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2004/05シーズン前インフルエンザHI抗体保有状況調査速報 −第3報− (2004年12月17日現在) |
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感染症流行予測調査事業は、厚生労働省が実施主体となり、都道府県、都道府県衛生研究所ならびに国立感染症研究所が協力して、定期予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。 インフルエンザについては、本年度もインフルエンザ流行シーズン前、ワクチン接種前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、速報として報告されたデータから年齢群別抗体保有状況、および近年5年間の年次比較について掲載する。 本年度のインフルエンザ赤血球凝集抑制(HI)抗体測定には、次の4抗原が使用された。 このうち1、2、3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。 1.A / New Caledonia(ニューカレドニア)/ 20 / 99(H1N1) 2.A / Wyoming(ワイオミング)/ 3 / 2003(H3N2) 3.B / Shanghai(上海)/ 361 / 2002(山形系統株) 4.B / Brisbane(ブリスベン)/ 32 / 2002(ビクトリア系統株) 2004/2005シーズンワクチン株選定の経緯については、病原微生物検出情報IASR月報9月号(当センターホームページ上にも掲載)「平成16年度(2004/05シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過.」1を参照頂きたい。 一般の方々、医療従事者からよくある質問への対応に関しては、インフルエンザQ&A(2004年10月改訂)がHP(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/index.html)に公開されている2。また、当センターHP(http://idsc.nih. go.jp/index-j.html)上、トピックスのインフルエンザのサイト(http://idsc. nih.go.jp/disease/influenza/index.html)には、インフルエンザQ&Aを含め、インフルエンザ総説及び国内情報、インフルエンザ施設内感染予防の手引き、インフルエンザ国内患者発生動向調査、インフルエンザ国内分離状況、インフルエンザ抗体保有状況、インフルエンザ・海外の状況(リンク集)、IDWR2001年通巻第3巻第44号の「感染症の話」3を掲載しており、疫学、病原体、臨床症状、病原診断、予防・治療に関して解説がなされているのでこれからのシーズンに有用である。また、IASR月報の本年11月号はインフルエンザの特集号である4。 |
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調査結果および考察 | |||
採血時期は原則として2004年7-9月であるが、当該シーズンのインフルエンザの流行が終息していることが確実な場合は、この時期以前でも可とする。ただし5月以降であること。 2004(平成16)年12月17日現在、北海道、秋田県、山形県、福島県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、京都府、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、熊本県、宮崎県の22都道府県から合計6,070検体分の報告があった。 年齢群別の検査数は、0〜4歳:753例、5〜9歳:732例、10〜14歳:671例、15〜19歳:664例、 20〜29歳:721例、30〜39歳:717例、40〜49歳:620例、50〜59歳:632例、60歳以上:558例、 不明:2例であった。 A/New Caledonia/20/99(H1N1)に対する抗体保有率(1:40以上):有効防御免疫の指標と見なされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、10〜14歳群及び15〜19歳群で55%と比較的高く、5〜9歳、20代群ではそれぞれ46、33%であったが、30代、40代、50代、60歳以上群ではそれぞれ20、22、18、22%と低く、0〜4歳群では10%と極めて低い(図1上段)。 A/Wyoming/3/2003(H3N2)に対する抗体保有率(1:40以上):昨シーズンのわが国の流行はA/H3N2型が95%以上を占め、その中でもA/Fujian/411/2002に類似する株が90%以上を占めたことから1、今シーズンのワクチン株は4シーズン続いたA/Panama/2007/99からA/Wyoming/3/2003に変更された。A/Wyoming/3/2003 はA/Fujian/411/2002-like 株である。抗体保有率は10〜14歳群で77%と最も高く、5〜9歳群では68%、15〜19歳群で51%と比較的高い値を示したが、0〜4歳群及び成人層では21〜33%と低い。ただし、今シーズン調査株の中では最も抗体保有率が高く、昨シーズン流行の影響が考えられた(図1下段)。 B/Shanghai/361/2002(山形系統株)に対する抗体保有率(1:40以上):15〜19歳群で50%と最も高く、次いで10〜14歳、20代群でそれぞれ39、27%であったが、5〜9歳、30代、40代、60歳以上群ではそれぞれ21、21、16、12%と低く、特に0〜4歳群と50代群は3%、7%と極めて低い保有率であった(図2上段)。 B/Brisbane/32/2002(ビクトリア系統株)に対する抗体保有率(1:40以上):本株は、山形系統株である今年のワクチン株B/Shanghai/361/2002と異なり、ビクトリア系統株である。本株は今年のワクチン株が山形系統株であったことから別系統のウイルスの代表として一昨シーズンに流行の主流であった本株が調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率はすべての年齢群で極めて低く、最も高くても20代群及び30代群の12%であり、それ以外の年齢群はすべて10%未満と極めて低い(図2下段)。 近年5年間の1:40以上の抗体保有率の比較:2001年度調査以降、すべての株について60歳以上群で50代群より抗体保有率はわずかながら高値であり、ワクチン接種が65歳以上で定期接種に組み込まれた影響が示唆された。従来ワクチンの効果は5〜6か月程度と言われているが、毎年ワクチン接種を繰り返すことで、集団での抗体保有率は高くなることが考えられた。5〜19歳群は例年他の年齢層より抗体保有率が高い傾向にあるが、集団生活を送っている年齢層では、インフルエンザウイルスの曝露を頻回に受けることにより、他の年齢層より抗体価が高く維持されていることが推察される。今年度もビクトリア系統株以外では同様の傾向が認められた。 A/H1N1型の抗体保有率は、過去4年と比較すると0〜9歳群以外では最も高いかあるいは同等の保有率を示した。A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99が5年連続してワクチン株に選択されており、昨シーズン、一昨シーズンはA/H1N1の流行がなかったにもかかわらず抗体保有率が上昇していることは、ワクチンを連続して接種することによる効果が推察された。今シーズンは、10〜14歳群及び15〜19歳群が55%と抗体保有率のピークを示した。0〜4歳群、30代以上では抗体保有率が低かったことからワクチン接種を受ける等、注意が必要である(図3上段)。 A/H3N2型の抗体保有率は、昨年と比較するとすべての年齢層で低値であった。特に、0〜4歳群と20代〜30代群では過去4年間と比較しても低値である。今シーズンは昨シーズンに比べて特に成人層の抗体保有率が低く、ワクチン株類似のウイルスが流行する可能性が高いことから、抗体保有率の低い年齢層ではワクチン接種を積極的に受ける等、特に注意が必要である(図3下段)。 B型の抗体保有率は、ワクチン株であるB/Shanghai/361/2002(山形系統株)についてはすべての年齢層について、昨シーズンより高いか同等の抗体保有率を示したが、A型に比べると全年齢層で十分とは言えず、ワクチン接種が勧められる。一方、ワクチン株とは異なった系統のビクトリア系統株に関しては全年齢層で極めて低く、B型インフルエンザの動向に関しては注意が必要である(図4)。 |
