国立感染症研究所 感染症情報センター
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高病原性鳥インフルエンザ



新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染患者及び濃厚接触者に対する
抗ウイルス薬使用の暫定的手引き
−改訂版

      アメリカ東部時間2009年5月6日午後11時 
               CDC(原文


※以前のバージョンはこちら

目的:抗ウイルス薬を用いた新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の治療と化学的予防に対する更新された暫定的手引きを提供し、インフルエンザに関連する合併症の高リスク患者への抗ウイルス薬の治療または化学的予防の優先順位決定において臨床医への支援を行うことを目的としている。抗ウイルス薬治療に関する推奨の追加更新は、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染の疫学および臨床像が分かるにつれて行われる。この手引きは地域の疫学データおよび抗ウイルス薬供給の状況に従い修正することが可能である。

 ハイリスク群:新型インフルエンザ(H1N1)ウイルスの合併症に関するハイリスク者は現時点では、季節性のインフルエンザと同じように定義される。疫学および臨床データが明らかになるにつれて、合併症のリスク群は更新される可能性がある。

  • 5歳未満の子供。季節性インフルエンザの重篤な合併症のリスクは2歳未満の子供で最も高くなる。
  • 65歳以上の成人
  • 以下の状況である者:

    慢性肺疾患(喘息を含む)、心疾患(高血圧を除く)、腎疾患、肝疾患、血液疾患(鎌状赤血球症を含む)、神経疾患、神経筋疾患または代謝異常(糖尿病を含む)
    薬剤またはHIVによる発生を含む免疫抑制状態
    妊娠中の女性
    長期間アスピリン療法を受けている19歳未満の者
    介護施設及びその他慢性疾患介護施設居住者



感染伝播:新型インフルエンザA(H1N1)の感染伝播は現在も行われているアウトブレイク調査を実施している中で研究がなされているが、限られた利用可能なデータで、このウイルスが他のインフルエンザウイルスと類似した感染経路によって伝播していくであろうことが示されている。季節性のヒト型インフルエンザウイルスは主に大粒子の呼吸器飛沫による感染伝播を通じてヒトの間で伝播していくと考えられている(例、感染者の咳あるいはくしゃみが感受性のある者の近くで行われたとき)。これらの大きな粒子を通しての感染は、飛沫粒子が空気中を漂い続けることはなく一般的に短い距離(6フィート[1.86メートル]未満)しか飛ばないので、感染源と感染を受けるヒトの間で濃厚接触が必要となる。汚染された表面との接触はもう一つの感染可能性源であり、小さな飛沫核による感染伝播(”空気”感染ともいわれる)もまた発生するかもしれないが、これらの感染様式がインフルエンザの疫学にどの程度影響を及ぼしているかは不明確である。新型H1N1インフルエンザの感染データは限られているので、眼, 結膜または消化器からの感染は分かっていない。ヒトでの新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスであるので、感染したヒトから濃厚接触者への伝播は普通に発生するであろう。新型インフルエンザA(H1N1)症例のすべての呼吸器分泌物および体液類(下痢便)は潜在的に感染源になりうるとみなすべきである。

 この文書においては、濃厚接触者とは、新型インフルエンザA(H1N1)の確定(confirmed)、疑いが濃厚(probable)、あるいは疑わしい(suspected)ヒトのケアを行なったか同居している者、または感染がある人の呼吸器飛沫や体液に接触した可能性が高い場所にいた人と定義する。濃厚接触の例はキスまたは抱擁、食器の共有、身体活動、あるいは結果的に呼吸器分泌物へ曝露したと思われるその他の接触などである。濃厚接触は通常、感染者のそばを歩行した、あるいは待合室またはオフィスで有症状の患者の向かいに座っていた、などの行為は含まれない。

子供への特別な配慮

 
アスピリンまたはアスピリン含有薬(例、次サリチル酸ビスマス−ペプトビスモル)は、ライ症候群のリスクのため18歳以下の新型インフルエンザH1N1の感染が確認されたかまたは疑わしい症例に投与してはならない。熱の軽減には、アセトアミノフェンまたは非ステロイド系の抗炎症剤のような他の解熱剤を推奨する。

