鳥展示施設における
オウム病の集団発生について
島根県 健康福祉部 薬事衛生課
課長補佐(感染症担当) 村下  伯

                                                            

1.集団発生とその対応の概要

(1)2001年11月から12月にかけて、島根県松江市の鳥展示施設においてオウム病の集団発生があり、計17名(来園者12名、職員3名、実習生2名)がオウム病と診断され届出された。
(2)オウム病の第1症例(実習生)は、2001年12月28日に疑い症例として松江健康福祉センター(松江保健所)に第1報が入り、12月31日に確定診断され届け出された。
(3)来園者のオウム病第1症例は、2002年1月12日に届け出された。
(4)来園者1名からオウム病患者が発生したことを受け、県は1月15日に鳥展示施設におけるオウム病の発生について報道発表し、症状のある人の早期受診等を呼びかけるととも に、県医師会等にオウム病に関する情報提供を行った。
(5)1月17日、松江保健所に「オウム病対策会議」を設置し、国立感染症研究所FETPの助言協力を得ながら、感染症法に基づく積極的疫学調査を行った。
(6)患者の病原体検査については、検査同意を得られた人の血清からの病原体検出を国立感 染症研究所に依頼したが、検出には至らなかった。
(7)環境サンプリングの病原体検査については、1月21日から鳥展示施設内の鳥の糞便、土、 水、エアコンフィルター等の環境サンプリングを開始、計169検体についてオウム病クラミジア遺伝子検査(PCR法)を実施したところ、計12検体(いずれも鳥の糞便)がPCR 陽性であった。
(8)感染源・感染経路の特定には至らなかったが、環境調査の結果等から、感染の背景とし て、検疫なしでの鳥の展示、清掃方法の変化、閉鎖系に傾いた室内環境等の要因が複合 的に重なって室内の病原体濃度が上昇し、集団感染につながった可能性が示唆された。

2.鳥展示施設の概要

  ・鳥展示施設は、宍道湖北岸の丘陵地にあり、2001年7月に開園している。公園は松江市が設置、鳥の飼育・展示に関しては、市から委託された動物取扱業者が行っており、約1,300羽の鳥が飼育されていた。

・公園内の主な施設

 ○フクロウ展示室
 ○センターハウス … ベゴニア・フクシアの大温室、室内でフクロウの飛行ショー実施
 ○水鳥池
 ○くにびき展望台
 ○ウォーターフォールエイビアリー … 主に水鳥を飼育・展示している温室
 ○トロピカルエイビアリー … 熱帯系の鳥を飼育・展示
  ○パラダイスホール … 鳥が放し飼いにされており、鳥とのふれあいが楽しめる温室

・    他に職員のみが出入りする施設として、パラダイスホールと金網で仕切られた併設のバ ックヤード及びスタッフルーム(1階で餌作りが行われており、病鳥を隔離するゲージ も置かれていた。また、2階は病鳥隔離室及びスタッフの休憩室があった。等があった。

・なお、鳥展示施設を含む公園は一時全面閉鎖されたが、公園内の清掃・消毒を行うとと もに、飼育していた鳥すべてに抗生物質を投与し、鳥の糞便中のオウム病クラミジア検 査で陰性が確認されたたため、現在は、パラダイスホールを除いて再開されている。

3.患者の発生状況(表1)

    表1.患者一覧

 

 

患者名

 

 性別

 

 年齢

  従業員

  入園者

  の別

  直近の

   入園日 

(推定曝露日)

 

  発症日

  推定

  潜伏

  期間(日)

 入院

  の

 有無

  1

 患者A

  女

  54

  従業員

        

 12月 8日

   不明

  有 

  2

 患者B

  女

  24

  従業員

        

 12月16日

   不明

 有 

  3

 患者C

  女

  20

  実習生

        

 12月17日

   不明

 有

  4

 患者D

  女

  47

  従業員 

          

 12月19日

   不明

  有

  5

 患者E

  女

  20

  実習生

      

