ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査速報 −2008年第11報−
	日本脳炎は，日本脳炎ウイルスに感染したヒトのうち数百人に一人が発症すると考えられている重篤な脳炎である1）。ヒトへの感染は日本脳炎ウイルスを媒介する蚊（コガタアカイエカ）が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し，その後ヒトを刺すことにより起こる。 　感染症流行予測調査事業では，全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法（HI法）を用いて測定することにより，間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し，さらに2-メルカプトエタノール（2-ME）感受性抗体（IgM抗体）を保有している場合，そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。 　1960年代までは，毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており2），3），ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。Konnoらは，当時調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると，約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくると報告している4）。現在では，日本脳炎ワクチンの普及や生活環境の変化等により，ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者発生数は毎年数名程度であるが，ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域では，ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。 　本速報は，日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。また，それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報にも注意し，日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域においては，予防接種を受けていない人，乳幼児，高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。なお，日本脳炎に関するQ&Aについては以下のサイトをご覧ください。［ http://idsc.nih.go.jp/disease/JEncephalitis/QAJE.html ］
	2008-11 　都道府県別日本脳炎抗体保有状況の推移　⇒　地図 ／ 表 2008年9月9日現在 　都道府県におけると畜場のブタの日本脳炎抗体保有状況は下記のとおりである。 HI 抗体 2-ME 感受性 抗体 都道府県 採血月日 HI抗体 陽性率 * 2-ME感受性 抗体陽性率 ** コ メ ン ト ◎ 5/7 ◎ 6/16 沖 縄 7月28日 76% （19/25） 95% （18/19） 7月28日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ19頭はすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち18頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 前回（7月22日採血）の調査では24%（6/25）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち5頭のブタは抗体価1:40以上を示し，さらにそのうち2頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 ◎ 7/15 ◎ 7/15 鹿児島 8月26日 50% （10/20） 89% （8/9） 8月18日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ10頭のうち9頭は抗体価1:40以上を示し，そのうち8頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 前回（8月18日採血）の調査では90%（18/20）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち7頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 ◎ 8/4 ◎ 9/1 宮 崎 9月1日 100% （11/11） 33% （2/6） 8月4日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ11頭のうち6頭は抗体価1:40以上を示し，そのうち2頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 前回（8月25日採血）の調査では36%（4/11）のブタがHI抗体陽性であったが，それらのブタはすべて抗体価1:40未満であった。 ◎ 7/10 ◎ 7/24 大 分 8月12日 100% （20/20） 70% （14/20） 7月31日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ20頭はすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち14頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 前回（7月31日採血）の調査では85%（17/20）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち15頭のブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 ◎ 8/11 ◎ 8/11 熊 本 9月1日 10% （2/20） 100% （2/2） 8月25日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ2頭はすべて抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 前回（8月25日採血）の調査では50%（10/20）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち6頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 ◎ 7/1 ◎ 7/16 長 崎 9月2日 100% （10/10） 0% （0/10） 7月1日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ10頭はすべて抗体価1:40以上を示したが，2-ME感受性抗体は検出されなかった。 前回（8月27日採血）の調査では100%（10/10）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち1頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 ◎ 8/19 ◎ 8/19 佐 賀 9月2日 70% （7/10） 0% （0/7） 8月19日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ7頭はすべて抗体価1:40以上を示したが，2-ME感受性抗体は検出されなかった。 