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SARS:最近の知見と診断法

国立感染症研究所ウイルス第三部 
部長 田代眞人

 重症急性呼吸器症候群(SARS)については、7月以来新たな患者発生は無く、流行は終息したものと判断される。しかし、SARS病原体が冬に流行するコロナウイルスの一種であることから、冬に再出現・再流行する可能性が危惧されており、十分な監視体制と準備対策が求められている。

 自然宿主ついては、様々な動物からSARSコロナウイルスと類似したウイルスの分離や遺伝子の検出、抗体保有などの結果が中国側から報告されている。WHOではこれらの調査結果の評価を主な目的とする調査団を中国に送り、検討を続けているが、未だ自然宿主の特定には至っていない。

 一方、8月中旬にカナダ・ビクトリア州の老人施設内で呼吸器疾患の発生があり患者が死亡した。この程度の発症は例年でも見られており、症状は軽度でSARSの定義には合致しない。しかし、患者からはRT−PCRでSARSコロナウイルスと同一の遺伝子断片が検出された。SARSの再出現の可能性や弱毒型コロナウイルスの存在などが推測されている。

 SARSが今冬に再出現した際には、患者に対しては、感染症法に基づいた入院・隔離などの措置が、患者との接触者には行動制限なども課せられる可能性がある。また、追跡調査によって、感染の可能性がある人を特定し適切な措置を講ずる必要も生じる。一方、初期のSARSは臨床的にはインフルエンザとの区別は難しい。数百万人規模で流行するインフルエンザ患者の中には、SARSの症例定義に合致する患者数が膨大となり、大きな混乱を招くことが危惧される。従って、両者の正確かつ迅速な鑑別診断が必要となる。

 SARS発病初期における診断検査法にはRT−PCRが開発されているが、検出感度は不十分で、陰性結果でもウイルス感染を否定出来ない。従って、高感度で信頼性のある迅速簡易診断法の開発が緊急課題である。現在幾つかの候補製品の実用化に向けて、臨床検体を用いた性能試験を実施中である。

 SARSの予防に関しては現時点では積極的手段は存在せず、患者との接触を避け、手洗いやN95マスク着用などの消極的手段で対応せざるをえない。

 この様な状況下での今冬期に向けたSARS対策においては、SARSと紛らわしいインフルエンザ患者の発生を減らして現場での混乱を軽減すると共に、SARSに対応すべき医療関係者などのインフルエンザ罹患による医療サービスの低下を防ぐために、インフルエンザワクチンの接種が重要な選択肢となる。

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