 12月20日

   不明

  有

  6

 患者F

  女

  60

  入園者

  11月 4日

 11月16日

    12

  有

  7

 患者G

  男

  67

  入園者

  11月25日

 12月 7日

    12

  有

  8

 患者H

  女

  55

  入園者

  11月25日

 12月 8日

    13

  無

  9

 患者I

  女

  31

  入園者

  12月 1日

 12月11日

    10

  無

 10

 患者J

  女

  59

  入園者

  12月14日

 12月28日

    14

  有

 11

 患者K

  女

  61

  入園者

  12月14日

 12月24日

    10

  無

 12

 患者L

  女

  49

  入園者

  12月15日

 12月24日

     9

  有

 13

 患者M

  女

  49

  入園者

  12月15日

 12月31日

    16

  有

 14

 患者N

  女

  71

  入園者

  12月15日

 12月26日

    11

  有

 15

 患者O

  女

  58

  入園者

  12月15日

 12月30日

    15

  有

 16

 患者P

  男

  71

  入園者

  12月15日

  1月 9日

    25

  無

 17

 患者Q

  男

  87

 入園者

  12月15日

 12月25日

    10

  有

 

・鳥展示施設に関連したオウム病届出患者の計17名の状況を表1に示す。
・患者の内訳は、従業員等5名、来園者12名の計17名であり、年齢は20-87歳である。
・従業員等の発症日は、2001年12月8日から12月20日と約2週間の間に集中している。
・来園者の推定感染日(症状を呈する前の直近の来園日)は、2001年11月4日から12月15日と約1ヶ月半にわたっており、潜伏期は9-25日となっている。
・なお、施設は、1月14日から「トロピカルエイビアリー」「パラダイスホール」を閉鎖、  さらに1月16日から鳥展示施設を全面閉鎖しており、2002年1月以降の入園者からは患者発生はみられていない。

4.初動対応の経過―探知から本格的疫学調査開始まで―

(1)第1症例の探知と対応

・2001年12月28日夕方に、松江市内の医療機関から松江健康福祉センター(松江保健所) に「鳥展示施設の実習生が入院しており、オウム病が強く疑われる。」との連絡が入り、 その後、12月31日に上記患者について医療機関から保健所に「オウム病クラミジア抗体検査(CF法)が有意に高いため、オウム病と診断した。おって、届け出る。」旨電話 連絡があった。これが届け出られた第1症例である。

・状況把握により、職員で肺炎症状を呈し入院している者が3名あるという情報も得られ ので、保健所と県薬事衛生課で協議し、@現在入院している従業員もオウム病である可 能性があるので、従業員が入院・通院している医療機関に対し、施設の従業員からオウ ム病患者が発生した旨情報提供する、A職員管理者に対し、従業員に対するオウム病抗 体検査を実施するよう要請することを決定した。

 

・一方、来園者への感染拡大が懸念されたので、飼育鳥の健康状態・管理状況につき動物 取扱業者に説明を求めたところ、「感染源の疑いのある鳥は4羽であり、この4羽は国内の他施設から当施設へ搬入されたものである。4羽の鳥と接触したのは従業員のみであり、来園者とは一度も接していない。」との説明を受けた。

・保健所では、施設に対し以下の指導を行った。

 1)職員へオウム病の基礎知識の情報提供
 2)有症状者の医療機関早期受診勧奨
 3)適正な鳥の飼育管理と職場環境の衛生確保
 4)職員の健康管理及びオウム病抗体検査等健康診断の実施
 5)職員への衛生教育
 6)職員の健康状況について、発症等変わったことがあれば保健所に連絡すること

・その後、感染症動向調査によるオウム病発生状況を注視していたが、従業員が入院・通 院していた医療機関にオウム病患者の発生につき情報提供したこともあって、2002年1  月以降、従業員から第2例、第3例、第4例のオウム病患者の届出があった。

(2)来園者症例の探知とその対応

・2002年1月12日になって、来園者からオウム病患者の届出があった。これを受けて、保健所は施設に出向き、鳥の飼育状況・管理状況について動物取扱業者に再度説明を求めたところ、翌1月13日に、業者から「感染源の疑いのある鳥は、2001年10月31日(のちに10月30日に訂正)に搬入され、12月31日に隔離するまでの間、来園者に感染する可能性のある場所で一時期飼育していた。」と報告があった。

