国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



国内医療機関における新型インフルエンザ(A/H1N1)
抗ウイルス薬による治療 ・予防投薬の流れ Ver.2

          
2009年5月20日

国立感染症研究所 感染症情報センター
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新型インフルエンザ(A/H1N1:以下、新型インフルエンザとする)は、2009年5月20日現在、兵庫県、大阪府で多数の患者が確認されており、神戸市では入院は重症化例のみとする対応に切り替えが始まっている。

そこで、Ver.2では、現時点での国内医療機関における抗ウイルス薬による治療・予防投薬の流れにつき記載するものであり、疑似症例発生に伴う診断、積極的疫学調査ならびに感染拡大防止策に関しては、それぞれのガイドラインを参照のこと。

 

要旨



  • 現時点での海外情報によると、リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)またはザナミビル(商品名:リレンザ)は効果が期待されるが、アマンタジン(商品名:シンメトレル)またはリマンタジンには耐性である。
  • 海外情報によると、抗ウイルス薬を使用しなくても治癒している例もあり、軽症の症例が多いものの、一部のハイリスク者(高齢者、基礎疾患のある人、妊婦や乳幼児など、かかると重症化する恐れのある人)では注意が必要である。
  • 最適な投与時期・投与量・投与方法は、新型インフルエンザに対する情報が限られた現段階では、季節性インフルエンザでの効果を基に判断せざるを得ない。
  • 10代の新型インフルエンザ患者への抗ウイルス薬(リン酸オセルタミビル)の使用については、季節性インフルエンザに対する使用における異常行動との関連で出されていた使用制限は現時点でも継続しているが、医学的な理由により投与せざるを得ない場合は、投与後2日間の患者の健康状態の観察は十分に行う。
  • 0歳児や妊娠している女性等への抗ウイルス薬の使用に関しては、以下の内容を考慮の上、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に投与する。
  • 予防投薬は、現在の国内患者発生をふまえ、抗ウイルス薬の適正使用に努めることが重要であることから、原則として、患者と十分な防御なく濃厚に接触した者で、インフルエンザに罹患した場合に重症化が予想されるハイリスク者を対象とする。




治療

 現時点での治療に関する情報は、十分とは言えないが、これまでに海外で報告された症例のほとんどは軽症である[1,2]。治療及び抗インフルエンザウイルス薬(以下、抗ウイルス薬)の投与なしに完全に回復している症例もあるが、一部のハイリスク者(高齢者、基礎疾患のある人、妊婦や乳幼児など、かかると重症化する恐れのある人)では注意が必要である[3]。

 WHO[4]や米国CDC[3](以下CDC)等からの海外情報に基づくと、新型インフルエンザの治療に利用可能な抗ウイルス薬は、リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)またはザナミビル(商品名:リレンザ)であり、CDCはその使用を推奨している。一方、アマンタジン(商品名:シンメトレル)とリマンタジン(国内発売されていない)には耐性であると報告されている。

 リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)またはザナミビル(商品名:リレンザ)の最適な投与時期・投与量・投与方法は、今後、情報が蓄積していく中で、臨機応変に変更していく必要があるが、情報が限られている現在、季節性インフルエンザと同様と考えることが妥当であろう[3]。

 なお、リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)に関しては、「10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている[5,6]。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること」という表記が薬剤の添付文書上の使用上の注意がなされているが、今般の新型インフルエンザに対して、厚生労働省は新型インフルエンザにおいて、新型インフルエンザのハイリスクの患者等に対して必要と判断して使用する場合、使用上の注意の記載は投与を妨げるものではない(30日の衆院厚生労働委員会での答弁より)との解釈を示しているところである。この解釈は、季節性インフルエンザにおいても同様である。

 新型インフルエンザにおいて、患者の症状の重篤性等を考慮して小児・未成年者にリン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)を投与する場合は、「万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、(1)異常行動の発現のおそれがあること、(2)自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。 」の指導については、継続して行う必要がある。

 リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)あるいはザナミビル(商品名:リレンザ)を、妊娠している又は妊娠している可能性のある女性に投与する場合には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に投与する[7]。なお、日本産科婦人科学会は、学会のホームページhttp://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20090508.htmlに、以下の内容のお知らせを発表している。「妊婦さんはウイルスに感染した場合、基本的に重症化しやすいとされており、今回 の新型インフルエンザについても同様と考えられております。ついては、医師からタミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬を処方された場合には、服用を推奨いたします。平成21年5月8日 社団法人 日本産科婦人科学会 理事長  吉村泰典 周産期委員会委員長 斎藤 滋」 