前回（8月26日採血）の調査では90%（9/10）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち6頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 ◎ 9/2 ◎ 9/2 福 岡 9月2日 40% （4/10） 25% （1/4） 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ4頭はすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち1頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 前回（8月26日採血）の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 7/3 ◎ 7/3 高 知 8月28日 100% （10/10） 0% （0/10） 7月10日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。 7月25日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ10頭はすべて抗体価1:40以上を示したが，2-ME感受性抗体は検出されなかった。 前回（8月21日採血）の調査では100%（10/10）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し，そのうち1頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 ◎ 7/28 ◎ 7/28 愛 媛 8月25日 10% （2/20） 0% （0/1） 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ2頭のうち1頭は抗体価1:40以上を示したが，2-ME感受性抗体は検出されなかった。 前回（8月11日採血）の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 7/28 ◎ 8/4 香 川 9月1日 100% （10/10） 100% （4/4） 7月28日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ10頭のうち4頭は抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 前回（8月25日採血）の調査では10%（1/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 ◎ 8/5 ◎ 8/5 徳 島 9月2日 100% （10/10） 0% （0/10） 8月5日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ10頭はすべて抗体価1:40以上を示したが，2-ME感受性抗体は検出されなかった。 前回（8月26日採血）の調査では100%（10/10）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示したが，2-ME感受性抗体は検出されなかった。 ◎ 8/4 ◎ 8/25 広 島 8月25日 80% （8/10） 67% （2/3） 8月25日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ8頭のうち3頭は抗体価1:40以上を示し，そのうち2頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 前回（8月11日採血）の調査では20%（2/10）のブタがHI抗体陽性であったが，それらのブタはすべて抗体価1:40未満であった。 ◎ 7/16 ◎ 7/16 島 根 8月20日 30% （3/10） 　 7月16日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ3頭はすべて抗体価1:40未満であった。 前回（8月8日採血）の調査では50%（5/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち1頭のブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 ◎ 7/10 　 鳥 取 8月6日 40% （4/10） 0% （0/1） 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ4頭のうち1頭は抗体価1:40以上を示したが，2-ME感受性抗体は検出されなかった。 前回（7月23日採血）の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 8/19 ◎ 8/19 兵 庫 8月26日 29% （4/14） 　 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ4頭はすべて抗体価1:40未満であった。 前回（8月19日採血）の調査では25%（3/12）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち1頭のブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 ◎ 8/27 ◎ 8/27 滋 賀 9月3日 30% （3/10） 100% （1/1） 8月27日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ3頭のうち1頭は抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 前回（8月27日採血）の調査では90%（9/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち3頭のブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 ◎ 7/14 ◎ 7/14 三 重 9月1日 100% （10/10） 71% （5/7） 7月14日採血分の調査でHI抗体陽性率が80%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ10頭のうち7頭は抗体価1:40以上を示し，そのうち5頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 前回（8月25日採血）の調査では100%（10/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち5頭のブタは抗体価1:40以上を示し，さらにそのうち3頭のブタから2-ME感受性抗体が検出された。 ◎ 8/25 ◎ 8/25 静 岡 9月3日 0% （0/10） 　 今回の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。 前回（8月25日採血）の調査では10%（1/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 　 　 山 梨 8月20日 0% （0/10） 　 前回（8月8日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 8/13 ◎ 8/13 石 川 9月3日 0% （0/10） 　 今回の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。 前回（8月26日採血）の調査では20%（2/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち1頭のブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 ◎ 7/1 ◎ 7/14 富 山 9月1〜 2日 40% （8/20） 100% （5/5） 7月22日採血分の調査でHI抗体陽性率が50%を超えた。 