適切な<医療体制>について
− 大規模集団感染・堺市での経験から −

堺市北保健所所長

更家 充


はじめに
堺市: 明治22年 市制施行

平成8年1月1日 人口803,501人(14位) 面積136.78Km2 高齢化率11.4%

4月1日 中核市に (昭和23年より,保健所政令市)
近い将来の政令指定都市(6区体制)をめざす

堺市学童集団下痢症対策本部:本部長(7/13局長→7/14助役→7/16市長)
  
副本部長(助役,教育長,環境保健局長,教育次長,堺病院院長)

本部体制の評価・あり方:
衛生部と教育委員会とその他の部局
本部と保健所,教育委員会と学校の関係

国・府と堺市との役割分担(調査等でも)
学校給食=
食材は一括購入,献立は全市6支所区域を (1)堺・西 (2)北・東 (3)南・中の3ブロックごとに同一献立 自校調理方式


衛生部・保健所に連絡があったのは,7月13日(土)午前10時であった

(1)5000人を越える大規模発生であった。何をするにしても「困難さ」が。
(2)「O-157」という,実にいやらしい菌が原因菌であった。
無症状,消化器症状,HUS,死亡という幅の広さ
(3)まずは,現状把握,病状把握が困難であった。(病気だから,経過がある)
(4)7月13日・14日の土曜・日曜に患者が多数発生したため,休日における医療対応が必要であった。
(5)7月15日頃から, HUSが出始め,高次医療機関対応が求められた。
(6)医療・保健関係者の中でも, O-157が必ずしも認識されていなかった。
(7)安全であるべき学校給食という制度の中でおきた。
(8)2次感染防止活動をひきずりすぎた。
(9)本部体制・衛生部と教育委員会,国・府・堺市の役割分担のあり方
(10)報道対応・情報公開のあり方

厚生省見解:
曝露日 (2)北・東は8日 (3)南・中は9日  発症:7/10から特定施設の特定日に出荷されたカイワレ大根が原因である可能性が高い

患者の発生状況     死者:2名(3名になった)   9/27プレス発表
食中毒(1次感染患者)5591名(学童  5499,学校職員 92)
発症した学童を有する世帯の患者数80名(未就学児 59,中学生以上21)
発症した学童を有しない世帯の患者数56名(未就学児 20,中学生以上36)
入院患者数 805名(学童678,幼児75,成人52)
7/16日 学校調査による暴露校における平均有症率  (92校中47校)
  
南区域:27.5%  中区域:18.3%  北区域:21.6%  東区域:23.8%
無料検便による菌陽性者1321名(
(全検体数181,634件)
学童1068,学校職員18,発症した学童を有する世帯165,発症した学童を有しない世帯70)
医療相談ホットライン       17,811件

(現在,8月の報告書発行に向けて,検討作業継続中)


1.「適切」な「医療体制」の意味すること
(1)<適切な><医療機関>を選べること
情報(診療時間,科目,距離,種々の評判) 選択
(2)選んだ<医療機関>を<適切に>受診できること
足・車の便・待ち時間
(3)<医療機関>で<適切な>診察を受けること
問診 現症 必要な検査
時間と診察の体制が必要(マンパワー:量・能力 検査体制)
(4)<医療機関>で<適切な>診断をされること
総合判断で診断
時間と診断の体制が必要(マンパワー:量,能力)
(5)診断に基づいて,<医療機関>で<適切な>治療・処置が選択されること
治療のメニュー 治療の選択
(6)<医療機関>で<適切な>治療・処置・指導を受けること
通院・入院の別 服薬のみ 点滴処置 (キャパシティ,備品)
生活指導や2次感染予防の指導(人的・時間的余裕)
(7)必要なら,さらに,<適切>な<医療機関>へ転送されること
症状に応じた適切な医療のうけることのできる高次医療機関へ

平常時は,これらの大部分は患者と医療機関との間の問題であり,原則的には行政は関与していないし,関係ももっていない。また,平常時であっても,これらのことが十分に満たさない<不適切な医療体制>からくる問題点が多々ある。

行政の医療への関与は,
  
医療の大きな枠組(医療圏における医療計画)の策定
苦情があった時の処理・処置 −− 時には,監視・指導に入ることもある
救急医療体制の構築
  救急医療,休日診療(急病診療センター,急病診療所,休日診療所)
定期的医療監視
個々の病気への,法律(予防法等)による関予