 授乳中の女性に投与する場合には、薬剤添付文書上は、授乳を避けるように指導すると記載されているが、授乳中の女性への投与は禁忌ではない。

 授乳中に新型インフルエンザを発症した女性については、国内患者発生が少数の時点においては、感染症法に基づく入院措置となるが、既に流行が拡大している地域では、重症化例についてのみ入院の対象となっている。?新型インフルエンザによる高熱等で体調が優れない数日間の授乳を人工ミルクで代用可能であれば、代用することにより母親を治療に専念させるあるいは十分な休養をとらせる、?新型インフルエンザ発症中は発症していない人との濃厚接触は避ける。という考え方もある。

 ただし、授乳を避けることによる不利益が母子ともに大きいと考えられる場合は、以下の情報と参考資料を総合的に勘案して、投与することとする。

 動物(ラット)実験では、乳汁中に移行することが証明されていること、現時点において、ヒトにおける検討は少ないが、Wentges-van Holthe Nらは、オセルタミビル75mgを1日2回、5日間投与した産後9ヶ月の女性(児には1日2回授乳)の母乳中のオセルタミビル濃度を検討したところ、最高濃度は38.2ng/mL、乳児の摂取量は最大0.012 mg/kg/日と見積もっており、母乳中の量は母親の体重換算量の0.5%に相当するとしている[8]。(詳細は、Wentges-van Holthe Nvan Eijkeren M, van der Laan JW:Oseltamivir and breastfeeding. Int J Infect Dis. 2008;12(4):451を参照のこと)。これらのことを総合的に勘案して、治療上必要であり、授乳を休むことができない場合は、医師の判断に基づき、投与することもあり得る。

 リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)の1歳未満の患児(低出生体重児、新生児、乳児)に対する安全性は確立されていないが、症状・所見から重症化が予想され、保護者へのインフォームド・コンセントが十分に得られた場合においては、医師の判断に基づき、投与することもあり得る。

 ザナミビル(商品名:リレンザ)の小児への投与については、適切に吸入できると判断された場合にのみ投与することとし、1歳未満の患児(低出生体重児、新生児、乳児)または4歳以下の幼児に対する安全性は確立されていないが、症状・所見から重症化が予想され、保護者へのインフォームド・コンセントが十分に得られた場合においては、医師の判断に基づき、投与することもあり得る。


予防投薬

  • 抗ウイルス薬の使用にあたっては、適正使用につとめることが重要であることから、新型インフルエンザにおいては、患者の症状の重篤性等を考慮して、現在の国内患者発生をふまえ、原則として、患者と十分な防御なく濃厚に接触した者で、インフルエンザに罹患した場合に重症化が予想されるハイリスク者を対象とする。
  • なお、濃厚接触者に対しては、経過観察期間を定め、外出自粛、健康観察、症状発生時は電話連絡の後、速やかに医療機関に受診するよう十分に指導を行うことについては、継続して実施する。
  • 投与量・投与期間に関しては、今後、症例の蓄積等により、変更することもあり得るが、現時点では、季節性インフルエンザに準じて、実施することとする。


引用文献

1) Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Swine-origin influenza A (H1N1) virus infections in a school - New York City, April 2009. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2009 May 8;58(17):470-2.
2) Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Update: swine influenza A (H1N1) infections--California and Texas, April 2009. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2009 May 1;58(16):435-7.
3) Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts. http://www.cdc.gov/h1n1flu/recommendations.htm.
4) WHO. Use of antiviral drugs against influenza A(H1N1). http://www.who.int/csr/disease/swineflu/frequently_asked_questions/swineflu_faq_antivirals/en/index.html.
5) Fuyuno I. Nature. 2007 Mar 22;446(7134):358-359. Tamiflu side effects come under scrutiny.
6) Maxwell SR. Tamiflu and neuropsychiatric disturbance in adolescents. BMJ. 2007;334(7606):1232-1233.
7) Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Novel influenza A (H1N1) virus infections in three pregnant women - United States, April-May 2009. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2009 May 15;58(18):497-500.
8) Wentges-van Holthe N,van Eijkeren M, van der Laan JW:Oseltamivir and breastfeeding. Int J Infect Dis. 2008;12(4):451



参考資料

1.

米国CDC: Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts.May 6, 2009 11:00 PM .http://www.cdc.gov/h1n1flu/recommendations.htm翻訳:国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染患者及び濃厚接触者に対する抗ウイルス薬使用の暫定的手引き−改訂版2009年5月6日午後11時CDC.http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009cdc/CDC_antiviral_revised.html

2.

