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SARSトップページ > 重症急性呼吸器症候群(SARS)に関するQ&A > 医療従事者向け

 

1)臨床・病原体


1 SARSとはどんな病気ですか?

 SARSはSevere Acute Respiratory Syndromeの略で、日本では「重症急性呼吸器症候群」と呼びます。中国広東省に端を発し、2003年に世界中で大きな問題となった、新しく発見された感染症です(「重症急性呼吸器症候群(SARS)集団発生の状況と近い将来に対する教訓」,Q&A疫学)。

新型のコロナウイルスの、「SARSコロナウイルス」が原因であると確認されています(WHO UPDATE 31)。詳細は次項をご覧ください。

主な症状としては、38℃以上の発熱、咳、息切れ、呼吸困難などの呼吸器症状があり、胸部レントゲン写真で肺炎または呼吸窮迫症候群(ARDS)の所見(スリガラス状陰影)が見られます。また香港からの報告では、下痢症状も比較的多くの方にみられ、頭痛、悪寒戦慄、食欲不振、全身倦怠感、意識混濁などの症状が見られることもあります(「SARSの疫学に関する合意文書」)。

曝露後の潜伏期は通常2〜10日(平均5〜6日)と推計されており、最短1日、最長14日間という報告があります。急激な発熱、咳などのインフルエンザ様の前駆症状で発症し、この期間には感染力は弱く、約1週間後に呼吸困難、乾性の咳などの肺炎症状が現れ始め、それとともに感染力も増強するとされています(Q&A疫学)。潜伏期や無症状期における他への感染力は無いか、またはきわめて感染の可能性は低いと考えられています(「SARSの疫学に関する合意文書」)。また現在までのところ、解熱後10日以上経過した症例が感染の拡大を起こしたと言う報告はありません。




2 SARSの病原体は何ですか?

 世界保健機関(WHO)がSARSの原因となる病原体を解明するために、9ヵ国13カ所の研究施設からなるネットワークを組織し、国際的な共同研究が行われた結果、コロナウイルス科に分類される新型のウイルスが起因病原体として特定されました。WHOは2003年4月16日に、「SARSコロナウイルス:SARS-associated coronavirus(SARS-CoV)」と名付けて公表しました(WHO UPDATE 31)。

コロナウイルスの名称の由来は、電子顕微鏡で見るとウイルス表面から花弁状の突起が出ており、太陽のコロナのように見えることです。従来のコロナウイルスは、ヒトに軽度〜中等度のかぜ様症状をおこすウイルスとして、また、ブタ、マウス、ニワトリ、七面鳥などの動物で呼吸器系、消化管、肝臓、神経系などの病気をおこすウイルスとして知られており、SARSのように重症化するものは知られていませんでした。SARSコロナウイルスは従来知られていたコロナウイルスとは遺伝子的にかなり異なっており、既存のウイルスの突然変異と考えられていますが、詳細は依然解明されていません。

(参考文献:Science 300; 5618: 413−414, Science 300; 5624: 1394−1399など)

SARSコロナウイルスは統計学的モデルから、ひとりの感染者から約3人に感染すると推定されており(R=2〜4)、他のほとんどの呼吸器疾患に比べ感染伝播の確率が低いとされています(「SARSの疫学に関する合意文書」)。低温に比較的強く、高温に弱いことや、一般に用いられている様々な消毒剤で不活化されることも報告されています(「WHO研究施設ネットワークが集積したSARSコロナウイルスの安定性と抵抗性に関する最初のデータ」参照)。消毒薬としては70〜80%の消毒用アルコール、グルタールアルデヒド、界面活性剤などがあり、消毒対象などで使い分けることが必要です。詳細は「SARSに関する消毒(三訂版)」を参照してください。

(Rについての参考文献:Science 300; 5618: 1361-1366など)


3 SARSの感染経路はわかっていますか?

 SARSコロナウイルスは基本的に、発症したヒトからヒトへ感染すると考えられています。流行期の初期の感染がどのようにして起こったかは依然として不明ですが、これまでの疫学的検討から、最も感染の危険性が高いと考えられる状況は、SARS患者の看護・介護をしたか、同居をしたか、あるいはその体液や気道分泌物に直接触れたなど、「SARS患者との濃厚な(密接な)接触があった場合」です。

感染経路としては、患者さんに咳や肺炎などの呼吸器症状があることから、気道分泌物による飛沫感染が中心であると考えられますが、種々のSARSの集団発生事例を疫学的に検討すると、それ以外の感染経路がありうることも示唆されます。例えば、手指や物を介した接触感染、排泄物からの経口感染、特別な条件下での空気感染(特定の航空機内や香港の集合住宅の事例)の可能性なども、完全に否定することはできませんが低いと考えられています。

