平成9年4月25日


平成9年3月に多発した腸管出血性大腸菌O157による食中毒等に関する分析及び評価等について

食品衛生調査会食中毒部会
食中毒サーベイランス分科会

 食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベイランス分科会は、3月に多発した腸管出血性大腸菌O157による食中毒等について、関係1都7県5市(茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県、愛知県、千葉市、横浜市、川崎市、横須賀市、名古屋市)の担当者の出席も得て検討し、次のとおり、調査結果のとりまとめ並びに分析及び評価を行った。

1.調査結果の概要
1.1.全般的状況
(1) 平成8年の腸管出血性大腸菌O157による食中毒等については、有症者 9,451名うち、死者12名が報告された。
(2) 平成9年1月から2月までの間には、30名の有症者の発生が報告された。
(3) 3月には、関東南部及び東海地域において、有症者の発生が急増し、同月中には109名(うち死者1名)の有症者の発生が報告された(1.2.1.〜1.2.3.:別添1、2)。
 なお、4月については、23日までに有症者53名の発生が報告された。
(4) 関係都県市(1都7県5市)における疫学調査については、そのほとんどが散発事例であることから、集団事例とは異なり献立等の調査が感染者の記憶のみに依存する場合が多く、収集した情報は断片的なものであった(別添3)。
(5) 3月に発生した有症者及び保菌者から検出された腸管出血性大腸菌O157のDNAパターンの多くが一致した(別添4)。

1.2.原因が推定又は特定された事例
 1月から3月までに発生した腸管出血性大腸菌O157による食中毒等について担当自治体の調査の結果、原因が推定又は特定された事例は以下のとおりである。
 なお、3月の発生事例の一部の事例については、現在調査中である。

1.2.1. 山形県鶴岡市
 平成9年1月10日から14日の間に有症者4名、保菌者2名が腸管出血性大腸菌O157の検出者として届出され、有症者及び保菌者を含む11名が1月1日から2日の間にシカ肉を生食していた(当該シカ肉の他の譲渡先では未喫食又は加熱調理しており感染者なし)。
 残品のシカ肉の一部から腸管出血性大腸菌O157が検出され、原因食品は当該シカ肉と特定されたが、その汚染源は特定できなかった。

1.2.2. 愛知県蒲郡市
(1)原因食品の調査
 3月19日及び21日に有症者5名、保菌者1名が腸管出血性大腸菌O157の検出者として届出された。
 疫学調査により有症者及び保菌者を含む11名が参加したホームパーティーにおいて提供された手巻き寿司が原因献立と推定され、(a)有症者宅の冷蔵庫から採取した残余の貝割れ大根から腸管出血性大腸菌O157が検出されたこと、(b)喫食調査の結果からも当該食材が疑われたこと、(c)有症者及び当該食材から検出された菌のDNAパターンが一致したことから、貝割れ大根が原因食材と疑われた。
(2)食材の汚染原因の調査
 当該食材の流通経路については、関係県が調査したところ、生産施設を出荷されたのち、小売店まで外装は開梱されず、小売店において外装からパッケージが取り出されて販売され、流通途上において、他の物が食材に直接触れることがないことが確認された。
 家庭内の調理過程については、愛知県が調査したところ、当該食材は家庭において根を切る等の調理がなされており、その残品は他の残品(ネギトロ)と同一容器に保存されていた。
 当該食材の生産施設に係る調査の結果、3月21日及び26日、4月15日に採取した貝割れ大根、種子、使用水等の49検体からは、腸管出血性大腸菌O157は一切検出されなかった。
(3)その他
 当該食材の生産施設から出荷されたものの流通範囲は、1都1道12県(北海道、青森県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県)であった。

