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2003/5/19

重症急性呼吸器症候群(SARS)−57



WHOによる重症急性呼吸器症候群(SARS)
多国同時集団発生の報告
(5月16日、更新第57報)



中国の状況
中国は本日、39例の新たなSARS「可能性例」と4例の死亡例を報告し、累計で5,191例の「可能性例」と275例の死亡例となった。

本日北京は28例のSARS「可能性例」を報告し、これで連続して6日のあいだ一日当たり50例に満たないSARS「可能性例」の報告となっている。4月の最終週から5月3日にかけて北京は、一日平均100例以上の「可能性例」を報告していた。一日当たりの新たな死亡数も、4月22日に報告された15例のピークから減少しており、先週は一日平均4例であった。本日北京からは1例の死亡例が報告された。

WHOの専門家たちは、症例数の減少は勇気づけられる現象だが、北京市のSARS症例の発生が減少しつつあると考える事に対しては警告を発している。彼らは、症例の誤診が最近の「可能性例」数の少ない値に影響を与えているのではないかと注意を促している。WHO担当官は、軽い症状を呈しているSARSの患者が、「可能性例」から除外されているのではないかと恐れている。

誤診されている患者数は不明であるが、WHO担当官は最近の北京の病院の訪問後にこのような事態が発生しているのではないかと懸念している。

「これらの人々は症例定義に当てはまっているが、数日で軽快するために「可能性例」とは考えられていない」と、WHOの北京SARS専門家チームのリーダーであるDaniel Chin博士は説明している。「SARS患者は非常に重篤であるという思いこみが有るために、臨床家たちはこのような判断を下している。しかし実際には、SARSの重症度は多種多様なのである。」

臨床家たちはまた、単にSARS症例への既知の接触が知られていないことに基づいて、SARS「可能性例」から除外する決定をしている。この定義はわずかなSARS症例しかいない地域で用いられているものである。北京には比較的大勢のSARS症例がいることを前提に考えると、このような定義は用いることができないとChin博士は述べている。
彼は又、より軽症なSARS症例も、重症なものとまったく同様な予防的措置を講じて治療にあたらなければならないと言っている。「彼らがSARSの症例でない可能性は残っているが、信頼性の高い検査方法無しには、我々にそれを確かめる術はない」と彼は言っている。

より軽い症状の患者は当初「疑い例」として隔離される。しかし状態が改善するとかれらは一般病棟へ送られ、他の患者へ感染を広げる事が可能となる。他の者の場合には、家庭へ帰されるのが早すぎたりしている。「彼らは入院させておく必要はないかもしれないが、依然感染力がある可能性がある」と、Chin博士は述べている。

本日出版されたThe Lancetに掲載されている、WHOネットワークに所属する香港の研究施設による75人のSARS患者の臨床経過に関する研究には、淘大花園(アモイ・ガーデン)の症例集積群の患者の三つの臨床段階が説明されている。ほとんどの場合同一である三段階の過程は、疾患の最初の週は発熱と筋肉痛、その他の症状が特徴で、数日の間に軽快する。感染力が最大である疾病の第二週目には、患者は頻繁に繰り返される発熱、下痢、酸素飽和度の低下を見る。この研究では、人工呼吸器による換気を必要とする急性呼吸窮迫症候群に代表される第三相へ、20%の患者が進行した。

保健当局と臨床家はこれら三相の疾病の臨床段階に十分な注意を払う必要がある。院内感染を含め、感染拡大を防止するためには、疾病の第一週目の臨床症状の改善に伴い、早計に予防措置、特に隔離や感染制御対策を緩和するのは危険である。

大規模集会における指針
SARSの地域内伝播がある地域から、大きなイベントのために渡航する人たちが、他の開催国からの参加者に感染のリスクを与えるのではないかという懸念に答える形で、昨日WHOによって大規模なイベントあるいは集会における指針が発表された。この提言は世界的な指針として発表され、利害評価(risk-benefit analysis)に基づいており、これ以上のSARSの国際的感染拡大を防止すると同時に、旅行しようとする人々に対して不当な制限が加えられないようにというWHOの努力方針に沿っている。(大規模イベント・集会のガイドライン参照)   

この提言は、そのような催しものの主催国や主催団体が、国内の参加者の保護について判断をくだす際に支援することを目的としている。

このような判断は、イベントの性格や、仮にSARS症例が発生した場合の一般人口への曝露の可能性、その国の公衆衛生設備の対応可能な許容量などについての、それぞれの国の担当部局の評価に委ねられる。この許容量には、既に存在しているサーベイランスの整備状況、接触者追跡調査、隔離などがふくまれる。言い換えると、参加者の誰かがSARSを発症した際の状況の管理能力の許容量のことである。

環境中でのSARSウイルスの安定性
WHOは本日、SARSウイルスの異なる環境表面における安定性に関する追加データを発表した。SARSコロナウイルスの安定性と抵抗性に関する最初のデータを参照。 

WHO共同研究ネットワークに属する研究施設において行われた研究結果から得られたデータは、SARSウイルスは滅菌した便中で、塗り壁あるいはフォーマイカの表面上では36時間、プラスチック表面あるいはステンレススチール上では72時間、スライドガラス上では96時間生存することを示した。

患者情報と感染が報告された国に関する最新報告
本日までに29ヶ国から、累積で7,739例のSARS「可能性例」と611例の死亡例が報告されている。これは昨日に比べ、54例の症例と13例の死亡例の増加である。新たな死亡例は中国から4例、香港特別行政区から4例、台湾(中国)から5例が報告されている。

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