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ8頭のうち5頭は抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 前回（8月25〜26日採血）の調査では45%（9/20）のブタがHI抗体陽性であり，そのうち4頭のブタは抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 　 　 新 潟 9月1日 0% （0/10） 　 前回（8月25日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 　 　 神奈川 8月28日 0% （0/20） 　 前回（8月19日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 4/14 　 東 京 8月18日 0% （0/50） 　 前回（8月4日採血）の調査では2%（1/50）のブタがHI抗体陽性であったが，そのブタは抗体価1:40未満であった。 ◎ 8/11 ◎ 8/11 千 葉 9月1日 5% （1/20） 100% （1/1） 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ1頭は抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 前回（8月25日採血）の調査では10%（2/20）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:40以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された。 　 　 埼 玉 8月11日 0% （0/10） 　 前回（8月4日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 　 　 群 馬 9月1日 0% （0/20） 　 前回（8月27日採血）および前々回（8月20日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 7/22 　 栃 木 9月2日 0% （0/20） 　 前回（8月19日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 　 　 茨 城 9月2日 0% （0/22） 　 前回（8月26日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 　 　 福 島 8月19日 0% （0/10） 　 前回（8月5日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 7/23 ◎ 7/23 秋 田 8月6日 20% （2/10） 100% （2/2） 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ2頭はすべて抗体価1:10以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された（2-ME処理で1:20→1:10未満）。 前回（8月1日採血）の調査では10%（1/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのブタは抗体価1:10以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された（2-ME処理で1:40→1:10未満）。 前々回（7月23日採血）の調査では30%（3/10）のブタがHI抗体陽性であり，それらのブタはすべて抗体価1:10以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された（2-ME処理で1:20→1:10未満）。 　 　 宮 城 7月29日 0% （0/20） 　 　 ◎ 7/23 ◎ 7/23 青 森 （十和田） 9月3日 0% （0/10） 　 前回（8月25日採血）の調査でもHI抗体陽性のブタは認められなかった。 ◎ 7/23 ◎ 7/23 青 森 （田舎館） 9月3日 0% （0/10） 　 今回の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。 前回（8月25日採血）の調査では10%（1/10）のブタがHI抗体陽性であり，そのブタは抗体価1:10以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された（2-ME処理で1:20→1:10未満）。 ◎ 8/20 ◎ 8/20 北海道 （上富良野） 8月20日 20% （1/5） 100% （1/1） 今回の調査ではHI抗体陽性のブタ1頭は抗体価1:10以上を示し，2-ME感受性抗体も検出された（2-ME処理で1:40→1:10未満）。 前回（7月30日採血）の調査ではHI抗体陽性のブタは認められなかった。 　 　 北海道 （安平） 8月1日 0% （0/10） 　 　 　 　 北海道 （大空） 8月11日 0% （0/5） 　 　 　 　今シーズンの調査でブタの日本脳炎ウイルスに対するHI抗体陽性率が80%を超えた地区 　 　今シーズンの調査でブタに2-ME感受性抗体が検出され，さらにHI抗体陽性率が50%を超えた地区 　 　今シーズンの調査でブタに2-ME感受性抗体が検出された地区 ◎ 　今シーズンの調査でHI抗体陽性あるいは2-ME感受性抗体陽性のブタが認められたことを示す 　日付は今シーズンで初めて陽性のブタが認められた採血月日を示す *　　HI抗体は，抗体価1：10以上を陽性とした。 **　2-ME感受性抗体は，HI抗体価1：40以上（北海道・東北地方は1：10以上）であった検体について検査した。 　　 2-ME処理を行った血清のHI抗体価が未処理の血清（対照）と比較して，3管（8倍）以上低かった場合を陽性， 　　 2管（4倍）低かった場合を疑陽性，不変または1管（2倍）低かった場合を陰性と判定した。 　　 なお，対照のHI抗体価が1：40（北海道・東北地方は1：10あるいは1：20も含む）で，2-ME処理後に1：10未満 　　 となった場合も陽性と判定した。
	文献	1.	Southam, C. M., Serological studies of encephalitis in Japan. II. Inapparent infection by Japanese B encephalitis virus. Journal of Infectious diseases. 1956. 99: 163-169.
		2.	松永泰子，矢部貞雄，谷口清州，中山幹男，倉根一郎. 日本における近年の日本脳炎患者発生状況−厚生省伝染病流行予測調査および日本脳炎確認患者個人票（1982〜1996）に基づく解析−. 感染症学雑誌. 1999. 73; 97-103.
		3.	新井 智，多屋馨子，岡部信彦，高崎智彦，倉根一郎. わが国における日本脳炎の疫学と今後の対策について. 臨床とウイルス. 2004. 32(1): 13-22.
		4.	Konno, J., Endo, K., Agatsuma, H. and Ishida, Nakao. Cyclic outbreaks of Japanese encephalitis among pigs and humans. American Journal of epidemiology. 1966. 84: 292-300.
国立感染症研究所 ウイルス第一部 国立感染症研究所 感染症情報センター
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