感染症流行調査の進め方
−大規模集団感染・堺市での経験から−

堺市北保健所所長

更家 充


A.
FOOD TO PERSON   (1次感染) の調査研究
PERSON TO PERSON (2次感染) の調査研究

B.
結果が,緊急に必要な調査(原因施設・食品・食材,汚染原因病原体)
将来に対して,有益と思われる調査研究(生活指導,保健指導,予防対策)


1.食中毒原因究明調査の方法と推論過程
1.1.実施した各種調査

(1)患者の状況調査
症状(発症日 推移) 年齢 地域分布 学校名
受診医療機関 入院医療機関 治療状況 検査状況
(2)患者初期細菌学的調査・検査
吐物・便の採取 検便
(3)給食施設関係調査・検査
保存食(3日分 ,一部5日分)の採取・検査 ふきとり検査 使用水の検査
汚水の検査
調理状況,調理従事者,食品の取扱,器具用具,調理施設・設備
(4)給食システム調査
堺市を3ブロックにわけて2ケ月単位で献立作成
学校保健課が調理マニュアル ,各校自校調理
(5)食中毒調査票にもとづく喫食調査
発症日,受診日,医療機関名,症状,献立名による喫食調査(1日−10日)
入院患者は,食品衛生監視員が調査 その他は,学校の先生が調査。
(6)欠食児童の調査
入院患者および発症者の欠食状況
(7)食材の流通調査・細菌学的調査
堺市学校給食協会・食材運搬業者・食材納入業者の調査
全国的調査も
(8)検便,細菌学的検査(DNA分析も含めて)
(9)その他の調査
天候調査
(10)貝割れ大根をターゲットにした集中調査・実験
流通経路調査 2次流通先調査 貝割れの汚染についての実験・種子調査
堺市以外のO157感染との関連
原因究明プロジェクトが,国・大阪府・堺市で組織された。

 8月 7日
堺市学童集団下痢症原因究明について「中間報告」
(厚生省病原性大腸菌O157対策本部)
 9月26日
堺市学童集団下痢症原因究明について「調査結果まとめ」
(厚生省病原性大腸菌O157対策本部)
11月 1日
堺市学童集団下痢症原因究明について
(堺市学童集団下痢症対策本部)


1.2.推論過程と仮説の検証
初期の発症者は学童及び教職員で,発症校は多数である。
発症校に共通の行事や給食以外の共通の食品はない。

仮説:学校給食に起因する食中毒である。


発症学童に地域的偏りがあり,それは,給食メニューの3ブロック制に合致する。
Aブロックでは,殆ど全ての学校で発症し,Bブロックでは発症が殆どなく,Cブロックでは,<all or nothing>でほぼ半数が発症校である。

仮説:調理方法よりは,食材の汚染に問題がある。汚染は,学校に届く前である。
Cブロックの非発症校には,汚染されていない食材が配送されていた。


入院学童の欠席は,Aブロックでは9日,Cブロックでは8日にはない。
また,有症者の欠席も,Aブロックでは9日,Cブロックでは8日に少ない。

仮説:O157に暴露された日としては,Aブロックでは9日,Cブロックでは8日である。


O157は加熱調理で死滅する。
Aブロックでの9日,Cブロックでの8日の献立の中には,共通の非加熱食材として,貝割れ大根があった。

仮説:特定施設の特定日に出荷された買い割れ大根が原因食材? (係争中)


それぞれの仮説を否定するような資料がないかどうかを,限られた条件の中で,多方面から検討していく作業が必要である。


2.医学臨床疫学調査委員会の活動
保健医療プロジェクトの活動
 複数の資料を統括してのデータベース化
  発症日,症状,受診,入院,家族状況,検便

医学臨床疫学調査委員会
 平成8年9月に設置(堺市医師会に事務局)
  疫学部会
  臨床部会 臨床成績解析小部会 無症状菌陽性者検討小部会 後遺症追跡小部会

保健医療プロジェクトに集められた資料をベースに,さらに調査を実施し,各資料間の整理を膨大なエネルギーを使って行っている。

 基本情報DB
 患者届け出DB
 食品調査DB
 入院患者DB
 検便DB
 全学童検便DB
 受診者調査DB
 訪問DB

大阪府の調査研究会(臨床部会,疫学調査部会)とも連絡をとりながら進めており,まとめの最後の段階に入りつつある。(詳しい分析には,さらに時間が必要である)


3.2次感染経路調査
暴露校の有症状の学童のいる世帯で
(1)学童以外に,有症状あるいは菌陽性者(つまり2次感染者)の出た世帯,個人
(2)出なかった世帯,個人

住居形式 トイレ 学童の症状 下痢便の処理法 汚れた衣類の処理法 汚れた場
所の処理法 手洗い タオル 入浴 ビニールプール 遊び場 寝具 etc.


4.今後の調査課題  どこまでできるか?
(1)臨床のフォローアップ
(2)抗体検査
(3)学童の生活習慣調査





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