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レジオネラ症集団感染−宮崎県の対応例−

宮崎県衛生環境研究所
 所長 鈴木 泉(セン)

《はじめに》
  平成14年6月から8月にかけて、同一の循環型温泉施設を利用した人々からレジオネラ症の患者が集団発生した。患者喀痰と浴槽水から、同一血清型でPFGEパターンも一致するLegionella 属菌が検出され、県は同施設に営業停止の行政処分を課した。平穏に日常業務・調査研究をしていた我が地研は、事件発生から4ヶ月間にわたり、精度と迅速性を要求される膨大な検査業務に追われ、否応なく健康危機対応という有事特有の業務を経験した。当事例を行政の立場、特に地研の視点から振り返りながら報告するが、自らの自治体の問題として捉えていただければ幸甚である。

《事件の概要(ならびに行政の対応)》
  平成14年7月18日、医療機関から保健所に、入院中の3名の患者がレジオネラ症の疑いがあり、いずれも同時期に同一の温泉施設を利用していたとの報告が入った。保健所は直ちに同施設に立ち入り、温泉水等の検体採取を行うとともに 再三の営業自粛を指導したが営業は続行されていた。7月25日、患者喀痰と浴槽水からL.pneumophila SG1が分離され(最大菌数150万CFU/100ml)、県は当該施設を原因施設と推定し、県民への注意喚起、医療機関に対し診断時の報告を依頼した。同時に保健所に相談窓口を設置し、入院患者の確定検査を当所で実施することとした。7月30日、患者喀痰と浴槽水から分離した菌のPFGEパターンも一致し、県は同施設に営業停止の処分を課し、現在も停止中である。
  営業開始から停止までの延3週間の温泉利用者は約2万人、疑いを含む患者数は、295名(男159名)、うち死亡者は7名に達した。平均年齢は57歳、潜伏期は約1週間、発熱(71%)、咳(38%)が主症状で、胸部レ線では43%に何らかの異常所見があり、37%が入院していた。当所及び民間検査機関を合わせ、尿中抗原、血清抗体、喀痰培養等の検査により、46名の確診が得られた。
  採水した全ての浴槽水から980〜150万CFU/100mlのLegionella 属菌が検出され、濾過槽の濾材やヘアキャッチャー、浴槽からは大量のアメーバも検出され、Legionella 属菌に十分な温床が提供されていたことが推定された。汚染原因は、源泉タンクの不十分な衛生管理、安全性が不確かな中温水の混合、高温タンクの温度維持不足、不適切な塩素消毒、濾過装置の不十分な逆洗等、枚挙に暇のない衛生管理体制の不備であった。本年2月に、市長以下当施設を管理していた第三セクター幹部が業務上過失致死傷疑いで、県警により書類送検され、一方、県は、この事件を契機に独自の再発防止策を盛り込んだ条例案を作成し、2月県議会にて可決された。なお、施設に関するハード・ソフト両面の改善計画が提出され、本年10月再開を目途に、去る6月より1.4億円をかけた改修工事が始まっている。

《当研究所の役割》
  事件の因果関係の細菌学的証明、検査項目・検体採取方法等の情報提供、迅速で精度の高い検査の実施、原因究明のための細菌学的情報の提供等々

《当研究所における問題点(貴自治体の地研の役割・課題に他ならない?)》
 平時でさえ、本庁と同様に「一人一人の負担の大きい専門技術機関」である。
1) 況やをや、有事には!!(保健所等からの応援が可能な有事体制をシミュレート)
2) 役割分担が不可(検査、会議、連携、マスコミ等の要が一人の人間に集中)
3) 膨大な業務、組織的行動に不慣れなどのため、所内会議が不十分
調査研究部門に業務割合をシフトし業務遂行の歓びを深め、余裕を持って有事に対応可能な体制づくり、及び国等との共同研究、民間助成金等、県以外の予算調達策。

《まとめ(健康危機における行政の動きや、いかん。勿論、私見!!)》
  健康危機は、いつどこでどの部署に起こるか全く見当がつかない。しかも、行政のスリム化の中で、地衛研も本庁も保健所も同じように、平時でもギリギリの人数で最低限の業務しかできていない正にその状況で、有事は発生してくる。シミュレーションは、「もし」ではでなく、「いずれ必ず」の視点で行わないと役に立ちにくい。
 初動時には、「優先すべきは何か」を、ある意味、直感で判断しなければならないところがある。その直感を抱くのは経験豊かなはずの所属長かもしれないし、勉強熱心な若い一介の職員かもしれない。誰が感じたにせよ、それを行動に繋げる感性を所属長が持っていなければ、何も始まらない。最悪に近いシナリオを想定して、今の時代、少し出過ぎたぐらいの対応のほうがいいと思う。
 災害時の我が家の責任者ならば、どう行動するか。正直に、迅速に、そして、いざとなったら謝ろう。「早過ぎは金で済む。しかし、遅過ぎには人命が絡む!!

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