2.堺市学童集団下痢症における医療体制の確保

2.1.患者情報収集(現状把握) (1)
堺市医師会に情報収集の依頼
受診医療機関への問い合わせ
受診医療機関に人をはりつけて,情報の収集
保健所は管内の医療機関の情報を衛生部へ報告
学校の先生の訪問・電話等による調査

2.2.医療機関確保       (1)
堺市医師会に協力要請(休日診療,夜間診療,24時間診療)
個別医療機関への協力要請(休日診療,夜間診療,24時間診療)
大阪府医療対策課・大阪府救急医療情報センターに府内の空床状況の把握と病
床確保を依頼
市立堺病院の伝染病棟をオープン
急病診療センターの診療体制の充実(診療時間の延長,医師の増員)

2.3.医療・治療情報の提供
診療可能病院・入院可能病院・空床状況を 消防本部・堺市医師会・大阪府医
療対策課・大阪府救急医療情報センター・保健所に連絡
医療相談に対応(ホットライン24時間対応へ,電話10台から20台へ)
医療機関からの問い合わせに対応(専用回線で医師が対応)
相談活動 Q&Aの作成 広報活動(パンフ,空から,マスコミから)
医師・医療機関への情報提供(医師会のファックス網を通じて)
文献から,専門家から,市立堺病院から,治療中の医療機関から
医師会から 厚生省から(治療マニュアル)
保健婦訪問活動(2次感染防止活動)

2.4.患者情報収集(現状把握) (2)
入院患者・重症患者の把握
入院医療機関を訪問 重体患者入院医療機関との連絡
入院患者・重症患者状況把握をシステム化(府保健所医師,阪大公衆衛生学教室医師の活動)

2.5.医療機関確保       (2)
小児の透析可能病院の病床確保を,大阪府救急医療情報センターに依頼
重症者を適切な病院に移送するために,高次医療機関情報を大阪府救急医療情報センターに一元化
堺市対策本部で前さばきを行い,重症患者については,医療機関と大阪府救急医療情報センターの間で協議をしてもらうことに


3.今後の,医療班設置の課題 (堺市での議論から)
大規模発生時には,緊急医療対策をシステマチックに進めるために,行政内(対策本部)に,「医療班」を設置する必要がある。
「医療班」は,医師 及び 地域医療課職員を中心に編成する(電話,FAX完備)

任務1.傷病者の実数等から,被害状況を把握する。
2.関係機関の協力のもとに,市民への医療を確保する。
3.医療機関の診療を後方から支援する。
4.必要な(必要性は,どこで決まるか?)時には,個別患者情報の収集

3.1.連絡調整担当
情報収集により得られた情報をもとに,関係機関・団体に対し<協力要請>及び<連絡調整>を行う。(府の災害時における医療救護計画という大枠)
<協力要請>
(1)診療の実施 及び 入院患者の受け入れ
 堺市救急医療事業団 堺市医師会 市内病院 診療所 市外の近隣の有力病院
 大阪府医療対策課 大阪府救急医療情報センター
(2)現場周辺に医療救護班の派遣(応急救護所の設置)
 堺市救急医療事業団 堺市医師会 市立堺病院 大阪府
 <救護班>についての取り決め(ヒトとモノの編成)
(3)医療救護所の開設
 学校などに。医療環境,その他の整備。
(4)傷病者の後送,移送
 消防救急隊との連係
(5)医薬品等の救援
 市内薬品間屋への手配 市立堺病院備え付け医薬品
 大阪府に救援要請

3.2.情報収集担当
情報を収集し,的確な現状把握を行う。
(1)傷病者数,重症者数 及び 死亡者数
(2)入院患者情報(重症・重体患者の正確な把握)
(3)診療情報(患者の集中度,待ち時間,空きベッドの状況,他院からの受け入れの可否,夜間・休日診療の可否)
(4)医療情報(診断基準,治療法,注意点 等)−−専門家の判断を要するものもある
(5)すばやく,消防本部,堺市医師会,府医療対策課,府救急医療情報センター,保健所などに配信する。

3.3.情報管理担当
情報の整理と管理を実施する。
 必要なら,個別情報のデータベース化
 整理された情報を,本部・関係機関・団体・市民へフィードバックする
 広報・報道班に,その内容を提供するとともに,場合によっては報道対応にも立ち会う。





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