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「新型日本脳炎ワクチンの開発」
国立感染症研究所ウイルス第一部 部長
 倉根 一郎

現在使用されているマウス脳由来日本脳炎ワクチンは日本において開発され世界各国で広く使用されてきたワクチンである。本ワクチンは日本脳炎に対する高い防御免疫の誘導とともに安全性においても広く認められてきたワクチンであり、世界保健機関(WHO)が日本脳炎ワクチンとして国際的に認めている唯一のものである。このマウス脳由来日本脳炎ワクチンが日本や韓国において日本脳炎患者を劇的に減少することに果した役割は大きい。

しかし、一方、本ワクチンがマウス脳由来であるということから、この事柄に関連した種々の懸念や問題点の指摘もなされてきた。このような状況に対してマウスを用いない日本脳炎ワクチンの開発研究が進められてきた。日本においてはアフリカミドリザルの腎細胞由来であるVero細胞を用いた日本脳炎ワクチン開発が進められている。新型ワクチンはVero細胞において増殖させた日本脳炎ウイルスを精製、不活化したものであり、動物においては現行ワクチンと同等あるいはそれ以上の免疫原性が報告されている。このことからマウス脳由来日本脳炎ワクチンに代わるものとしての期待が大きい。Vero細胞由来の新型ワクチンは本質的には現行ワクチンと同質なものである。しかし、実用化にあたっては、ヒトにおける防御免疫誘導能の確認とともに、マウス脳をVero細胞に変えることによって新たな品質管理法を設定する必要があるし、Vero細胞を用いることに起因する(可能性がある)副反応に関しても十分な考慮が払われるべきである。

世界的には、Vero細胞由来ワクチン以外にもいくつかの日本脳炎ワクチンが実用化、あるいは開発されている。中国においてはハムスター腎細胞由来ワクチンと弱毒生日本脳炎ワクチンが実用化されているが、これらはあくまで中国の国内ワクチンとして認識されている。一方、黄熱ワクチンと日本脳炎ウイルスの遺伝子組み換えによって作製された、日本脳炎キメラワクチンも動物実験では日本脳炎に対する高い防御免疫誘導能が示され、ヒトにおける第一相試験も行われている。このように、日本脳炎ワクチンは世界的にはマウス脳由来日本脳炎ワクチンの時代からいくつかの種類のワクチンが共存する時代に向かいつつあるといえる。


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