・このため、松江市は施設のうち「トロピカルエイビアリー」と「パラダイスホール」を 1月14日に自主的に閉鎖した。

・県は、入園者からの患者は1名のみであったが、他の入園者でオウム病に感染・発病し た人がいる可能性があることから、入園者で症状がある人への早期受診の呼びかけ等を 行うため、1月15日に鳥展示施設でオウム病患者が発生したことを報道発表した。

・また県は、県下の医師会及び病院に対し、1)鳥展示施設でオウム病が発生したこと、2) オウム病は4類感染症であり診断した場合直ちに保健所に届け出ること、3)オウム病の 疑い患者を診察した場合も保健所に連絡していただきたい旨を内容とした文書をオウム 病に関する参考資料とともに送付した。

・松江市においても、鳥展示施設の入園者からオウム病患者が発生し施設を一部閉鎖した ことを公表するとともに、入園者に対する電話相談窓口の開設、市立病院における健康 相談窓口を開設し、来園者への対応を行った。また、市でも集団発生の原因究明等を行 うため、「オウム病調査委員会」を設置した。

5.本格的疫学調査の実施

・これまで行ってきた状況調査をもとに、感染源、感染経路の解明を目的とした疫学調査 を実施するため、1月17日に松江保健所内に「オウム病対策会議」が設置され、国立感 染症研究所実地疫学専門家養成チーム(FETP)の協力・助言を得ながら、調査方針を確 立し、調査をすすめていった。

・調査の柱は、

 1)患者・有症者及び職員・実習生の健康調査・行動調査
 2)環境の病原体検査
 3)鳥の飼育状況・施設の管理状況等の背景調査

 の3つとした。   

(1)患者・有症者及び職員・実習生の健康調査・行動調査

・来園者でオウム病の届出があった患者及びその同行者については、あらかじめ松江保健 所で作成した来園者用調査票に基づき、原則聞き取り方式により健康調査・行動調査を 行った。

・また、職員・実習生に対しても松江保健所で作成したアンケート調査票に基づき、鳥ス タッフ・実習生に対しては面接聞き取り方式で、それ以外の職員に対しては自己記入方式で健康調査・行動調査を行い、同時に同意が得られた人に対して国立感染症研究所で オウム病クラミジア抗体検査を実施、調査結果と抗体検査の結果をもとした解析を国立 感染症研究所に依頼した。

・   職員のオウム病クラミジア抗体検査についてはmicroIF法で実施され、以下の基準を満たすものをオウム病急性感染者と定義したところ、患者以外に8名の急性感染者を確認した。

<急性感染者の定義>
「肺炎クラミジア、トラコーマクラミジア感染に伴う交叉反応を除外できる者のうちで、シングル血清でオウム病クラミジアIgG512倍以上あるいはIgM32倍以上、もしくはペア血清でIgGあるいはIgAの4倍以上の上昇をみた者」

・鳥展示施設の職員・実習生でオウム病クラミジア抗体検査の結果が判明しており、かつ、

 アンケート調査票の結果により危険因子の有無について情報が得られた者について、以 下の5項目、1)性別、2)職種(鳥スタッフであるか否か)、3)施設内の鳥と触ったかど うか、4)施設内の鳥にかまれたかどうか、5)自宅で現在ペットを飼っているかどうかと 血清学的なオウム病急性感染(オウム病クラミジア抗体価の有意な上昇)の発生との関 連について解析を行ったところ、「鳥スタッフであること」については関連を認めた  (RR=4.08、95%CI=1.51-11.07)。

・また、他施設からの鳥が移入された2001年10月30日を境として、開園から10月29日までを前半期、10月30日以降を後半期として、それぞれの期間における公園内各施設への立ち入りの有無と血清学的なオウム病急性感染の発生との関連について解析を行ったとこ ろ、「後半期におけるスタッフルーム1階もしくは2階への立ち入り」については関連を認めた(RR=3.61、95%CI=1.03-12.6)。

(2)環境の病原体検査(表2)

