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「堺市保育施設における薬剤耐性インフルエンザ菌感染症の流行調査」 |
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堺市保健所医療対策課 医長 藤井 史敏
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堺市保健所医療対策課1)、大阪労災病院小児科2)、堺市児童福祉部保育課3)、 国立感染症研究所感染症情報センター4)
藤井史敏1)、川村尚久2)、飯盛順子3)、安井良則4)
[はじめに]
近年、薬剤の使用量の増大に伴い薬剤耐性の出現が医療現場おいて大きな問題となってきている。今回、堺市内の保育施設へ通園している児が、高度薬剤耐性のインフルエンザ菌による重篤な髄膜炎を発症したという報告が保健所にあり、主治医から同保育施設における園児の耐性菌の保菌状況を調査したいとの依頼があった。その後、主治医および堺市保健所・保育課で協議を行い、患児が通園していた保育施設の園児について耐性菌の保菌状況調査を行ったので、それについて報告する。
[経過]
平成16年12月20日
市内の医療機関(A病院)から堺市保健所に、3歳の男児が高度の薬剤耐性インフルエンザ菌(BLPACRII type b)による重症の髄膜炎で緊急入院したとの連絡が入った。このタイプの菌による髄膜炎が国内2例目の報告であるということから、その後、主治医から患児の通う保育施設において園児の耐性菌の保菌状況調査を行いたいとの申し出があった。
平成17年1月14日
保健所において、A病院医師(小児科)、保健所・保育課で協議を行い、感染源の確認と今後の対応策の必要性のため当該施設の園児に対して耐性菌の保菌状況を調べることとなった。
平成17年1月26日
当該保育施設の保護者に対してA病院医師および保健所が説明会を実施。
平成17年1月27・28日
当該保育所において検査希望の園児に対してA病院医師により上咽頭ぬぐい液の採取が行なわれた。平成17年2月上旬各園児保護者に対してA病院医師が検査結果を報告。その後、希望者に対し、A病院にて除菌の処置が行なわれた。
[結果]
総園児数149名(5歳児33名、4歳児31名、3歳児30名、2歳児25名、1歳児21名、0歳児9名)中、検査希望者は108名72.5%(5歳児23名:70%、4歳児11名:35%、3歳児27名:90%、2歳児23名:92%、1歳児15名:71%、0歳児9名:100%)であった。
検体は上咽頭ぬぐい液を採取した。
<検査結果>
年齢 |
BLNAS |
BLPAR |
low-BLNAR |
BLNAR |
BLPACR-II |
なし |
5歳児(人) |
11 |
0 |
1 |
0 |
3 |
8 |
4歳児(人) |
5 |
0 |
0 |
1 |
0 |
5 |
3歳児(人) |
13 |
0 |
0 |
5 |
0 |
9 |
2歳児(人) |
8 |
1 |
3 |
1 |
1 |
9 |
1歳児(人) |
7 |
0 |
0 |
4 |
0 |
4 |
0歳児(人) |
1 |
0 |
0 |
0 |
1 |
7 |
[考察] 今回、BLPACRIIによる髄膜炎になった児が、保育施設から感染を受けたかどうかは不明であるが、調査により想像以上のBLPACRIIの保菌者が認められた。 BLPACRIIによる髄膜炎を発症すると、治療が困難となり、また後遺症の合併率も高いことから、保菌者に対しては今後とも注意深い経過観察が必要と考えられる。また、保健所は、今回のように、医療機関から相談があった場合、状況に応じて積極的に調査に関わっていくべきであるし、医療機関とは常に連携体制を構築しておくことが大切である。
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