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「茨城県における人の健康から見た鳥インフルエンザへの対応」
茨城県保健福祉部保健予防課 係長
永田 紀子


茨城県保健福祉部保健予防課 永田 紀子
                      緒方  剛


【はじめに】
6月下旬、水海道市内の農場で高病原性鳥インフルエンザ(H5N2亜型:弱毒タイプ)が発生し、これまでに、県内30ヶ所の農場で抗体陽性が確認され、26農場約1,476,194羽が殺処分対象となった。現在までに、11農場564,593羽の殺処分が終了し、1農場28,601羽が殺処分中であり、今後15農場約883,000羽の殺処分を行う予定である。

保健福祉部として、9月9日現在、30ヶ所の発生農場の従業員等(家族を含む)の健康調査及び11農場の殺処分等防疫作業従事者等の健康管理を実施したのでその概要を報告する。
なお、当県では、昨年「高病原性鳥インフルエンザ発生時における対応マニュアル」の作成、実地訓練の実施及び専門家チームによる委員会の開催等、事前準備を行っていた。

【発生の概要】
水海道市内のA農場で4月上旬から中旬にかけて産卵率の低下(死亡率の変化はみられない。)がみられたため、当該農場が「(財)化学及血清療法研究所」へ検査を依頼。6月上旬、産卵率は快復。

6月24日:「(財)化学及血清療法研究所」より県に鳥インフルエンザを疑うとの連絡があり、県は(独)動物衛生研究所へ確定検査を依頼。
6月25日:当該農場に対し、鶏及び鶏卵の移動自粛を要請。当該農場及び周辺農場(10農場)へ立入調査を実施。
6月26日:当該ウイルスがH5N2亜型のA型インフルエンザであることが確認され、家畜伝染病予防法及び茨城県家畜伝染病まん延防止規則に基づき、発生農場を中心に半径5Kmの地域を家きん等の移動禁止区域に指定。発生農場の従業員(家族を含む)の健康調査を実施。 6月27日:「茨城県高病原性鳥インフルエンザ対策本部(本部長:知事)を設置。
県民相談窓口を庁内に設置。発生農場の殺処分を開始。
6月28日:移動制限対象(18農場)のうち、発生農場に近い5農場において抗体陽性を確認。
7月1日:5農場のうち、2農場からウイルスが分離され、H5N2亜型のA型インフルエンザであることが判明。
7月10:防疫措置完了後の第1次清浄性確認検査の結果、新たに1農場(坂東市)で抗体陽性が判明。
7月22日:第1次清浄性確認検査(2回目)は、全て陰性。
7月26日:第2次清浄性確認検査で、新たに1農場で抗体陽性(水海道市)が確認。
7月29日:抗体陽性(水海道市)の農場の導入元(茨城町)の農場の抗体陽性が確認。
8月18日:埼玉県の農場でH5亜型に対す抗体陽性が確認され、この農場へ本県から6月に鶏が導入されていることが判明。県内の関連3農場について抗体検査等を実施。
8月22日:埼玉県の関連3農場で抗体陽性が確認され、うち1農場(小川町)でウイルスが分離。
8月25日:関連3農場を中心とした半径5km圏内の立入検査の結果、新たに1農場(小川町)で抗体陽性を確認。
8月27日:新たに1農場(小川町)で抗体陽性を確認。
8月30日:新たに7農場(小川町)で抗体陽性を確認。
9月1日:新たに7農場(小川町)で抗体陽性を確認。
9月3日:新たに1農場(小川町)で抗体陽性を確認。
9月8日:一斉サーベイランスにおいて新たに1農場(八郷町)で抗体陽性が確認。

【発生農場の従業員等の健康調査】
○健康調査内容及び結果
 ・ 問診→全員異常なし
 ・ インフルエンザ迅速診断キットによる検査→全員異常なし
 ・ インフルエンザウイルス検出検査(PCR)→236人陰性、4人検査中
 ・ 血清抗体検査用血液採取(ペア血清)→全員採取(感染研に検査依頼中)
○ 実施状況(9月9日現在)

【防疫措置作業者の健康管理等】

  • 健康管理内容
    ・ 問診(全員:保健師等)
    ・ 体温測定(全員:各自測定)
    ・ 血圧測定(全員:自動血圧計により各自測定)
    ・ 医師の診察(必要に応じて)
    ・ タミフルの予防投薬→(8月1日以降は投与中止:投与期間は全員医師の診察)
  • 緊急時に対応するため協力医療機関の確保
  • 感染予防のための防護服等の着用徹底を周知
  • 熱中症等対策のため十分な水分補給及び休息の確保
  • 衛生管理環境の改善
    ・ 仮設給水所及び仮設トイレ等の設置
  • 防疫措置作業者の血清抗体検査の実施
    ・ 感染の有無を確認する目的で、同意の得られた約30名の防疫措置作業者の血液(ペア血清)を採取した。(感染研に検査依頼中)
  • 実施状況
    ・ 防疫措置作業者数:一日平均 約187人
    ・ 健康管理従事者数:一日平均(医師:4人、保健師等:8.5人)
    ・ 作業変更又は中止者の主な症状:高血圧症、有熱者、喘息等
    ・ 作業後の有症状者の主な症状:頭痛、血圧上昇、皮膚のかぶれ、咽頭痛、打撲等
    ・ 医療機関受診者の主な症状:熱中症、骨折、熱傷等


  • 健康管理従事者数(9月9日現在の延べ人数)

【住民説明会及び健康相談会】

【健康危機管理対策委員会の開催】

【県民相談窓口の設置】

【まとめ】
 <H5N2亜型(弱毒タイプ)ウイルスについて>

  • 分離されたウイルスは全て高い相同性を示す
  • 分離されたウイルスは既知のものの中では全てグアテマラ株と近縁
  • 感染経路については、現時点では特定できていないが、未承認ワクチンの使用等何らかの人為的な感染経路の可能性も否定できない(家きん疾病小委員会の見解)

 <防疫措置作業者の健康管理について>

  • 実情に応じて以下の見直しを行なった
  1. 作業従事後の健康管理の防護体制の見直し
    当初、作業後の保健師等による問診については、アイソレーションガウンやN95マスクを着用して実施していたが、作業現場における清潔ゾーンと汚染ゾーンとの区別を明確にし、作業者の防護服の正しい脱ぎ方及び手洗い等の消毒を徹底したうえで、サージカルマスクのみの着用とした。
  2. タミフルの予防投与の中止(8月1日)
    今回の発生がH5N2亜型(弱毒性)であることから、国に対し、タミフルの予防投与の中止の判断を要請し、通知(7月29日)により8月1日から予防投与を中止した。   
    *台湾、韓国の発生ではタミフルを予防投与した。
  3. 健康管理体制の見直し (9月9日)
    夏場の過酷な状況での作業であったため、現場に救護所を設置し、医師及び保健師を常時派遣するなど熱中症対策にも対応してきたが、9月に入り作業環境も改善されたため、本来の感染防止を目的とした体制に変更した。医師についてもオンコール体制とした。
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