 

  表2.環境サンプリングのオウム病クラミジア遺伝子検査(PCR法)結果

 

採取場所

 

検査物

 

検体数

検査結果

 

備 考

陰性

PCR陽性

 ウオターエイビアリー

 糞 便

     8

    8

      0

 

 水

     2

    2

      0

 

 エアコンフィルター

     1

    1

      0

 

 トロピカルエイビアリー

 

 

 

 糞 便

   44

  36

      8

 

 土・塵芥

     1

    −

      −

 検体不適

 水

     2

    2

      0

 

 エアコンフィルター

     2

    2

      0

 

 食 査

     1

    1

      0

 

 トロピカルエイビアリー

(閉鎖後、隔離区域となっていた場所)

 

 糞 便

 

   10

 

  10

 

      0

 

 パラダイスホール

 糞 便

     5

    5

      0

 

 土・塵芥

     2

    2

      0

 

 水

     2

    2

      0

 

 エアコンフィルター

     1

    1

      0

 

 チェーン(隔離幕)

     1

    1

      0

 

 パラダイスバックヤード

 糞 便

   44

  41

      3

 

 土・塵芥

     2

    2

      0

 

 エアコンフィルター

     1

    1

      0

 

 フクロウ展示室

 糞 便

     9

    9

      0

 

 木片

     1

    1

      0

 

 センターハウス・水鳥池

 (花の展示室)

 糞 便

 土・塵芥

 水

 エアコンフィルター

     1

     5

     2

     1

    1

    5

    2

    1

      0

      0

      0

      0

 

 スタッフルーム

 糞 便

 換気扇塵芥

     4

     1

    4

    1

      0

      0

 

 職員飼育鳥

 糞 便

     2

    2

      0

 

 駐車場

 土

     4

    4

      0

 

 死亡鳥の肛門から直接採取した糞便

   11

  10

      1

 

      合   計

 170

157

    12

 検体不適1

・環境の病原体検査について、1月21日から施設内の鳥の糞便、エアコンフィルター内の 塵埃、土等の検体の採取を開始し、1月28日から採取した検体のオウム病クラミジア検 査を開始した。その結果を表2に示す。計169検体を検査しうち12検体がPCR陽性であっ た。

・陽性となった検体はいずれも鳥の糞便であり、死亡鳥の肛門から直接採取した糞便で陽 性となった1検体を除いては、いずれも鳥のゲージ等に落下していた糞便である。した がって、陽性となった糞便がどの鳥の糞便であるかは特定できないが、糞便の採取場所 から複数の鳥がオウム病に感染していたことは判明している。

 

(3)鳥の飼育状況・施設の管理状況等の背景調査

・鳥の飼育状況、施設全体の管理状況について立入調査を実施した。
・調査した項目としては、

 ○獣医師の配置、鳥の観察結果の報告体制
 ○鳥の健康観察、病鳥と他の鳥、来園者及び職員との隔離状況
 ○移入された鳥の検疫状況
 ○鳥の個体管理及び管理台帳の整備状況、鳥の健康観察記録の状況
 ○施設の空調管理、温度・湿度の管理、清掃等施設管理の状況等である。

・立入調査の結果では、一部の鳥を除いて鳥の個体管理はされておらず、また、鳥の疾病、 治療、死亡、解剖の記録はほとんどなかった。また、病鳥の健康鳥からの隔離について も不十分であり、また病鳥はスタッフルーム内の隔離室等で飼育されていた。

 

6.これまでの疫学調査でわかったこと

・これまでの疫学調査の結果からは、感染源及び感染経路は判明していない。判明に至ら なかった理由として、@飼育鳥の搬入記録、観察記録等が整備されておらず、患者発生 前後の飼育鳥の健康状態が不明である、A鳥の糞便からの病原体(オウム病クラミジア) 分離はできたが、患者血清からの病原体分離ができなかったので、患者と鳥との間での 遺伝子解析ができなかった等が挙げられる。

