったことから、今回の夏季の流行には気象条件の関与は考え難い。同年7〜9月に静岡県内の245人を対象に行った抗体保有状況調査によると、今回の分離株の類似株(B/北京/243/97)に対する抗体保有率は、特に学童年齢で低い結果であったことから、今回の流行は、ウイルス側および宿主側の要因により起きたものと推察される。

国立感染症研究所ウイルス第一部呼吸器系ウイルス室に依頼した分離株の抗原解析の結果、分離株抗原はB/愛知/55/88、B/山形/16/88、B/パナマ/45/90、B/三重/1/93およびB/北京/184/93に対する抗血清とは反応せず、抗B/広東/05/94血清のHI価は1:20(ホモ価1:160)、抗B/北京/243/97血清では1:80〜160を示し(ホモ価1:160)、B/Victoria/2/87で代表される進化系統樹上に位置することを示した。

次シーズンの流行インフルエンザウイルスを予測することは、蔓延防止の観点から社会的に重要であるが、いまだ困難な場合が多い。今シーズンに入り1998年11〜12月に発生した静岡県中部(清水市、富士宮市、静岡市、焼津市)の小中学校における集団かぜのウイルス検索では、5校の50人中42人から分離された株はB/Victoria/2/87類似株であり、夏季の分離株が次シーズンの流行株となった(IASR Vol.19、No.12、1998参照)。本ウイルス株による流行は、インフルエンザ流行情報(1998年12月24日付)によると、静岡県内に限局した地域流行であり、夏季におけるインフルエンザ調査は、当該地域における次シーズンの流行株の予測に役立つことが明らかとなった。夏季にも本疾患が流行することを念頭においた検査・監視体制の整備が望まれる。

分離株の抗原解析を実施していただいた国立感染研ウイルス第一部呼吸器系ウイルス室・根路銘先生に深く感謝いたします。

 文 献
1) Harper G. J. : Airborne micro-organisms: survival tests with four viruses. J. Hyg. Camb. 1961;59:479−486.

静岡県環境衛生科学研究所
佐原啓二 杉枝正明 長岡宏美 三輪好伸 宮本秀樹

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