新型インフルエンザ対策
A/H1N2を含めて)
国立感染症研究所ウイルス第3部
小田切孝人

  新型インフルエンザウイルスによる世界的な大流行すなわちパンデミックが近い将来起こることが危惧されている。事実、1997年にはトリの新型インフルエンザウイルスH5N1がヒトに感染し、感染者18名中6名が死亡したという事例が香港で発生した。また、1999年には香港や中国で別の亜型のトリインフルエンザウイルスH9N2もヒトに感染したが、幸いにも、これらウイルスの感染はヒトからヒトへと伝播拡大しなかったためにパンデミックには至らなかった。しかし、その後もヒトへの感染は起こらなかったものの2001、2002年と香港のトリ市場ではH5N1の流行が繰り返し起こり、ここから再びヒトの世界へウイルスが侵入する危険性は後を絶たず、またこれによってパンデミックへと発展することが懸念される。

  また、2001/2002シーズンにはソ連型(H1N1)と香港型(H3N2)ウイルスの混合感染から遺伝子再集合によってできた新型ウイルスH1N2が欧米諸国で流行した。わが国においても横浜で2月に起こった集団発生から2株のH1N2が分離され、日本にも新型ウイルスが波及していることが確認された。このウイルスはワクチン株A/New Caledonia/99のHA (H1)およびA/Panama/99 のNA (N2)と抗原性が類似していることから、もし流行しても当面は現行のワクチンで対応できるが、今後どのように抗原性が変わっていくのかサーベイランスを強化し注視する必要がある。

  このように動物およびヒト由来の新型ウイルスによるパンデミックの条件が徐々に整いつつあることから、流行が起こる前にパンデミックに備えた事前の準備が必要である。わが国では、1997年に新型インフルエンザ対策のガイドラインが作成され、これをサポートするためにいくつかの研究事業が走り始めている。今回は、これまで我々が行ってきた新型インフルエンザ対策とその問題点、さらに今後軌道修正すべき点や新たに検討しなければならない対策について紹介する。