感染症流行調査 1 浦和市の幼稚園での集団感染

神奈川県立栄養短大学長

鈴木 忠義


1.報告書の発刊に寄せる「所感」
 正式名「腸管出血性大腸菌による幼稚園集団下痢症」
 −−S幼稚園集団下痢症発生事件−−報告書 平成3年10月 埼玉県衛生部
(1)私への第一報は夜8時半
県庁のある浦和から電車で1時間半離れた市のスナック。県庁は大変だったらしい。
部長は休暇。ゴルフ。どこ?。だれと?。ではあの店。
感染症で死亡例は初めて。
(2)マスコミの対応は大変。*冷静な対応に誘導。テレビニュースも使い方。
(3)対策本部の設置。効果は書いたとうり。本部長は悠々と。陣頭指揮はダメ
報告して指示をもらおうにも大将が第一線に出てつかまらなかったら困る。
(4)最も知りたかったこと。重症化し、死に至るといううサインはあるか?
(5)旧い時代の赤痢(いうまでもない 志賀菌 真っ赤な血便)
このことは最後に触れたい。

2.初動の重要性
(1)情報は最初の重要性の判断が決め手。経験者が少ない。
(2)最初の情報
第2死亡者発生−・主治医が疑問−・院内調整−・保健所報告(関係調査)−・
上級機関(関係調査)−・患者住所地保健所=・関係医療機関等
(3)開始直後の情報(図1)
訂正すべきものもあるが敢えて最初のもの。
(4)閉鎖集団の現況
(5)水の疑い(後述)。この時点で食品はほぼ否定した。
なお 2.高校生の事例ほか次頁にかけ2件続発

3.
(1)国内分布の密度に言及。これは本件の調査とは無関係
(2)当然ながら食物と飲用水
(3)集団で喫食する食品は少なく、しかも疑わしい点はなかった(表2)。
(4)園児は井戸水3.の(図2)(図3)(隣接する園長先生の自宅は上水道)
(5)井戸から給水栓(蛇口)まで日を追って採取した検体から菌検出。
この表は繰り返し検査の重要性を教える。
(6)浄化槽からの汚水を受けるタンクが破損・底抜け(図2)(図3)
(7)井戸周辺地表から食塩水浸透試験
(8)番号を振らなかったが、臨床専門部会を設置した。
あまりにも劇的な症状で死亡例を出した。ことを重視して。

4.その報告
(1)臨床経過とO−157検出例。左上(表4)。
分析対象174例(詳細は本文にあり)ではO−157検出例があきらかに重症
ただし、右の(表5)では、病原大腸菌の検出の有無と症状の有無は関係がない
(2)検便の実施 4.(表1−1)(表1−2)
未実施者がいる。園児は高い。その他は幼稚園の運動会関係者が多かった。
特にO−157に顕著に園児に高い。先生の全員陰性は?
あくまで推論だが、抗生物質の服用などが行われたかもしれない。
(こうしたことはしばしばある。その時は培地上の大腸菌もきわめて少ない)
(3)このことは心に留めておくべきこと。
○その下、数字ををつけなかったが(表1−2)
菌型は1種13、2種16、3種4、計33種153人
O−157単独と含むもの計43人 O−126単独と含むもの計43人
(4)追いかけきれない。防疫活動は事件の拡大防止と再発防止にある
警察とは違う。犯人捜しにエネルギーを割くべきではない。
(5)私は伝染病だとおもった。
今反省することは、この時点でより強い意見を国に述べ、そしてマスコミに伝えて報道してもらっておけば、国民の間に『伝染病』という認識が広まり警戒心が強くなったかもしれないとおもう。

5.
 表6、表7は臨床例の検討である。 参考までに

6.
左上 対策本部の組織図
左下 日別患者発生状況
右  閉鎖集団場合は比較も重要 この二つはできるだけ早く。

7.与えられた事例ではないが過去に経験した事例が私を育てた。
湯河原町腸チフス集団発生事例報告書 昭和52年 2月 神奈川県衛生部
すべての都道府県、政令市の衛生部局と医科大学、大学医学部に送った。
41字 42行 135ページ 約23万字  400字詰め580枚
(1)昭和50年の事例     
こんな情報があった。
同じ  腸チフスの疑い第1報 防疫活動開始
 患者発生報告
 医療機関調査
 患者発生確認調査 2件
 医療機関 患者リストアップ(疑わしいものも含めて)
 簡易水道配管図手配
 (実際に手にしたのは10日も経ってだった。環境衛生課長に上がっていった。)
・県庁での動き

8.
 患者数推移表日時別−−記者発表など「○○時現在」として張り出した。
 別に作成する患者(疑わしい症状を有するもの・臨床決定・菌決定)一連名簿から

9.
 患者発生関係指揮系統図
この図のように組織的に動くまでにまる2日ぐらい経っている
*最初は県庁、医師会、医療機関すべての情報は私を指名してきた。
町民からの苦情も意見も情報も同じくだった。
*仕事がはかどらず指示待ちの情報がたまった。
その都度特定者を指名して情報ルートを限定し、あらゆる情報を把握、整理させた。
*基本的に指揮者は1人。特定者からのみ整理された報告を受け時間を節約した。
後は指示するのみ。考えるのみ
(実際には外部からの問い合わせが多く、取りあえずでる職員は詰問調の内容に立ち往生して私が説明に立つ。役場中をあらゆる電話機をさがして駆け回った。)

10.最後に
 Sは易しい事例だった。
 大変だったが不謹慎かもしれないが衛生行政に従事して幸せを感じた。





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