ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査速報
−2001年第17報(最終報)−

 日本脳炎のヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(コガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(Hemagglutination inhibition test;HI法)を用いて測定することにより,間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。

 1960年代までは,毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくるとの報告もあるが,現在では,日本脳炎ワクチンの普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者発生数は毎年数名程度であるが,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。

 本速報は,日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報に注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域においては,予防接種を受けていない人,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
No. 2001-17(Last) 2001年11月2日現在
下記の都道府県における、調査ブタの日本脳炎抗体保有率は次の通りである。
推定
汚染地域
都道
府県
屠畜場
採血月日
検査数
HI抗体
陽性率
2-ME
感受性
*
今シーズン
初めて
新鮮感染の
確認された
採血日
その他


6月5日より

沖 縄 北部
8月21日
25
100%
(25/25頭)
12%
(3/25頭)
5月8日
8月14日は100%のブタ(25頭/25頭)がHI抗体陽性。2-ME感受性抗体は保持していなかった。
8月14日より
沖 縄 中南部
8月21日
25
44%
(11/25頭)
100%
(1/1頭)
6月5日
8月14日は88%のブタ(22頭/25頭)がHI抗体陽性。62%(8頭/13頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  宮 崎 都城
9月10日
11
45%
(5/11頭)
75%
(3/4頭)
8月20日
9月3日は45%のブタ(5頭/11頭)がHI抗体陽性。67%(2頭/3頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

6月29日より

8月22日より
大 分 大分
8月31日
20
100%
(20/20頭)
25%
(5/20頭)
6月20日
8月22日は60%のブタ(12頭/20頭)がHI抗体陽性,そのうち67%(8頭/12頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

9月10日より
熊 本 熊本
9月17日
20
30%
(6/20頭)
17%
(1/6頭)
8月27日 9月10日は70%のブタ(14頭/20頭)がHI抗体陽性。43%(6頭/14頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

8月7日より
長 崎 諫早
9月18日
14
100%
(14/14頭)
0%
(0/14頭)
7月17日
9月4日は100%のブタ(10頭/10頭)がHI抗体陽性。2-ME感受性抗体は保持していなかった。

8月10日より
佐 賀 佐賀
9月11日
10
100%
(10/10頭)
50%
(5/10頭)
8月10日
9月4日は100%のブタ(10頭/10頭)がHI抗体陽性。60%(6頭/10頭)は2-ME感受性抗体を保持していた。

8月7日より
福 岡 太宰府
9月4日
10
90%
(9/10頭)
44%
(4/9頭)
8月7日
8月28日は100%のブタ(10頭/10頭)がHI抗体陽性。2-ME感受性抗体は保持していなかった。

8月21日より
高 知 中村
9月11日
10
70%
(7/10頭)
0%
(0/7頭)
8月21日
9月4日は40%のブタ(4頭/10頭)がHI抗体陽性。そのうち100%(2頭/2頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

9月4日より
愛 媛 大洲
9月17日
20
25%
(5/20頭)
0%
(0/5頭)
9月4日 9月4日は75%のブタ(15頭/20頭)がHI抗体陽性。36%(5/14頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  香 川 坂出
9月10日
20
15%
(3/20頭)
  8月20日 9月3日は陰性(0頭/20頭)。

8月20日より
広 島 三次
9月26日
10
100%
(10/10頭)
100%
(9/9頭)
8月20日 9月17日は10%のブタ(1頭/10頭)がHI抗体陽性。100%(1/1頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  島 根 島根
9月17日
20
5%
(1/20頭)
100%
(1/1頭)
9月4日 9月4日は20%のブタ(4頭/20頭)がHI抗体陽性。そのうち100%(4頭/4頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

