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「動物由来感染症対策の強化について 」
厚生労働省健康局結核感染症課 情報管理室長
滝本 浩司  


1 はじめに

 本年9月1日より「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」という。)に基づく動物の輸入届出制度が施行された。動物由来感染症対策の強化をその目的の一つとして、平成15年10月に改正された感染症法に基づく諸施策が一通り出そろったことになる。以下、感染症法の改正及びその後の政省令等により施行されている動物由来感染症対策について概要説明する。


2 輸入動物対策の強化

  1. 輸入動物届出制度の導入
     これまで、輸入動物に対する人への感染症予防の見地からの水際での規制については、(1)輸入そのものを禁止するもの(アフリカのサル等(感染症法))(2)一定の検疫を行った上で輸入を認めるもの(犬、猫等(狂犬病予防法)、一定地域のサル(感染症法))のみで、これら以外の動物については何らチェックされていないばかりか、誰が、いつ、どのくらい輸入し、どこに保管されているのか、という情報も捕捉されていなかった。
     近年、野兎病やサル痘に感染した疑いのあるげっ歯目の輸入事例が発生するなど、輸入動物を介して感染症が侵入する危険性が指摘されてきた。このようなリスクを低減するため、我が国に輸入される動物について、これまでの「輸入禁止」、「輸入検疫」という制度に加え、「輸入届出」制度(届出書の提出及びこれに輸出国政府機関発行の衛生証明書の添付を義務づけ)を創設し、本年9月1日より施行したところである。
     本制度の対象となる動物は、陸生のほ乳類に属する動物、げっ歯目に属する動物および死体、ウサギ目に属する動物および死体、鳥類に属する動物である。特にげっ歯目については、その衛生証明書に出生以来施設内で保管されていたものである旨の記載を求めることにより、問題の多かった野生げっ歯目の輸入を阻止することとした。

  2. 輸入サルの安全対策強化
     サルについては、ヒトに共通の感染症を媒介する可能性が高いことから、OIE基準に準拠し、ペット用のサルの輸入は認めないこととし、試験研究機関または動物園において使用されるサルのみに輸入を限ることとし、本年7月1日より、当該規制が導入されている。

3 国内動物対策の強化

  1. 感染源動物の調査の拡充
     法改正においては、積極的疫学調査に係る規定が改定され、都道府県知事(緊急の場合にあっては厚生労働大臣も)は職員を、感染症を媒介するおそれのある動物等の所有者等に質問させ、必要な調査をすることができることとされ、動物由来感染症対策のための動物調査規定の明文化が図られた。
     また、積極的疫学調査に関する新たな規定が厚生労働省令に追加され、動物由来感染症に対する疫学調査にも適用されることとなった。(平成16年9月15日省令第128号の第8条)

  2. 感染症類型の見直しと疾病追加
     従来の1類から4類までの感染症類型が1類から5類までに改められるとともに、対物措置を行うことができる対象疾患の範囲が拡大され、これまでは1〜3類感染症に限定されていた対象疾患が1〜4類感染症に改められ、病原体に汚染された場所の消毒(第27条)、ねずみ族、昆虫等の駆除(第28条)、物件に係わる措置(第29条)、さらにその措置のために必要な質問及び調査(第35条)が行うことができるとされた。
     なお、4類感染症として、新たにE型肝炎、高病原性鳥インフルエンザ、サル痘、ニパウイルス感染症、野兎病、リッサウイルス感染症、レプトスピラ症が追加された。

  3. 獣医師による届出対象疾病・動物の追加
     従来の規定では、獣医師に感染動物の届出を求めることができる対象疾患は1〜3類感染症のうち政令で規定される感染症に限定されていたが、法改正により新たに4類感染症も対象に政令で指定できることとされ、平成16年7月に細菌性赤痢のサル、ウエストナイル熱の鳥類及びエキノコックス症の犬を追加指定した。現在(平成17年8月14日)までのところ、細菌性赤痢のサルが13件、エキノコックス症の犬が2件届出されている。
     なお、細菌性赤痢のサル及びエキノコックス症の犬に関しては、獣医師の診断や保健所等の対応について、詳細なガイドラインをまとめ、厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/10/tp1001-4.html)において公開している。
     以上の獣医師を対象とした動物由来感染症対策の強化は、法改正により獣医師の責務規定が創設されたこと(法第5条の2)に関連し、獣医師に感染症対策に対する一層の貢献を求めるものである。

4 おわりに
 感染症法の改正及びそれに基づく政省令等の制定により、強化された一連の動物由来感染症対策が施行されている。動物由来感染症対策を所管する健康局結核感染症課の組織体制が拡充されたほか、動物の輸入届出については、成田空港検疫所や関西空港検疫所に「輸入動物管理室」が設置され、担当職員による監視が行われている。
 輸入動物届出制度の施行により、水際でのチェック体制が一応整ったことになるが、輸入された動物について、問題発生時に迅速な措置をとることができるようなトレーサビリティの確保、あるいは届出対象以外の疾病・動物を含めたサーベランス体制の充実強化、検査支援体制の確立、関係機関との連携強化など残されている課題も多い。

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