・ただし、鳥展示施設の管理状況と従業員に対する解析疫学の結果から、集団感染が起こ った背景として

 1)施設内の複数の鳥にオウム病感染が起こっているが、施設は冬季に入って換気が不十  分となり、病原体が施設内に長期間とどまりやすい環境となっていた
 2)11月下旬頃から糞便の清掃方法を高圧洗浄機による清掃に変更したため、病原体を含  む塵埃が施設内に飛散しやすい状況になった
 3)健康状態のよくない鳥はスタッフルーム内の飼育室、隔離室で飼育されていたが、従  業員はスタッフルーム内で休憩等を行っており、従業員の感染についてはスタッフル  ームを介して起こった可能性がある。
 といった点が挙げられ、単にオウム病に感染した鳥がいたからオウム病の集団発生が起 こったわけではなく、鳥の飼育・管理の不備、施設管理の不備等複数の要因が重なり合 って施設内の病原体の量が増え、集団発生が起こったと考えられる。

7.対応経過を振り返って

 これまでの対応経過を感染症危機管理の面で振り返り、重要と思われる点を列挙する。

 (1)動物取扱業者に対する指導

    平成11年に改正された動物愛護管理法に基づき、動物取扱業者は飼育施設等の事業所ごとに都道府県知事等への届出義務が課せられており、都道府県知事等は必要に応じ、立入検査及び勧告、命令ができることとなっている。動物取扱業者は「飼育施設の構造及び動物の管理方法等に関する基準」を遵守することとなっており、業者がこの基準を遵守するよう指導することがオウム病等動物由来感染症の未然防止につながる策のひとつといえる。

 (2) 医療機関への早期の情報提供による潜在患者の発見

    オウム病の第1症例が届け出られた時点で、従業員が入院・通院している医療機関に対し、従業員からオウム病患者発生があったことを情報提供したことで、他の従業員のオウム病の確定診断につながった。また、入園者の第1症例も、従業員のオウム病診断をした主治医が同様の症状を呈して入院していた肺炎患者に施設への入園の有無を尋ねたことが確定診断のきっかけとなっており、医療機関への早期の情報提供は、潜在患者の発見にとって重要であるといえる。

 (3) 環境サンプリングの早期採取の必要性

    鳥の糞便等環境検体中のオウム病クラミジアの有無を検査するため、検体採取を開始したのは1月21日である。オウム病クラミジアの検査方法が確立していなかったという状況があったにしろ、患者の第1症例が届け出られた時点から環境検査の検体採取及び保管方法等について検討する等の対応が必要であったといえる。

 (4) 症例定義の確立

    厚生労働省通知によるオウム病届出のための診断基準では、臨床診断と病原体診断又は血清学的診断の両方がそろった場合にオウム病と診断することとなっているが、血清学的診断の基準としては、例として間接蛍光抗体(IF法)によるものが示されているだけで、CF法で検査した場合等の基準は示されていない。疫学調査にあたり、症例定義は重要であるが、オウム病のように診断基準の一部が例示で示されている疾患の場合は、一般医療機関で行っている検査方法による症例定義を確立し、「患者例」「疑い例」を定義づけ、症例定義にしたがっての届出の受理、届出基準を満たさない症例の病原体検査・血清検査方法の確立、疑い症例を含め疫学調査の実施をすすめていくことが重要であるといえる。

(5) 四類感染症及び動物由来感染症の集団発生に対処できるよう法令等の見直し

   今回の集団発生に関しては、感染症法第14条に基づく積極的疫学調査として実施したが、この場合、関係者は調査に協力する努力義務を負うにすぎない。今回の事例では、施設関係者が調査に協力的であったため、職員の行動調査ならびにオウム病クラミジア抗体検査、環境のサンプリング調査等が実施できたが、調査時に関係者の協力が得られない場合、調査がすすめられないといった問題がある。また、疫学調査の結果、感染のまん延防止のために入園停止、消毒の実施等の措置を講じる必要があると判断した場合、実施に当たっての法的根拠がないといった課題もある。

現在、感染症法の見直しがすすめられているところであるが、四類感染症及び動物由来感染症の集団発生が起こった場合の調査及び対処が迅速かつ的確に実施できるような法令等の見直しを期待する。