2000/01シーズン前インフルエンザHI抗体保有状況調査速報
−第3報−

(2000年11月28日現在)

 厚生省感染症流行予測調査事業では、各都道府県と協力して、予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、本年度もインフルエンザ流行シーズン前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、速報として報告されたデータから、おおまかな年齢群別抗体保有状況について掲載する。

 本年度のインフルエンザHI抗体測定には、次の5抗原が使用された。このうち1、3、4が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。

 1. A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
 2. A/Moscow(モスクワ)/13/98(H1N1)
 3. A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)
 4. B/Yamanashi(山梨)/166/98(山形系統株)
 5. B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)
調査結果および考察
 2000年(平成12年)11月28日現在、高知、福島、長野、静岡、奈良、宮崎、富山、北海道、山形、神奈川、新潟、山口、熊本の13県から合計3,254検体分の調査成績が寄せられた。

 年齢群別の検査数は、抗原によっては1例少ない群があるが、概ね0-4歳:382例、5-9歳:344例、10-14歳:328例、15-19歳:294例、20-29歳:449例、30-39歳:466例、40-49歳:341例、50-59歳:339例、60歳以上:311例であった。

図1図2はHI抗体価の10およびHI抗体価40の2つの抗体価での保有率を表示した。HI抗体価40以上の抗体価で感染防御能があるとされている。また、平成11年度との比較の図2においては、A/H3N2抗原として、平成11年度はA/シドニー、今年度はA/パナマの抗原を用いた結果を示した。

A/New Caledonia/20/99(H1N1)に対する抗体保有率
本株は、1999/2000シーズンのH1N1の主流行株であり、また昨シーズンのワクチン株 A/Beijing/262/95に対する免疫血清が本株に対して十分な交叉反応を示さないことから、2000/2001シーズンのワクチン株として採用されている。この株に対する有効防御免疫の指標とみなされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、若年層では20〜40%であったが、20歳以上の年齢層では低い。

A/Moscow/13/98(H1N1)に対する抗体保有率
本株は、抗原的にも遺伝子的にもA/New Caledonia/20/99とは全く異なるグループに属する抗原変異株である。この株に対するHI抗体価40以上の抗体保有率は、5〜30歳の年齢層では比較的高いが、30歳以上の年齢層では低い。

A/Panama/2007/99(H3N2)に対する抗体保有率
本株は、1999/2000シーズンのH3N2の主流行株であり、今シーズンも流行することが予想されているので2000/2001シーズンのワクチン株として採用されている。0〜14歳までの低年齢層で高いHI抗体保有率が見られたが、成人、高齢者層での保有率は低い。

B/Yamanashi/166/98に対する抗体保有率
本株は、2000/2001シーズンのワクチン株として採用されている。この株に対するHI抗体価40以上の抗体保有率は、10〜14歳の年齢層を除いて、全年齢層で低い。

B/Shangdon/7/97に対する抗体保有率
本株は、1998/1999シーズンのワクチン株である。世界的にも、この系統に属するB型ウイルスの流行は2年間起こっておらず、今後も大きな流行は起こらないと考えられる。この株に対するHI抗体保有率は、全年齢層で極めて低い。
コメント
 1999/2000シーズンの流行はH1N1、H3N2の混合流行(6:4)で あった。B型ウイルスは、国内では14株分離されたものの、流行は認められなかっ た。
 A/ソ連型(H1N1)では、次シーズンのワクチン株であるA/New Caledonia/20/99類似株およびそれと抗原的に似ているA/Beijing/262/95類似株の流行が主であった。この流行パターンは、欧米のみならず今年の南半球においても同様であったことから、次シーズンもこれらに対する警戒が必要である。さらに、A/New Caledonia/20/99に対するHI抗体保有率が成人層や高齢者で極めて低いことから、この株によるワクチン接種が強く推奨される。一方、同じH1N1ではあるが、A/New Caledonia/20/99とは抗原的にも遺伝的にも異なるグループに属するA/Moscow/13/98類似の変異株が神奈川県および千葉県から数株づつ分離されている。今後この類似株による感染の広がりに注視する必要がある。
 A/香港型(H3N2)では、A/Sydney/5/97および次シーズンのワクチン株であるA/Panama/2007/99類似株の流行が主であった。欧米や南半球におけるH3亜型の流行もA/Panama/2007/99類似株が主流であったことから、今シーズンもH3N2ではこれと類似のウイルスが流行の主流を占めることが予想される。この株に対するHI抗体保有率が15歳以上の成人および高齢者層で低いことなどから、ワクチン接種によって高い抗体価を獲得することが必要である。
 B型ウイルスについては、前年度には流行が起こらなかったこと、および今年度のワクチン株B/Yamanashi/166/98に対する抗体保有率が全年齢層に渡って低いことから、B型ウイルスによる流行の広がりが危惧される。従って、ワクチン接種によって高い抗体価を獲得することが必要である。

国立感染症研究所 感染症情報センター 予防接種室
国立感染症研究所 ウイルス第1部 呼吸器系ウイルス室

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