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「薬剤耐性菌の最近の動向と同時多発時における初動の要点」
国立感染症研究所細菌第二部 部長 
荒川 宜親  


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が、海外のみならず国内の医療施設で増加し、院内感染症や術後感染症の起因菌として現実的な脅威となっている。さらに、多剤耐性を獲得した緑膿菌やアシネトバクター属菌などが各地の医療施設で分離されその動向が警戒されている。

薬剤耐性菌は、病院環境や畜産環境で抗菌薬が使用されてきた結果生じた副産物であるが、抗菌薬の使用を単に中止すれば解決するといった単純な問題では無く、現実的な実効ある対策が困難な問題である。適正使用と、耐性菌の伝播を防ぐ対策の徹底が最も有効かつ賢明な方法とされているが、実行するのは難しい。さらに、薬剤耐性菌には、資料に示すごとく、次々と新手の耐性菌が出現しつつあり、MRSAやVREのみに焦点を絞った対策では、十分と言えない状況となっている。

そこで、当事者である医療関係者のみならず彼等を指導監督する立場にある行政担当者には、各々の病原体の特徴や感染経路、感染症の特徴、実効ある対策に関する具体的知識、法的な知識など幅広い知識と経験が求められている。

つまり、医療関係者から薬剤耐性菌や院内感染の対策について、報告、届け出、質問、照会等があった場合には、保健所や各自治体の保健主管部局の担当者、責任者は、関連法規に則り適切に対応し、院内感染の拡大や耐性菌の蔓延を防止するために必要な行政的支援を医療施設に対し行う事が求められている。

耐性菌や院内感染対策は、初動で失敗すると、その時点では特段大きな問題にはならないものの、その数カ月から数年後には、菌は医療施設内で潜在的に増殖・蔓延し続け、必ずもっと大きな規模のアウトブレークとなって顕在化し社会的に大きな問題となる事も多い。

しかし、耐性菌や院内感染の問題は、伝染病や食中毒のように、一般に対しマスコミなどを通じて注意を喚起するという手法が取り難い案件であり、正直に報告や届け出を行った施設は、往々にして「病院バッシング」的な扱いを受ける事も多く、その意味では、対策や注意を公的に周知、徹底するのが難しい課題となっている。しかし、薬剤耐性菌やそれらによる院内感染症で死亡する事例は、少なくとも国内でコレラや赤痢で死亡する患者数より遥かに多い事も事実であり、公衆衛生上も座視、看過できない重大な問題となっている。つまり、国民の安全と健康な生活を守る事を責務とする行政にとって、耐性菌や院内感染対策へのさらなる対応や支援の充実・強化が求められていると言えよう。

資 料
   最近、新たに問題視されている新型の薬剤耐性

  1. prasmid 性のquinolone 耐性(qnr ) (Lancet, 1998)
  2. 広域β-ラクタム耐性を付与するβ-ラクタマーゼ (AAC, 多数)
  3. E. faecium, S. aureus におけるlinezolid耐性 (Lancet, 2001)
  4. vanB 陽性のClostridium spp. (Lancet, 2001; JAC, 2005)
  5. vanA を持つMRSA(VRSA) (MMWR, 2002; Lancet 2003)
  6. 16S rRNA メチレース(rmtA, rmtB, armA )(Lancet, AAC, 2003)
  7. マクロライド耐性マイコプラズマ (AAC, 2004)

    今後の動向が気掛かりな薬剤耐性

  8. G陽性、G陰性菌双方における消毒薬、殺菌剤抵抗性
  9. S. aureus のムピロシン耐性、アルベカシン耐性
  10. 肺炎球菌の多剤耐性化
  11. 薬剤排出機構による多剤耐性
  12. サルモネラ、O157等の多剤耐性、CMY-, CTX-M-産生
  13. 淋菌など性感染症起因菌の多剤耐性化
  14. H. pylori における多剤、薬剤耐性の進行
  15. H. influenzae のESBL産生株の出現
  16. Mycobacterium における多剤耐性の進行


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