ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査速報
−2000年第8報−

 日本脳炎のヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(コガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(Hemagglutination inhibition test;HI法)を用いて測定することにより,間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。

 1960年代までは,毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくるとの報告もあるが,現在では,日本脳炎ワクチンの普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者発生数は毎年数名程度であるが,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。

 本速報は,日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報に注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域においては,予防接種を受けていない人,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
No. 2000-8 2000年10月2日現在
下記の都道府県における屠畜場のブタの日本脳炎抗体保有率は次の通りである。
  都道
府県
屠畜場
採血月日
検査数 HI抗体
陽性率
(%)
2-ME
感受性
(%)
その他
沖 縄 北部
8月15日
25
100
0
 
中南部
8月15日
25
44
50
 
鹿児島 末吉
9月7日
10
90
22
8月31日は検査した全てのブタ(10頭/10頭)がHI抗体陽性。そのうち、60%(6頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
宮 崎 宮崎
9月4日
11
82
67
 
大 分 大分
9月20日
20
100
0
 
熊 本 熊本
9月11日
20
50
40
 
長 崎 諌早
9月14日
20
20
0
 
佐 賀 佐賀
9月11日
10
70
14
 
福 岡 太宰府
9月5日
10
100
0
 
高 知 中村
9月12日
10
100
0
9月5日も検査した全てのブタ(10頭/10頭)がHI抗体陽性、しかし2-ME感受性抗体は保持していなかった。
愛 媛 大洲
9月18日
20
100
65
 
香 川 綾上
9月11日
20
75
67
 
徳 島 鳴門
9月11日
10
100
20
 
広 島 三次
9月13日
10
70
29
9月7日は10%のブタ(1頭/10頭)がHI抗体陽性。この陽性ブタ(1頭)は2-ME感受性抗体を保持していた。
  島 根 島根
9月5日
20
15
100
 
和歌山 8月22日
〜25日
15
73
29
 
兵 庫 西播磨
9月25日
15
73
18
9月18日は60%のブタ(9頭/15頭)がHI抗体陽性。そのうち、33%(3頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
滋 賀 日野
9月22日
20
85
0
9月14日も85%のブタ(17頭/20頭)がHI抗体陽性であったが、2-ME感受性抗体は保持していなかった。
三 重 松阪
8月23日
10
100
10
 
静 岡 西部
9月4日
10
50
50
 
  山 梨 石和
9月11日
10
0
   
富 山 新湊
9月26日
20
55
36
9月19日は70%のブタ(14頭/20頭)がHI抗体陽性であったが、2-ME感受性抗体は保持していなかった。
  神奈川 平塚
9月19日
20
0
   
  東 京 八王子
9月18日
〜21日
50
2
  HI抗体陽性ブタ(1頭)の抗体価は1:20。
  千 葉
9月25日
20
0
  9月18日の検査でも陰性(0/20頭)。
  栃 木 宇都宮
9月18日
20
5
  陽性ブタ(1頭)のHI抗体価は1:10、9月4日の検査では全て陰性(0/20頭)。
  茨 城
8月28日
20
0
   
  秋 田 秋田
8月23日
13
0
   
  宮 城 仙南
9月18日
30
0
   
  北海道 札幌
8月18日
10
0
   
  道南
8月29日
10
0
   
ブタの抗体保有率より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
その他の情報より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が80%を越えた地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が50%を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
    今シーズンの調査で、ブタの新鮮感染(2-ME感受性抗体)が検出された地域

国立感染症研究所 ウイルス第一部
国立感染症研究所 感染症情報センター

日本脳炎速報目次