 4歳未満の子供には、医療機関に相談せずにOTC薬剤を投与しないほうが良い。



抗ウイルス薬耐性

 
この新型A(H1N1)インフルエンザウイルスはノイラミニダーゼ阻害剤抗ウイルス薬であるザナミビル(訳註:商品名リレンザ)とオセルタミビル(訳註:商品名タミフル)に対して効果(感受性)がある。アダマンタン抗ウイルス薬であるアマンタジンとリマンタジンには耐性がある。


新型(H1N1)インフルエンザ抗ウイルス薬治療

 新型インフルエンザ(H1N1)の抗ウイルス薬の使用に関して、オセルタミビルあるいはザナミビルのいずれかを推奨する(表1)。抗ウイルス薬の使用に関する推奨は、抗ウイルス薬の効果、疾患の臨床像の範囲、抗ウイルス薬使用による副反応、及び抗ウイルス薬感受性のデータにより変更されうる。

 臨床判断は治療方法決定での重要な要因である。合併症のない典型的な発熱性疾患ある新型インフルエンザH1N1が疑われているヒトは、インフルエンザ合併症の高いリスクがなければ、一般的には治療を必要とはしない。また、抗ウイルス薬処方可能量が限られている地域では、感染のリスクが高いグループに治療を優先することに関する追加的ガイドラインを地域の保健当局が提供するかもしれない。

治療が推奨されるのは、

1. 入院したすべての新型インフルエンザ(H1N1)確定、疑いが濃厚、あるいは疑わしい患者
2. 季節性インフルエンザの合併症に関して高いリスクがある患者(上述参照

 患者がハイリスク群ではない、または入院していないならば、医療機関は治療方法を臨床的に判断すべきであるが、5歳未満児の間での季節性インフルエンザの重篤な合併症発症のリスクは2歳未満児が一番高いということを念頭に置いておくべきである。新型インフルエンザ(H1N1)ウイルスに感染したハイリスク群に含まれない患者は、典型的な季節性インフルエンザと同じように、自然治癒性の呼吸器疾患であった。したがって、検査、治療および化学的予防の実施は主として入院またはインフルエンザの合併症のリスクが高い人に行うべきである。

 抗ウイルス薬治療を処方することを一旦決定したら、ザナミビルまたはオセルタミビルによる治療を症状が出てからできるだけ早めに開始すべきである。季節性インフルエンザの研究において、抗ウイルス薬治療の効果が最もあるのは、治療を発症後48時間以内に開始した場合であることが分かっている。しかし、季節性インフルエンザによる入院患者に対するオセルタビビル治療に関するいくつかの研究では、症状発症後48時間以上経過して治療を開始しても、死亡率の低下や入院期間の短縮といった治療効果を認めているという報告もある。治療期間は5日間を推奨している。成人または1歳以上の子供の抗ウイルス薬の推奨量は、季節性インフルエンザで推奨される量と同じである(表1)。1歳未満児のオセルタミビル使用は、緊急時使用権限(EUA)のもとで、アメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)により最近認可された(表2)参照、タミフル(オセルタミビル)の非常使用権限)。これらの子供への投与量は年齢によってきめられている。

注:季節性インフルエンザの発生が継続している地域、特にオセルタミビル耐性季節性ヒト型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの流行地域では、季節性ヒト型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染かもしれない患者に対しては、ザナミビル、またはオセルタミビルとリマンタジンあるいはアマンタジンの組み合わせによる経験的治療を行うほうがよいであろう。



新型インフルエンザ(H1N1)に関する抗ウイルス化学予防法

 
新型インフルエンザ(H1N1)ウイルス感染の抗ウイルス化学的予防に関して、オセミタミビルまたはザナミビルのいずれかが推奨される(表1)曝露後の抗ウイルス化学的予防期間は、新型(H1N1)インフルエンザへの曝露後10日である。曝露後の化学的予防の適応は、新型インフルエンザ(H1N1)確定例、疑いが濃厚な症例、疑わしい症例の感染力のある期間に濃厚接触したことに基づく。