日本におけるリン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)の用法および用量、使用上の注意(薬剤添付文書情報より)

オセルタミビルリン酸塩カプセル

用法及び用量

1.治療に用いる場合
通常、成人及び体重37.5kg以上の小児にはオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間経口投与する。
2.予防に用いる場合

通常、成人及び13歳以上の小児にはオセルタミビルとして1回75mgを1日1回、7〜10日間経口投与する。




オセルタミビルリン酸塩ドライシロップ:

用法及び用量

 
通常、成人にはオセルタミビルとして1回75mgを1日2回、5日間、用時懸濁して経口投与する。
 通常、幼小児にはオセルタミビルとして、1回2mg/kg(ドライシロップ剤として66.7mg/kg)を1日2回、5日間、用時懸濁して経口投与する。ただし、1回最高用量はオセルタミビルとして75mgとする。

用法及び用量に関連する使用上の注意

カプセル・ドライシロップ共通


治療に用いる場合には、インフルエンザ様症状の発現から2日以内に投与を開始すること(症状発現から48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない)。
1. 治療に用いる場合には、インフルエンザ様症状の発現から2日以内に投与を開始すること(症状発現から48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない)。
2. 成人の腎機能障害患者では、血漿中濃度が増加するので、腎機能の低下に応じて、次のような投与法を目安とすること(外国人における成績による)。小児等の腎機能障害患者での使用経験はない。クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr>30 投与法(治療):1回75mg 1日2回  クレアチニンクリアランス(mL/分):10<Ccr≦30 投与法(治療):1回75mg 1日1回  クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr≦10 投与法:推奨用量は確立していない Ccr:クレアチニンクリアランス

 カプセルのみ

1. 予防に用いる場合には、次の点に注意して使用すること。
(1) インフルエンザウイルス感染症患者に接触後2日以内に投与を開始すること(接触後48時間経過後に投与を開始した場合における有効性を裏付けるデータは得られていない)。
(2) インフルエンザウイルス感染症に対する予防効果は、本剤を連続して服用している期間のみ持続する。
2. クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr>30 投与法(予防):1回75mg 1日1回 クレアチニンクリアランス(mL/分):10<Ccr≦30 投与法(予防):1回75mg 隔日 クレアチニンクリアランス(mL/分):Ccr≦10 投与法:推奨用量は確立していない Ccr:クレアチニンクリアランス


3.日本におけるザナミビル(商品名:リレンザ)の用法および用量、使用上の注意(薬剤添付文書情報より)



用法及び用量

1. 治療に用いる場合 通常、成人及び小児には、ザナミビルとして1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を、1日2回、5日間、専用の吸入器を用いて吸入する。
2. 予防に用いる場合 通常、成人及び小児には、ザナミビルとして1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を、1日1回、10日間、専用の吸入器を用いて吸入する。


用法及び用量に関連する使用上の注意

1.

本剤を治療に用いる場合、発症後、可能な限り速やかに投与を開始することが望ましい(症状発現から48時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない)。

2.

本剤を予防に用いる場合には、次の点に注意して使用すること。

(1) インフルエンザウイルス感染症患者に接触後1.5日以内に投与を開始すること(接触後 36時間経過後に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない)。

(2) インフルエンザウイルス感染症に対する予防効果は、本剤を連続して服用している期間のみ持続する。
3. 気管支喘息及び慢性閉塞性肺疾患等の慢性呼吸器疾患のある患者に対し、慢性呼吸器疾患の治療に用いる吸入薬(短時間作用発現型気管支拡張剤等)を併用する場合には、本剤を投与する前に使用するよう指導すること(「重要な基本的注意」参照)。


4.CDCによる新型インフルエンザA(H1N1)に対する抗ウイルス薬推奨投与量(表は季節性インフルエンザに関するIDSAガイドラインからの抜粋)





5.CDCによる1歳未満児へのオセルタミビルの治療としての投与量Dosing r ecommendations for antiviral treatment of children younger than 1 year using oseltamivir.(Interim Guidance on Antiviral R ecommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts.CDCホームページ http:// www.cdc.gov/h1n1flu/recommendations.htm)より




6.CDCによる1歳未満児へのオセルタミビルの予防としての投与量Dosing recommendations for antiviral chemoprophylaxis of children younger than 1 year using oseltamivir. .(Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts.CDCホームページ http://www.cdc.gov/h1n1flu/recommendations.htm)より





(2009/5/20 IDSC 更新)
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