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「VRE 院内感染事例」
 

 国立感染症研究所感染症情報センターFETP
第5期生
 上野 久美

山口県山口市N病院におけるVRE院内感染実地疫学調査

背景:バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococcus; VRE)はバンコマイシンを含む多くの抗菌薬に耐性を示し、感染症を起こした場合は有効な抗菌薬が少なく治療が難しい上に、一部の薬剤耐性遺伝子は他の病原性の強い細菌に伝播しうる点が公衆衛生学上重要である。2004年4月、山口県山口市に所在するN病院から数例のVRE保菌者に関する報告があり、院内における集団感染が疑われた。その院内感染の実態を把握するとともに院内感染拡大阻止に有効で現実的な感染対策の提言を行うことを目標にした実地疫学調査を、山口県からの依頼を受け、FETPが山口県と共同で行った。

方法:症例は「山口県山口市N病院に入院中の全患者、および全医療従事者の中で、2004年4月13日以降の第1次VREスクリーニング検査(三回一組の検便検査)においてVanB型VREが一度でも陽性であったもの」と定義した。情報はカルテ閲覧、スタッフのインタビュー、業務の観察より得た。環境調査は院内443ヶ所を対象に行った。危険因子を同定するためにA病棟入院中の患者において症例対照研究を行った。

結果:症例は11例(男性4例、女性7例)で年齢中央値は75歳(70-91歳)であった。全員がA病棟入院中であり、感染症状を示すものは1例もなかった。環境調査ではA病棟からのみ、22検体が陽性であった。スタッフに対する聞き取り調査や観察から、標準予防策・接触感染予防策が一部不徹底である部分が伺われた。症例対照研究の結果、多変量解析では、「過去1ヶ月間の抗菌薬使用」がオッズ比22.4(95%CI 1.1 ? 475.7)で統計学的に有意であった。「過去1ヶ月にVRE陽性者と同室」という項目は単変量解析ではオッズ比6.5 (95%CI 1.3-33.7)と統計学的に有意であったが、多変量解析ではオッズ比10.2(95%CI 0.8 ? 123.7)であった。



考察:VREは院内感染対策において、より徹底した接触感染予防策が必要とされている病原体である。今回の疫学調査の観察や聞き取り、解析結果から、「抗菌薬の使用」と「接触を介した感染伝播」がVRE院内感染において大きな危険因子になり得ると考えた。そこで、病院スタッフは標準予防策・接触感染予防策を遵守すること、症例はその他の患者と分けて管理すること、抗菌薬投与を受けている介護度の高い患者には注意を払うこと、とられた対策の評価のために数ヵ月後には再度VREスクリーニングの実施を検討すること、などが推奨された。それを実施するためにN病院では院内感染対策委員会を再編成し、標準予防策・接触感染予防策の遵守・徹底を図った。さらに外部の院内感染対策専門家をスタッフ教育のために招致した。山口県は行政としてN病院を積極的に支援し、地域における感染対策ネットワークを確立すると同時に継続的に支援していくこととした。その結果、6月中旬に実施された第2次スクリーニングでは保菌者の減少を認め、院内で実施されている感染対策が奏功していると考えられる結果が得られた。

     資料(460 K)

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