 新型インフルエンザA(H1N1)に感染した人に関する感染期間は、季節性インフルエンザで観察される期間と類似していると仮定されている。季節性インフルエンザ感染者は、発症前1日から症状発症後7日後まで感染力があると研究結果が示している。子供、特に年少児は、長期間感染力があると考えられている。しかし、この手引きにおいては、感染期間は症状発症1日前から症状発症後7日目までとする。もし、抗ウイルス薬による化学的予防を考慮する人において、発症者との接触が7日以上前であれば、抗ウイルス薬の化学的予防は必要がない。曝露前の化学的療法に関して、抗ウイルス薬投与は曝露の可能性がある期間中継続的に投与され、感染可能期間中の新型インフルエンザ(H1N1)ウイルス感染者への最終曝露日から10日間は予防投与を続けるべきである。オセルタミビルは1歳未満児にもEUAのもとで化学予防として投与することができる。(「1歳未満児」の項を参照)。

 曝露後のオセルタミビルまたはザナミビルの抗ウイルス薬化学予防は、以下の者に対して使用を考慮する:

1. 症例(確定、疑いが濃厚、疑わしい)との濃厚接触をしたインフルエンザの合併症のハイリスクである者
2. 医療従事者、公衆衛生従事者または新型インフルエンザの第一対応者であって、新型(H1N1)インフルエンザウイルスに感染した者(確定、疑いが濃厚、疑わしい)に明確で防御せずに患者の感染期間中に濃厚接触による曝露があった者。適切な個人防護具(訳註:一般にPPEといわれる)の手引きは、医療機関における新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染が確認されたか疑われている患者のケアにおける感染対策の暫定的な手引きを参照のこと。この手引きは、感染伝播に関する新たな知見が加わるごとに更新される。

 曝露前の化学予防は限られた環境において、地方医療当局または公衆衛生当局との協議の上で行われるべきである。職業上、継続的な曝露の危険性が高く、(例、医療従事者、公衆衛生従事者またはインフルエンザA (H1N1)アウトブレイクのあるコミュニティーで働いている第一対応者)、かつインフルエンザの合併症のハイリスク群に属する人は、適切な個人防護具のガイドラインに注意深く従うか、一時的な仕事の配置転換を考慮したほうが良い。


新型H1N1インフルエンザアウトブレイクの制御に関する抗ウイルス薬使用

 
インフルエンザの治療および化学予防における抗ウイルス薬の使用は、老人ホーム及びその他長期療養施設での季節性インフルエンザアウトブレイクの制御の基本である(MMWR参照:インフルエンザ予防と制御:予防接種諮問委員会(ACIP)の推奨、2008年)。この時点で、新型インフルエンザA(H1N1)のアウトブレイクはそういった施設では報告されていない。しかしながら、そのようなアウトブレイクが発生すれば、症状のある患者はオセルタミビあるいはザナミビルのいずれかで治療させ、それ以外の人は季節性インフルエンザの流行時に行うように、できるだけ早くオセルタミビルまたはザナミビルのいずれかで化学予防を行うことを推奨する。化学予防はすべての疾患のない居住者に対して処方すべきで、最低2週間続けるほうが良い。もしサーベイランスで新規発症者の発生が継続的に認められる場合、化学予防は最後の患者が発症後約7日間まで続けるべきである。抗ウイルス薬治療に加えて、適切な感染制御、インフルエンザの確定または疑いの患者を同じ部屋に収容すること、スタッフの病棟間または建物間の移動制限、罹患したスタッフまたは来訪者と患者との接触制限、及び新規症例の発生に関する積極的監視などのアウトブレイク対策を行うべきである。長期療養施設の施設長は、インフルエンザのアウトブレイク制御に関する計画を見直すべきである。長期療養施設における感染制御に関する追加ガイダンスは以下で見つけることが可能である:施設におけるインフルエンザアウトブレイク制御における抗ウイルス薬治療の利用

