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保育園での衛生管理と感染症対策−事例から学ぶ−

国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部第二室
室長 春日 文子

 幼い乳幼児が集団生活を送る保育所では、園児の安全と健康を確保することが何よりも重要なことである。保育環境や保育行動のどこのポイントでどのように気をつければ感染症が防げるのか、有効で実行可能な対策を考えるためには、まず保育所で起こっている感染症の実態を把握し、さらに感染や感染症拡大に関する危険要因をできるだけ科学的に実証することから始めることが必要と考えられる。
 しかし、残念なことに、現時点では、保育所における感染症や食中毒情報を迅速に集めるシステムはない。感染症サーベイランスに基づく患者情報の中から年齢分布を求め推定するか、日々のマスメディア情報や地域の医師会情報を丹念に収集するしかない。保育所を対象とした感染症情報の収集システムを確立することが必要である。
 日本子ども家庭総合研究所の高野陽部長を班長とする厚生科学研究の分担研究において、平成12年度より保育所の環境保健学的研究に携わった。この中で、まず冬季と夏季に分け、保育園の室内、屋外環境の微生物調査を行なった。固形培地を押し付ける方法で、10 cm2(一部は25 cm2)当たりの細菌数と真菌(カビ)数を測定した。トイレよりも保育室の方が大腸菌群による汚染率が高い場合があることや、手洗い水道の蛇口が多くの細菌とカビによって汚染されていることがわかった。テーブルや汚物バケツのふたにも多くの微生物汚染が見られた。室内外のペット周辺やクーラー・ヒーターのルーバーも汚染が激しかった。保育士や園児の手を介した汚染の拡大、アレルギーの原因ともなるカビ胞子の飛散などが危惧される結果であった。一方、床、壁や寝具は適切に管理され、砂場の犬猫対策にも注意が払われていた。
 平成13年度には、実際に腸管出血性大腸菌O157による集団感染の起こった保育園を訪問し、感染のあるいはそれが拡大した原因について、参考とすべきお話を伺った。明確な原因は不明であったものの、トイレの後の手洗いの不十分さや通常の保育生活の中での感染拡大が疑われ、微生物調査の結果と符合するような要点が浮かび上がった。
 平成14年度には、2園を対象として、6ヶ月間園児の健康状態を毎日インターネットを介して入力していただき、万一の感染症集団発生をリアルタイムで探知するとともに危険要因を把握するための、試行的な調査を行なった。調査期間中に、インフルエンザの集団感染や伝染性紅斑の発生等を経験し、その都度、保育者、保護者それぞれへの助言啓蒙を行なった。自治体内での乳幼児健康管理への応用が可能であることが示唆された。
 これらの研究に基づき、衛生管理マニュアルや自己点検項目案を提唱してきた。本研修会では、上記の研究成果やマニュアル案等をご紹介する。子どもの安全と健康の確保を第一に考えた保育体制の充実が重要であることも併せて強調したい。

まとめ:
・ 保育園は免疫学的弱者、生活行動の未熟者が集団生活をする場所(食事、排泄、成長)
・ 保育園における集団感染症発生動向把握システムの導入が必要
・ 保育環境における微生物学的汚染実態を把握し、清潔を維持することが必要
・ 食中毒等、保育園での感染を防ぐことはもちろん、保育園内での感染拡大防止のために、交差汚染源(場所)を認識し、洗浄消毒など適切に管理することが必要
・ 保育園児の健康状況把握は、地域の乳幼児健康対策上も重要

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