ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査速報
−2000年第4報−

 日本脳炎のヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(コガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(Hemagglutination inhibition test;HI法)を用いて測定することにより,間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。

 1960年代までは,毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくるとの報告もあるが,現在では,日本脳炎ワクチンの普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者発生数は毎年数名程度であるが,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。

 本速報は,日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報に注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域においては,予防接種を受けていない人,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
No. 2000-4 2000年8月17日現在
下記の都道府県における屠畜場のブタの日本脳炎抗体保有率は次の通りである。
 
都道
府県
屠畜場
採血月日
検査数
HI抗体
陽性率
(%)
2-ME
感受性
(%)
その他
沖 縄
北部
7月25日
25
100
96
 
中南部
7月25日
25
56
100
 
 
宮 崎
宮崎
8月7日
〜9日
10
10
100
7月24日の検査では陰性(0/20頭)
 
大 分
大分
7月12日
20
0
  6月30日の検査では陰性(0/20頭)
 
熊 本
熊本
7月31日
20
0
  7月24日の検査では陰性(0/20頭)
長 崎
諌早
8月9日
20
100
85
 
 
佐 賀
佐賀
8月1日
10
10
  陽性ブタの一頭はHI抗体価1:10
福 岡
太宰府
8月8日
10
100
50
 
高 知
中村
8月1日
10
100
0
 
愛 媛
大洲
8月1日
20
70
21
7月24日は5%のブタ(1頭/10頭)がHI抗体陽性。この一頭の陽性ブタは2-ME感受性。
香 川
綾上
8月8日
20
50
75
7月31日の検査では陰性(0/10頭)
 
徳 島
鳴門
8月7日
10
40
100
 
 
広 島
三次
7月26日
10
30
67
7月11日の検査では陰性(0/10頭)
 
島 根
島根
7月25日
20
10
  7月18日は20%のブタ(4頭/20頭)がHI抗体陽性。この4頭のブタのHI抗体価は1:10。
 
兵 庫
西播磨
7月24日
15
0
   
滋 賀
日野
8月4日
20
100
5
 
三 重
松阪
8月2日
10
100
60
 
 
静 岡
西部
7月24日
10
0
  7月17日の検査では陰性(0/10頭)
 
富 山
新湊
8月8日
20
15
  3頭の陽性ブタのHI抗体価は1:20以下
 
神奈川
平塚
7月25日
20
0
   
 
東 京
八王子
7月31日
〜8月3日
50
0
   
 
千 葉

8月7日
20
0
   
 
栃 木
宇都宮
7月31日
20
0
  7月24日の検査では陰性(0/20頭)
 
茨 城

8月7日
20
25
  5頭の陽性ブタのHI抗体価は1:10
 
宮 城
仙南
7月31日
27
0
   
ブタの抗体保有率より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
その他の情報より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が80%を越えた地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が50%を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
    今シーズンの調査で、ブタの新鮮感染(2-ME感受性抗体)が検出された地域

国立感染症研究所 ウイルス第一部
国立感染症研究所 感染症情報センター

日本脳炎速報目次