1999/2000シーズン前インフルエンザHI抗体保有状況調査速報
−第1報−

(1999年10月26日現在)

 厚生省感染症流行予測調査事業では、各都道府県と協力して、予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、患者からのウイルス分離、分離されたウイルスの性状検査とともに、インフルエンザ流行シーズン前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、一般国民の年齢別抗体保有状況について速報として報告されたデータについてのおおまかな集計を掲載する。

 本年度のインフルエンザHI抗体測定には、次の4抗原が使用された。このうち1、2、3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。

 1. A/Beijing(北京)/262/95(H1N1)
 2. A/Sydney(シドニー)/5/97(H3N2)
 3. B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)
 4. B/Yamanashi(山梨)/166/98(山形系統株)


 なお、抗体価の表示は1:10を最低抗体価とする新しい表示法によった。(*注)
調査結果および考察
 1999年(平成11年)10月26日現在、神奈川、静岡、福島、山形より感受性調査結果が報告されている。

 年齢群別の検査数は、0-4歳:94例、5-9歳:90例、10-14歳:87例、15-19歳:85例、20-29歳:101例、30-39歳:103例、40-49歳:106例、50-59歳:105例、60歳以上:88例で、総数859例である。

なお、集計はHI抗体価の陽性基準として1:10および1:40との2つの抗体価で集計した。1:40以上の抗体価で感染防御能があるとされている。また、A/シドニー(H3N2)に対しては、1:80についても図示した。

A/北京/262/95(H1N1)に対する抗体保有率(図1
本株は、本年度を含めて3シーズンのワクチン使用株である。(H1N1)型は、ここ数年散発的に分離されているが、流行の主体とはなっていない。そのため年々抗体保有率は低下してきている。特に10歳未満と20歳以上の年齢群では保有率が低い。

A/シドニー/5/97(H3N2)に対する抗体保有率(図2
本株は、昨年度と本年度のワクチン使用株である。過去2シーズンに亘って流行の主体となってきたために、高い抗体保有率を示している。本株類似ウイルスが本シーズンも流行の主体であれば大きな流行とはならないであろう。しかし、抗原性の変化にも対応するためには、1:80以上の抗体価が必要とされるが、特に20歳以上の年齢群では、その保有率が低い。

B/山東/7/97に対する抗体保有率(図3
本株は、本年度のワクチン使用株である。昨シーズンまで使用されてきたB/三重/1/93とは抗原性が異なる。本株は、ビクトリア系統に属し、従来散発的に分離されてきた。本株に対する抗体保有率は、20歳代が若干高いものの大部分の年齢群において低い。

B/山梨/166/98に対する抗体保有率(図4
本株は、昨シーズンのB型インフルエンザ流行株のうちB/ハルピン/7/94系統株を代表して本年度調査に用いた。5-9歳群が58%、10歳代が約70%と、B/山東に対するよりも高い保有率を示している。

平成10年度調査成績との比較
本年度調査速報のうち、A/北京/262/95(H1N1)とA/シドニー/5/97(H3N2)について昨年度の速報-4の成績と比較して図に示した。A/北京(H1N1)では、10歳未満と30歳以上の年齢群で、1:10以上の抗体保有率が低下している(図5)。一方、A/シドニー(H3N2)では、5歳以上の全年齢群において1:10以上の抗体保有率が10%前後上昇している(図6)。しかし、本年度調査結果はまだ一部のみが報告されている段階であり、保有率の数字は今後修正が加えられる予定である。
コメント
 A/ソ連型(H1N1)は、これまで3年間流行がなかったこと、各年齢群における抗体保有率がかなり低いこと等から、今シーズンは流行する可能性を考慮しておくべきであろう。
 A/香港型(H3N2)では、今年の 南半球における流行でも昨シーズンと同様のA/シドニー類似株が主流を占めており、大きく抗原性がずれたウイルスはほとんど分離されていない。WHO(世界保健機関)をはじめ諸外国ではA/香港(H3N2)、シドニー類似株の流行が主となると予想しているが、我が国における高い抗体保有状況を見ると、この類似株が主流行株となった場合には、流行は大きくならないことが予想される。しかしながら、東アジアでわずかながら広がりを見せているA/福島株様の、シドニー株から2管以上抗原変異したウイルス株が流行した場合には、シドニー株に対して抗体価の高くない(40倍以下)高齢者の間では感染が拡大することが危惧される。従って、ワクチン接種によって高い抗体価を持たせることが必要であろう。
 一方B型については、ワクチン株であるビクトリア系統のB/山東株および昨年のワクチン株系統のB/山梨株に対しても抗体保有率は依然低く、B型に対する注意も必要と考えられる。
 感染症研究所ウイルス第1部呼吸器系ウイルス室によると、本シーズンに入って最初のインフルエンザウイルス分離報告が、静岡県から届いた。家族内流行に際し、2歳の子供からH3型ウイルスを分離し、それはシドニー類似株であったとのことである。

*注
 従来、インフルエンザHI試験では、HI反応液全量に対する血清の最終希釈倍数を使ってきた。一方、風疹、麻疹、日本脳炎等のHI試験では反応液量とは無関係に血清のみの希釈倍数を用いている。そこでインフルエンザについても、従来の表記法を他の検査法と合わせるために、1998年、国際的な取り決めがなされた。その際、最低希釈倍数を、前処理した1:8からスタートすると、従来法と混乱するために、血清に希釈液を追加して1:10とし、10倍を最低希釈倍数とすることになった。

国立感染症研究所 感染症情報センター 予防接種室

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