9月4日より
和歌山 9月4日
〜6日
15
53%
(8/15頭)
29%
(2/7頭)
9月4日 8月28日は陰性(0頭/19頭)。
  奈 良 奈良
9月11日
23
0%
    9月4日も陰性(0頭/19頭)。
  兵 庫 西播磨
10月15日
15
0%
  10月1日 10月1日は20%のブタ(3頭/15頭)がHI抗体陽性。100%(3頭/3頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  滋 賀 滋賀
9月20日
10
10%
(1/10頭)
    9月14日は陰性(0頭/10頭)。
  三 重 松阪
9月25日
10
80%
(8/10頭)
0%
(0/7頭)
  9月11日は10%のブタ(1頭/10頭)がHI抗体陽性。

8月13日より
静 岡 小笠
9月26日
20
95%
(19/20頭)
41%
(7/17頭)
7月23日
9月3日は90%のブタ(9頭/10頭)がHI抗体陽性。そのうち44%(4/9頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

9月14日より
山 梨 山梨
9月21日
10
60%
(6/10頭)
20%
(1/5頭)
9月14日 9月14日は80%のブタ(8頭/10頭)がHI抗体陽性。そのうち13%(1頭/8頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

9月5日より
石 川 金沢
9月26日
10
100%
(10/10頭)
20%
(2/10頭)
9月5日 9月18日は100%のブタ(10頭/10頭)がHI抗体陽性。80%(8頭/10頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

9月18日より
富 山 新湊
10月2日
20 60%
(12/20頭)
50%
(6/12頭)
9月11日 9月25日は20%のブタ(4頭/20頭)がHI抗体陽性。そのうち75%(3頭/4頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  新 潟 新潟
9月25日
10
10%
(1/10頭)
  9月17日 9月17日は10%のブタ(1頭/10頭)がHI抗体陽性。100%(1頭/1頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  神奈川 平塚
9月25日
20
10%
(2/20頭)
100%
(2/2頭)
9月4日 9月18日は陰性(0頭/20頭)。
  東 京 八王子
10月15日
〜18日
50 10%
(5/50頭)
50%
(2/4頭)
10月1日
〜4日
10月1日〜4日は4%のブタ(2頭/50頭)がHI抗体陽性。100%(2頭/2頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。

9月3日より
千 葉
10月15日
20
95%
(19/20頭)
0%
(0/17頭)
9月3日 10月1日は95%のブタ(19頭/20頭)がHI抗体陽性。79%(15頭/19頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  群 馬 玉村
9月18日
16
6%
(1/16頭)
    8月21日は陰性(0頭/16頭)。
  栃 木 宇都宮
10月15日
20
5%
(1/20頭)
  9月17日 10月1日は5%のブタ(1頭/20頭)がHI抗体陽性。
  茨 城 水戸
9月26日
13
15%
(2/13頭)
0%
(0/1頭)
9月19日 9月19日は8%のブタ(1頭/12頭)がHI抗体陽性。100%(1頭/1頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
  秋 田 秋田
9月27日
12 0%     9月13日も陰性(0頭/12頭)。
  宮 城 仙南
10月17日
27
0%
    10月1日は陰性(0頭/26頭)。
  青 森 十和田
9月下旬
10 0%     9月中旬も陰性(0頭/10頭)。
  青 森 津軽
9月下旬
10 0%     9月中旬は10%のブタ(1頭/10頭)がHI抗体陽性。
  北海道 道南
8月16日
10 0%     8月2日も陰性(0頭/10頭)。
  北海道 道央
8月27日
10 0%     8月20日も陰性(0頭/10頭)。
  北海道 北見
9月11日
10 0%     8月30日も陰性(0頭/10頭)。
  北海道 空知
9月27日
10 0%     9月10日も陰性(0頭/10頭)。
日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
(今シーズンの調査で、調査ブタにおいて、1:10以上のHI抗体保有率が50%を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域)

日本脳炎HI抗体及び2-ME感受性抗体の保有率以外の情報より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
* 2-ME感受性抗体の検査は、1:40以上のHI抗体価を示した血清について調査した。
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が80%を越えた地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が50%を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
    今シーズンの調査で、ブタの新鮮感染(2-ME感受性抗体)が検出された地域

国立感染症研究所 ウイルス第一部
国立感染症研究所 感染症情報センター

日本脳炎速報目次