ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査
−2009年速報第14報−

 日本脳炎は,日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1)。ヒトへの感染は日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(日本では主にコガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより発生する。

 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(HI法)を用いて測定することにより,間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況および活動状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。

 1960年代までは,毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2),3),ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。Konnoらは,当時調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4)。現在では,日本脳炎ワクチン接種の普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者報告数は毎年数名程度であるが,ブタの抗体保有状況から日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。

 本速報は,日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また,それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延あるいは活動していると推測される地域においては,予防接種を受けていない人,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。なお,日本脳炎に関するQ&Aについては以下のサイトから閲覧可能である。[ http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE.html
抗体保有状況の
地理的分布


抗体保有状況の
月別推移

     
 
2009-14 (2009年10月2日現在)
HI
抗体
2-ME
感受性
抗体
都道府県 採血月日 HI抗体
陽性率
*
2-ME感受性
抗体陽性率
**
コ メ ン ト

4/20

5/11
沖縄県 8月3日 12%
(3/25)
100%
(1/1)
今回の調査ではHI抗体陽性のブタのうち1頭は抗体価1:40以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された。
前回の調査(7月27日採血)および前々回の調査(7月21日採血)ではいずれも4%(1/25)のブタがHI抗体陽性であったが,それらのブタは抗体価1:40未満であった。

7/13

7/13
鹿児島県 9月14日 100%
(20/20)
10%
(2/20)
7月13日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
9月7日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち2頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月7日採血)では90%(18/20)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち4頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。

7/21

8/11
宮崎県 9月7日 64%
(7/11)
57%
(4/7)
8月11日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち4頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(8月31日採血)では100%(11/11)のブタがHI抗体陽性であり,そのうち4頭のブタは抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/27

7/27
大分県 9月28日 90%
(18/20)
11%
(2/18)
8月17日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
9月7日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち2頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月17日採血)では85%(17/20)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち5頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。

7/27

8/10
熊本県 9月7日 80%
(16/20)
7%
(1/15)
8月24日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
9月7日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタのうち15頭は抗体価1:40以上を示し,そのうち1頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(8月31日採血)では70%(14/20)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち4頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。

7/1

7/14
長崎県 9月8日 100%
(10/10)
60%
(6/10)
7月1日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち6頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月1日採血)では100%(10/10)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/18

9/1
佐賀県 9月8日 40%
(4/10)
75%
(3/4)
8月18日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち3頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月1日採血)では50%(5/10)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち3頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。

7/21

8/4
福岡県 9月1日 100%
(10/10)
20%
(2/10)
8月4日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
8月12日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち2頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(8月25日採血)では60%(6/10)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/8

7/8
高知県 9月9日 100%
(10/10)
10%
(1/10)
7月8日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
7月22日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち1頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月2日採血)では100%(10/10)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/13

8/5
愛媛県 9月14日 0%
(0/10)
  8月24日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。
前回の調査(9月7日採血)では100%(10/10)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち1頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。

7/21

8/3
香川県 9月14日 60%
(6/10)
0%
(0/4)
7月21日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタのうち4頭は抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。
前回の調査(9月7日採血)では60%(6/10)のブタがHI抗体陽性であり,そのうち4頭のブタは抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。

7/28

7/28
徳島県 9月10日 100%
(10/10)
0%
(0/10)
7月28日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。
前回の調査(9月3日採血)では30%(3/10)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/5

9/16
広島県 9月16日 92%
(11/12)
36%
(4/11)
8月19日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
9月16日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,そのうち4頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月2日採血)ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。

7/10

8/7
島根県 9月18日 100%
(10/10)
100%
(6/6)
7月24日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
8月7日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。

今回の調査ではHI抗体陽性のブタのうち6頭は抗体価1:40以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された。
前回の調査(9月4日採血)では90%(9/10)のブタがHI抗体陽性であり,そのうち2頭ブタが抗体価1:40以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された。

7/15
  鳥取県 9月2日 100%
(10/10)
  7月15日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40未満であった。
前回の調査(8月19日採血)および前々回の調査(8月12日採血)ではいずれも100%(10/10)のブタがHI抗体陽性であったが,それらのブタはすべて抗体価1:40未満であった。

9/25

9/25
兵庫県 9月25日 100%
(12/12)
55%
(6/11)
9月25日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタのうち11頭は抗体価1:40以上を示し,そのうち6頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月1日採血)ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。

8/26

8/26
滋賀県 9月16日 80%
(8/10)
100%
(8/8)
9月16日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された。
前回の調査(9月9日採血)ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。

7/13

8/10
三重県 9月28日 80%
(8/10)
40%
(2/5)
7月21日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタのうち5頭は抗体価1:40以上を示し,そのうち2頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。
前回の調査(9月14日採血)ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。

8/3
  愛知県 9月14日 20%
(2/10)
  今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40未満であった。
前回の調査(9月1日採血)
ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。

