国立感染症研究所 感染症情報センター
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Q2. 海外渡航時の麻疹ワクチンについて


 今年8月に海外研修(2週間程度)があり、50〜60名の生徒をカナダに連れて行きますが麻しんの予防接種を2回してから出国した方がよいか迷っています。

 2007年カナダでの日本人生徒の麻しん発症や、それによる他生徒の出国延期を考慮しますと強制ではありませんが参加生徒が2回接種を済ませていただいた方が良いだろうと考えております。ただ、カナダ入国の際2回接種の義務づけはないそうで、どうしたらよいのか決めかねています。お忙しいところ大変恐縮ですが、麻しん予防接種についてご助言いただければ幸いです。

(都内高等学校 養護教諭)


答え


  カナダは、確かに入国者全員に対して麻疹の2回の予防接種が完了していることを義務付けているわけではありません。しかしながら、おっしゃる通り、2007年の日本の修学旅行生が引き起こした麻疹の事例は、カナダおよび日本の双方に対して、多大なる損害を与えるものであったことは確かです。

 2回の接種を実施している理由は、1回の接種では免疫がつかなかった、あるいは十分ではなかったものに対して、再度、免疫を与えることで、麻疹に対して、一層強固な免疫を確実にすること、加えて、1回目を接種しそびれたものにもう一度チャンスを与えることにあります。ですので、免疫が確実につくということを想定すると、

1.抗体検査は実施せずに、2回目の接種を完了してから渡航する

2.修学旅行前に抗体を検査し、抗体の有無を確認するとともに、抗体のないものに対して再度、接種を実施するが考えられると思います。

1の場合、1回目の接種のチャンスは子どもの頃と思われますが、必ず、母子手帳等を利用して、記録で確認してください。記憶はだめです。子どものころの接種が記録で確認できない場合は、今回が初めての接種であると考え、最低1回、あるいは4週間以上の間隔をあけて2回の接種を済ませてから渡航します。

2の場合、抗体検査の結果は、あくまでも採血時点のものであり、それが永久的に継続するものではないことに注意が必要です。定期接種の対象(高校3年生に相当するもの)であるときは、抗体の有無に関わらず、接種を受けるようにしてください。また、高校3年生に相当する時期に受けるワクチンは麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が原則です。

 今回は麻疹対策として予防接種を考慮されていますが、風疹も予防が非常に重要な感染症ですので、このあたりの確認もあわせてよろしくお願い申し上げます。

 抗体検査にもいろいろ種類がありますので、検査を実施する臨床医と十分に相談されてください。EIA法やPA法、中和法が望ましいと考えられていますが、医療従事者を対象とした日本環境感染学会から出しているガイドラインによると、基準はかなり高く設定されていますので、そのまま高校生にあてはまるものではありませんが、EIA法であれば16.0以上、PA法であれば1:256以上、中和法であれば1:8以上の抗体があれば十分と考えられています。他にHI法やCF法等がありますが、前述の方法に比べますと感度等に問題がありますので、お奨めできません。

 理想的には、全員が2回目の接種を完了してから渡航するのが望ましいと思いますが、接種や抗体検査等の費用面、および渡航までの時間等に応じて、臨機応変に対応することが肝要と存じます。また、接種を受けたくても受けられない医療上の理由をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますので、その辺りの配慮も必要です。

 カナダではバンクーバーオリンピックに起源すると思われる麻疹患者の発生が見られており、海外からの渡航者と何らかの関連があるのではないかと考えられています。幸い、日本ではないようですが、世界的に“麻疹の輸出・輸入”に関しては、日本よりも厳格に取り扱われるのが現状ですので、十分に準備をされてから渡航してください。

 また、以前、大変なご苦労をされた高等学校の先生のお話しを伺いましたが、渡航に際して、求められる・求められないに関わらず、口頭でワクチンを受けたあるいは麻疹に罹ったことがあるという説明では、全く役に立たなかったことを伺っておりますので、是非、英文での2回の予防接種済み証明書(あるいは最近受けた抗体検査結果を英文で書いたもの)を持参して渡航されることをお奨めいたします。



(2010/5/28 IDSC 更新)

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