また、野生動物との接触後に血清学的に感染が確認された例の報告もありますので、一部の動物との密接な接触による感染の可能性も否定できません。現在までに、ハクビシンやタヌキを始め幾つかの野生動物からこのヒトに感染したSARSコロナウイルスに非常に類似したウイルスが検出され、宿主候補として報告されています。しかし、自然宿主であるのか、感染にどのような役割を果たしているのかを含め、現時点では検討中であり科学的に確認されていません。 

(参考文献: Science 2003; 300(5624): 1351, Science 2003; 302: 276-278など)



4 SARSはどのように診断されますか?

 38℃以上の発熱、咳、呼吸困難などがあり、胸部レントゲン写真で肺炎または呼吸窮迫症候群(ARDS)の所見(スリガラス状陰影)が見られる場合にSARSを疑います。しかし、同様の呼吸器症状を示す感染症は他にも多くあるため、SARSの診断を確定するには、血清検査や病原体検査などのいわゆる実験室的診断を行い、SARSコロナウイルス感染の確認と他の疾患の除外診断を行うことが必要となります。検査法の詳細は次項をご覧下さい。

(画像参照:Department of Diagnostic Radiology and Organ Imaging, Chinese University of Hong Kong(http://www.droid.cuhk.edu.hk/))


5 SARSの検査法はありますか?

  大きく分けて血清学的検査と病原体検査の2種類があります。
病原体検査は2種類あり、ウイルス遺伝子の断片があるかどうかを調べる逆転写酵素ポリメラーゼを用いた遺伝子増幅法と、生きたウイルスを培養して分離・同定する方法で、いずれも咽頭ぬぐい液、喀痰、血液、便、尿などを検査材料とします。遺伝子増幅法にはPCR法があり、一般に感度が高く、発病初期に陽性に出ることの多い診断法ですが、SARS コロナウイルスについては、現段階では感染していても検出されないこともあり(陽性予測値が低い)、引き続き検査方法を改良中です。最近、LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法という遺伝子増幅法が開発されました。LAMP法はPCR法に比べ感度が高く、迅速に診断ができる検査法ですが、PCR法と同様に感染初期の診断には問題点が残っています。ウイルス分離培養は、生きたウイルスの存在を確認することができ、陽性であれば感染の証明ができますが、培養には時間を要します。いずれの検査方法でも、陰性だからといって、それだけで感染を否定することはできません。

血清学的検査は血液中の抗体を調べるもので、これには酵素免疫測定法 (ELISA) と免疫蛍光法 (IFA) 、中和抗体法(NT)の3つの方法があります。しかし、これらはいずれも発病初期には検出されず、感染後10日頃から抗体が検出され始め(WHOによるとELISAの場合は発病後20日を過ぎてから、IFAの場合は発病後10日を過ぎてから)、殆どの感染者が抗体陽性になるのには3〜4週間かかります。

参照:1)SARSコロナウイルスに関する検査対応について(5訂)
   2)WHOの 国際的SARS リファレンスおよび確認研究施設ネットワーク: 流行間期における政策と手法(抄訳)




6 SARSにはどのような治療法がありますか?

 有効な根治的治療法はまだ確立されておらず、対症療法が中心となります。発症初期にはSARS以外の肺炎との鑑別が困難なので、一般的な細菌性肺炎を対象とした抗菌薬による治療を行うことになります。また、肺病変が進行する場合には、酸素投与や人工呼吸器での管理が必要なこともあります。

抗ウイルス剤であるリバビリンの静脈内注射とステロイド剤の併用療法、インターフェロンα、β、γ、グリチルリチン、HIV/AIDS治療薬などによる治療を行い、効果が期待できるとの報告もありますが、有効性は確立されておらず、明確な効果が科学的に証明されたと言える段階ではありません。

(参考文献:World J Gastroenterol. 2003; 9(6): 1139-1143, CMAJ. 2003; 168(10): 1289-1292, Clin Infect Dis. 2004; 38(7):1030-1032, Lancet 2003; 362: 293-294, Science 2003; 303 (5662): 1273-1275, Hong Kong Med J. 2003; 9(6): 399-406, Lancet 2003; 361: 2045−2046など)



7 ワクチンなどの予防法はありますか?

 実用化されたワクチンはまだありません。ワクチンの研究・開発は行われていますが、使用されるようになる前には、動物を用いた試験など、その有効性や安全性について種々の検討を重ねる必要があります。

(参考文献: Nature 2004; 428(6982): 561-564, Proc Natl Acad Sci U S A. 2004; 101(8): 2536-41, Lancet 2003; 362(9399): 1895-1896, Clin Chem 2003; 49(12): 1989-1996など)


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