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「地域での感染症ネットワーク」
 

厚生労働省仙台検疫所長
岩崎 恵美子


近年、地球上では、今まで経験したことのない新しい感染症の流行発生や、沈静化していた感染症が再流行するなど、感染症の発生動向は、大きく変化して来た。そして、それらの変化に即応するために、日本では平成11年に、感染症法の抜本的な改正を行い、感染症を重篤度や公衆衛生上での重要度に応じて分類し、それぞれに合わせた対応や、サーベイランス体制などを整備してきた。そして、この改正で、感染症対策は自治体の所掌業務として位置づけられ、自治体が感染症に関わるさまざまな施策を策定し、それに基づいて感染症対策を実施することとなった。また、平成15年には、新しくアジアを中心に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)や、世界的にテロの脅威の渦巻く中で、生物テロとして使われる可能性のある天然痘が、感染症法の対象疾患の中に加えられ、さらに、感染症分類も人畜共通感染症などを考慮して再編が行われた。

実際、人や物の交流の進んだ現代では、感染症の流行は一地域に止まることはなく、広域に感染拡大している。すなわち、重篤で感染力の強い感染症が国境を越えて流行するのは当然のことで、それらの現実の中では、如何に、効果的で、効率的な感染症対策が実施できるかが、大切である。そのためには、日本では感染症対策を実施している各自治体の感染症対策自体の質を向上させ、さらにそれらに関する自治体間の差をなくし、質の均一化を図り、かつ自治体同士の連携を図り、流行情報などの共有を図りながら、感染症対策を展開する必要がある。

これらを考慮し、国は、各自治体が感染症に対するガイドラインやマニュアルを作成することによって、各自治体の感染症対策を充実させることを考え、そのモデルを自治体に示すなど、自治体の感染症対策を支援し、質の向上や均一化に力を注いできた。

しかし、現実には各自治体の資材や感染症専門家などの人材、感染症に対する意識の差などから、それぞれの自治体の感染症対策には歴然とした差があるのが現状である。その上、たとえ隣接する自治体でありながらも、十分な連携は見られていない。

そのような現実の中で、広域での感染拡大を防ぐための方法の一つとして、自治体を超えた地域、すなわちブロック単位での感染症対策の必要があると考え、連携のとれた感染症対策の確立のために、東北地域での感染症に関わるネットワークを構築し、各自治体間での情報の共有や、それぞれの対策の充実を図る、などの試みを行ってきた。

東北ブロック感染症危機管理会議の発足

東北地域で広域に感染拡大する感染症に対応するためには、東北地域全体としての感染症対策の展開が必要になる。

そのためには、東北ブロックでの感染症対策の中心となる機関もしくは組織が必要になる。東北ブロックでは、東北厚生局と仙台検疫所が、これらの核の役割を果たすこととし、「東北ブロック感染症危機管理会議」を発足させ、それらを東北ブロックでの感染症対策の基点とすることとした。

会議には、広域感染拡大に関係する諸機関、組織、すなわち東北各県、政令市、中核市の感染症対策担当部署、食品衛生担当部署、救急隊、医師会、感染症関連病院などが参加し、その間のネットワークを作り、それによって、情報の共有を図り、またそれぞれの感染症対策の均一化を図ることを目的として、さまざまな試みを行ってきた。

会議は感染症流行発生時や、それらが予測された場合、適宜開催し、感染症対策担当者の知識を充実させ、さらに、関係者が共通の認識で感染症対策に当たることが出来るように指導することを目的として実施してきた。

また、この会議では自治体の感染症対策担当者間のネットワークを作り、それを使って、情報の共有や連携を図ることも目的の一つとしてきた。

実際には、既に数回の会議を行い、実績を上げているが、当初は会議に参加した関係者の間でも混乱が見られ、会の目的も十分理解されず、苦慮した。しかし、会を重ねるごとにそれらは消え、その代わりに、自治体をはじめとする多くの方々から会議が期待され、頼りにされるまでに発展しつつある。

しかし、現状では、このようなブロック単位での感染症対策の法的な裏づけがないために、会議にどの程度までの権限を持たせてゆくか、あるいは、このような会議を主催するに当たっての厚生局や検疫所での人材面、財政的な面での問題など、まだまだ、多くの課題を抱えており、今後、検討する必要があるものと考えている。

感染症拡大が避けられない現代では、自治体を超えたブロック単位での感染症対策の重要性はますます高まっており、この会議のような、木目細やかな感染症対策が必要になっている。


     資料(1.6 M)


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