1.2.3 横浜市
(1)原因食品の調査
 3月20日発症し、25日に腸管出血性大腸菌O157が検出された1歳女児の有症者及びその父親が2月27日に腹痛により受診し、3月27日に腸管出血性大腸菌O157が検出された事例において、(a)有症者宅の冷蔵庫から採取した残余の貝割れ大根から腸管出血性大腸菌O157が検出されたこと、(b)2名の有症者及び当該食材から検出された菌のDNAパターンが一致したことが判明した。
 なお、女児及び母親は当該貝割れ大根を3月17日又は18日の昼食に喫食したが、父親は当該貝割れ大根を喫食していない。
 また、母親は3月12日ごろに下痢症状を示したが、腸管出血性大腸菌O157による症状か否かは不明である。
(2)食材の汚染原因の調査
 家庭内の調理過程については、当該食材は容器から取り出すために必要な部分を開封し、まな板の上に横倒しにして貝割れ大根の上部を引き出し、包丁を用いて使用部分を根から切り取っており、流水で洗浄後、水道水で10分ほどさらしてから大根サラダに加えた(まな板は使用後には塩素消毒を行っていた。)。
(3)その他
 当該事例で腸管出血性大腸菌O157が検出された貝割れ大根は、上記1.2.の愛知県蒲郡市の事例で原因食材として疑われたものと同一の施設で生産されたものであることが確認された。

2.分析及び評価
2.1.
 平成9年1月から2月までの間に報告された30名の有症者について、全体的には時間的・地域的集積性は認められなかったが、3月の関東南部及び東海地域において報告された有症者の発生については、1月及び2月の発生状況と比較すると明らかな時間的・地域的集積性が認められた。
 また、4月については、23日までの状況としては、3月のような集積性は認められていない。

2.2.
 本年になってからの発生事例は、大規模な集団発生ではなく、家庭を発生場所としたものがほとんどであり、家庭における食中毒予防対策の普及を十分に図る必要がある。

2.3.
 3月の関東南部及び東海地域における多発の原因は明確ではないが、同期間中に同地域の感染者から分離された腸管出血性大腸菌O157のDNAパターンの多くが一致した。
 また、これらの事例のうち、愛知県蒲郡市及び横浜市の事例においては同一の生産施設で生産された食材から腸管出血性大腸菌O157が検出され、そのDNAパターンが一致した。
 さらに愛知県蒲郡市の事例では疫学調査結果等により特定の原因食材が推定されており、当該食材の流通経路において他物が直接触れることがないことも確認された。
 これらの状況を踏まえ、汚染源、汚染経路としての可能性を有する施設、従事者、使用水、生産材料等の調査及び管理の徹底をさらに進めるとともに、昨年以降腸管出血性大腸菌O157が検出された食材に留意して流通しているものについて安全点検を実施する必要がある。

2.4.
 今後、気温の上昇とともに、散発事例の増加及び集団事例の発生も懸念されることから、引き続き、都道府県等における関係部局の連携による予防対策の実施及び有症者発生時の迅速な情報提供が必要であり、本分科会においても引き続き評価を進めていくこととしたい。

2.5.
 今回実施した散発事例の調査のうち多くは、集団事例と異なり関係者の記憶のみに依存することが多く、調査の障害となったが、一部の自治体において、関係者の家計簿、レシート等による情報の活用や普段利用している小売店の分布の特徴を把握することによって調査に有用な情報を得た例もあったことから、今後の調査においてこうした工夫に留意する必要がある。

3.その他
 平成9年3月24日付けで食中毒処理要領の一部が改正され、腸管出血性大腸菌O157のほか、エルシニア・エンテロコリチカO8、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、サルモネラ・エンテリティディス、腸管出血性大腸菌及びボツリヌス菌については、都道府県等に対し発生後速やかに厚生省に報告をすることとされた。
 昨日までにカンピロバクター・ジェジュニによる食中毒計3件有症者33名、サルモネラ・エンテリティディスによる食中毒計2件有症者162名、腸管出血性大腸菌(O157を除く。)3件有症者3名が報告された(別添5)。

4.終わりに
 ゴールデンウイークに入り、食中毒の多発時期を迎えることから、腸管出血性大腸菌O157に限らず、広く食中毒に対する注意をひとりひとりが払っていただきたい。

(別添略)





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