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コメント | |||
2003/2004シーズンの流行はA型インフルエンザウイルス(H3N2)(以下A/H3N2型)が全体の95%を占め、残り5%がB型インフルエンザウイルス(以下B型)の混合流行であり、A型インフルエンザウイルス(H1N1)の流行は2002/2003シーズンに引き続き認められなかった5。また2003/2004シーズンの特徴は、患者から分離されたA/H3N2型ウイルスがA/Fujian/411/2002-like株であり、昨年のワクチン株であるA/Panama/2007/99とはHI試験で4倍以上の変異が認められ、抗原変異に関係する特徴的なアミノ酸置換も確認されており、変異株が流行していたことが既に確認されている5。今年のワクチン株は昨シーズン流行の主流であった株から選択されていること1、0〜4歳群ならびに成人層で抗体保有率が低いことから、全国的な流行が始まる前にワクチン接種を受けておくことが強く勧められる。B型については昨シーズン大きな流行は認められなかったものの、世界的なウイルス分離の結果から山形系統株が主流になってきており、今シーズンは山形系統からワクチン株が選択されている1。厚生労働省によると、今シーズンは平成16年11月27日までに、既に大阪府、群馬県でA/H3N2型による学級閉鎖、神奈川県でA/H3型による休校、兵庫県でB型による学年閉鎖、学級閉鎖、岡山県でA/H1N1型による学級閉鎖が報告されており6,7,8,9、さらに地域流行の報告が出されている東京から10、感染症法に基づいた急性脳炎の全数報告により、インフルエンザ脳症の患者報告がなされている11。また、愛知県では海外渡航者からA/H3N2型ウイルスが分離されている12。現時点での抗体保有率は十分とは言えないことから、早めの対策が求められる。 | |||
参考文献 | |||
1) | 小田切孝人、田代眞人 平成16年度(2004/05シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過 IASR 2004; 25(9), 238-239 |
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2) | インフルエンザQ&A
2004年10月改訂 http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/index.html |
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3) | 国立感染症研究所感染症情報センター 感染症の話「インフルエンザ」 IDWR 2001; 3(44), 8-12 |
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4) | 国立感染症研究所、厚生労働省健康局結核感染症課 インフルエンザ 2003/04シーズン IASR 2004; 25(11), 278-279 |
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5) | 国立感染症研究所ウイルス第3部第1室、WHOインフルエンザ協力センター 2003/04シーズンのインフルエンザウイルス流行株の解析 IASR 2004; 25(11), 280-285 |
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6) | 加瀬哲男、森川佐依子、宮川広実、奥野良信、溝口好美、岩城大、山本威久 9月におけるAH3型インフルエンザウイルスの分離−大阪府箕面市 IASR 2004; 25(11), 290-291 |
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7) | 森川佐依子、宮川広実、加瀬哲男、奥野良信 2004/05シーズンAH3型インフルエンザの流行−大阪府 IASR 2004; 25(11).291-292 |
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8) | 山岡政興、押部智宏、柏木航、砂原惠、佐野静子、村上政江、柳川拓三、古田博巳、稲田忠明 2004年11月の集団発生からのB型インフルエンザウイルスの分離−兵庫県 http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr2981.html |
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9) | 葛谷光隆、濱野雅子、藤井理津志、小倉肇、太田久恵、綱島公子、曽根啓一 今冬初発集団かぜからのAH1型インフルエンザウイルスの分離−岡山県http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr2983.html |
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10) | 新開敬行、長谷川道弥、田部井由紀子、岩崎則子、貞升健志、甲斐明美、諸角聖、植松たえ子、阿保満 東京都内におけるインフルエンザの地域流行 http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr2984.html |
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11) | 厚生労働省、国立感染症研究所 発生動向総覧. 感染症週報 IDWR 2004; 6(42), 2 |
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12) | 佐藤克彦、秦眞美、榮賢司、熊谷則道、清水なつき、柳井慶明、橋本迪子 3名の海外渡航者から分離されたA香港型インフルエンザウイルス−愛知県 IASR 2004; 25(11), 290 |
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国立感染症研究所 感染症情報センター第3室 国立感染症研究所 ウイルス第3部第1室 |
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⇒ インフルエンザ速報目次 |