7/27

7/27
静岡県 9月28日 60%
(6/10)
100%
(6/6)
8月17日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
8月27日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された。
前回の調査(9月17日採血)では70%(7/10)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された。

9/8
  石川県 9月8日 10%
(1/10)
0%
(0/1)
今回の調査ではHI抗体陽性のブタは抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。
前回の調査(8月26日採血)ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。

7/6

7/7
富山県 9月24〜
29日
20%
(4/20)
  今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40未満であった。
前回の調査(9月14〜15日採血)では20%(4/20)のブタがHI抗体陽性であったが,それらのブタはすべて抗体価1:40未満であった。

9/7
  新潟県 9月14日 0%
(0/10)
  今回の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。
前回の調査(9月7日採血)では10%(1/10)のブタがHI抗体陽性であったが,そのブタは抗体価1:40未満であった。

8/18

8/18
神奈川県 9月15日 0%
(0/20)
  前回の調査(9月8日採血)でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。

4/13
  東京都 9月22日 0%
(0/50)
  前回の調査(9月14日採血)でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。

8/17
  千葉県 9月14日 5%
(1/20)
  今回の調査ではHI抗体陽性のブタは抗体価1:40未満であった。
前回の調査(9月7日採血)ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。
    埼玉県 9月14日 0%
(0/10)
  前回の調査(9月7日採血)および前々回の調査(8月24日採血)でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。

7/13
  群馬県 9月7日 29%
(4/14)
  今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40未満であった。
前回の調査(8月31日採血)では14%(2/14)のブタがHI抗体陽性であったが,それらのブタはすべて抗体価1:40未満であった。
前々回の調査(8月17日採血)では17%(2/12)のブタがHI抗体陽性であり,それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。

8/10
  栃木県 9月14日 60%
(12/20)
  9月14日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタはすべて抗体価1:40未満であった。
前回の調査(9月7日採血)では25%(5/20)のブタがHI抗体陽性であったが,それらのブタはすべて抗体価1:40未満であった。

8/25
  茨城県 9月8日 100%
(10/10)
0%
(0/2)
9月8日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。
今回の調査ではHI抗体陽性のブタのうち2頭は抗体価1:40以上を示したが,2-ME感受性抗体は検出されなかった。
前回の調査(8月25日採血)では10%(1/10)のブタがHI抗体陽性であったが,そのブタは抗体価1:40未満であった。
    福島県 8月25日 0%
(0/10)
  前回の調査(8月18日採血)でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。
    秋田県 8月11日 0%
(0/10)
  前回の調査(8月5日採血)および前々回の調査(7月22日採血)でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。
    宮城県 9月1日 0%
(0/20)
  前回の調査(8月18日採血)でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。

8/6

8/6
青森県 9月3日 0%
(0/20)
  今回の調査,前回の調査(8月25日採血)および前々回の調査(8月10〜11日採血)ではいずれもHI抗体陽性のブタは認められなかった。
3回前の調査(8月6〜7日採血)では5%(1/20)のブタがHI抗体陽性であり,そのブタは抗体価1:10以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された(2-ME処理で1:10→1:10未満)。

7/29

7/29
北海道 8月10日 0%
(0/5)
  今回の調査および前回の調査(8月5日採血)ではいずれもHI抗体陽性のブタは認められなかった。
前々回の調査(7月29日採血)では10%(1/10)のブタがHI抗体陽性であり,そのブタは抗体価1:10以上を示し,2-ME感受性抗体も検出された(2-ME処理で1:20→1:10未満)。
  今シーズンの調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が80%を超えた地域
  今シーズンの調査期間中に調査したブタのHI抗体陽性率が50%を超え,かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
  今シーズンの調査期間中に調査したブタから2-ME感受性抗体が検出された地域
今シーズンの調査期間中に調査したブタにおいてHI抗体陽性あるいは2-ME感受性抗体が検出されたことを示す
日付は今シーズンで初めてHI抗体陽性あるいは2-ME感受性抗体が検出された採血月日を示す
*  HI抗体は,抗体価1:10以上を陽性と判定した。
**
2-ME感受性抗体は,抗体価1:40以上(北海道・東北地方は1:10以上)であった検体について検査を行い,
  2-ME処理を行った血清の抗体価が未処理の血清(対照)と比較して,3管(8倍)以上低かった場合を陽性,
  2管(4倍)低かった場合を疑陽性,不変または1管(2倍)低かった場合を陰性と判定した。
  なお,対照の抗体価が1:40(北海道・東北地方は1:10あるいは1:20も含む)で,2-ME処理後に1:10未満
  となった場合も陽性と判定した。
文献 1. Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169.
2. 松永泰子,矢部貞雄,谷口清州,中山幹男,倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況−厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票(1982〜1996)に基づく解析−. 感染症学雑誌. 1999. 73; 97-103.
3. 新井 智,多屋馨子,岡部信彦,高崎智彦,倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22.
4. Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300.

国立感染症研究所 ウイルス第一部
国立感染症研究所 感染症情報センター