 抗ウイルス薬化学予防は、老人ホーム以外の閉鎖された施設あるいは半閉鎖施設でのインフルエンザアウトブレイクの制御に関して検討することができる(例、刑務所または他の場所で接近した場所に居住する場所)。施設におけるインフルエンザアウトブレイクについてのさらなる情報に関しては下記を参照:インフルエンザの予防と制御:予防接種諮問委員会(ACIP)の推奨、2008年または成人と小児の季節性インフルエンザ−診断、治療、化学的予防法及び施設のアウトブレイクマネージメント:アメリカ感染症学会の臨床実践ガイドライン

表1. 新型インフルエンザA(H1N1)感染の抗ウイルス薬治療または化学予防の推奨投与量
(表は季節性インフルエンザに関するIDSAガイドラインからの抜粋)



1歳未満児

 
1歳未満児は季節性のヒト型インフルエンザウイルス感染で合併症を起こすハイリスク群である。新型(H1N1)インフルエンザウイルスのヒトへの感染の特徴は現在研究中であり、年長児や成人に比べて乳児が新型(H1N1)インフルエンザウイルス感染に関連した合併症に対してより高い危険性があるかどうかは分かっていない。オセルタミビルは1歳未満児での使用に関するライセンスはない。しかし、1歳未満児の季節性インフルエンザに関するオセルタミビル治療の安全性データは限られているが、重篤な副作用の発生は稀である。

 乳児はインフルエンザの有病率および死亡率が高いという結果があるので、新型(H1N1)インフルエンザ感染のある乳児に対するオセルタミビルでの治療は有益かもしれない〔表2及び3タミフル(オセルタミビル)の緊急的使用権限 〕。


表2.  1歳未満児のオセルタミビルを使用した抗ウイルス薬治療の推奨量




表3. 1歳未満児のオセルタミビルを使用した抗ウイルス化学予防の推奨量


 医療機関は、新型(H1N1)インフルエンザウイルス感染が確認された重症の乳児、あるいは新型(H1N1)インフルエンザが確定された患者に曝露した乳児においてオセルタミビルの使用の検討する際に、安全性及び使用量のデータが欠如していることを知っておく必要があり、オセルタミビルを使用した時に副作用に関して乳児を注意深く監視するべきである。本年齢層に対するオセルタミビルに関する追加情報を参照のこと。


妊婦

 
妊婦は季節性インフルエンザウイルス感染による合併症のリスクが高いことが知られており、妊婦の間での重篤な疾患は過去のパンデミック時にも報告されていた。新型(H1N1)インフルエンザウイルス感染が確認された妊婦が重篤な病状になったことが報告され、1988年には妊婦が他のブタインフルエンザウイルスのタイプに感染したのちに亡くなっている。オセルタミビル及びザナミビルは”妊娠期分類C”薬物、すなわち妊娠中の女性に対するこれらの薬物の安全性を評価するために実施された臨床研究はない。何人かの妊婦がこれらを服用した後に副反応があったという報告があるが、これらの薬剤服用と副作用の間の関連は証明されていない。妊娠は、オセルタミビルまたはザナミビル使用に対して禁忌であると考えるべきではない。オセルタミビルは全身作用があるために妊婦の治療に好まれている。予防薬としての選択は不明確である。ザナミビルは体内吸収が限定される理由で望ましいかもしれない。しかしながら、ザナミビルは吸入による投与なので、特に呼吸器系障害のリスクのある女性において、ザナミビルに関連する呼吸器系合併症を考慮する必要がある。


副作用及び禁忌

 
抗インフルエンザウイルス薬についての禁忌や副作用を含んだ詳細な情報に関して、下記を参照のこと:

 抗インフルエンザウイルス薬の副作用はアメリカFDAのMedwatchのウェブサイトに報告したほうが良い。


(2009/5/20 IDSC 更新)

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