海外渡航者への対応 (トラベラーズワクチンの実際) |
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海外勤務健康管理センター 濱田篤郎 |
1.海外渡航者と感染症
・旅行医学(Travel Medicine)で扱う健康問題
感染症、気候関連の疾病、高速移動に起因する疾病、生活習慣病、メンタルヘルスの障害、医療機関や医療費の問題、緊急移送
・ 海外渡航者の感染症予防対策:予防教育、予防接種、早期発見
表1.途上国1ケ月間滞在で海外渡航者が各種感染症に罹患する頻度
感染症 |
WHOの推計 |
旅行者下痢症 |
30〜80% |
(WHO・International Travel and Health)
表2.海外渡航者にリスクのある感染症
経口感染症 |
旅行者下痢症、A型肝炎 |
蚊に媒介される感染症 |
マラリア、デング熱、黄熱、日本脳炎 |
使用人からかかる感染症 |
結核、麻疹、赤痢アメーバ |
性行為・医療行為からかかる感染症 |
梅毒、淋病、B型肝炎、AIDS |
動物からかかる感染症 |
狂犬病 |
表3.海外の感染症流行情報の主な入手先
国内 |
海外勤務健康管理センター http://www.johac.rofuku.go.jp 国立感染症研究所 http://www.idsc.nih.go.jp 厚生労働省検疫所 http://www.forth.go.jp 外務省・渡航関連情報 http;//www.mofa.go.jp/mofaj/toko |
国外 |
WHO(CSR) http://www.who.info/emc CDC(Traveler’s health) http://www.cdc.gov/travel |
2.ワクチンの選択
・年齢、滞在期間、滞在地域、現地での行動に応じてワクチンを選択する。
・ 自費診療のためコスト面も検討事項となる。
・ 接種前に効果および副作用を充分に説明し、同意の上で接種する。
表4.海外渡航者(成人)に推奨されるトラベラーズワクチン*
ワクチン |
推奨される旅行者 |
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滞在期間** |
地域 |
特にすすめられるケース |
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短期 |
長期 |
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A型肝炎 |
◯ |
◯ |
途上国全域 |
50歳未満の者 |
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(不活化) |
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郊外に滞在する者 |
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B型肝炎 |
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◯ |
アジア,アフリカ |
医療従事者 |
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(遺伝子組換) |
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現地の人と頻繁に接触する者 |
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黄熱 |
◯ |
◯ |
熱帯アフリカ |
予防接種証明の要求国に入国する者 |
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(生) |
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南米 |
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狂犬病 |
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◯ |
アジア, アフリカ |
獣医、調教師など動物に接する者 |
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(不活化) |
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中南米 |
咬傷後の速やかな処置が困難な者 |
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日本脳炎 |
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◯ |
中国, 東南アジア |
農村部に滞在する者 |
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(不活化) |
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南アジア |
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破傷風 |
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◯ |
先進国, 途上国 |
30歳以上の未接種者 |
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(トキソイド) |
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怪我の多い行動をとる者 |
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コレラ*** |
△ |
△ |
アジア,アフリカ |
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(不活化) |
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中南米 |
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*これ以外にポリオワクチンが昭和50年?52年生まれの者で、流行地域に長期滞在する場合に推奨される。
**短期:3ヶ月未満の滞在、長期:3ヶ月以上の滞在
***日本で市販されているコレラワクチンは有効性が低く、有効期間も短いため、あまり推奨されない。
3.小児を同伴する際の注意
・途上国への滞在は、基本的予防接種(BCG、ポリオ、三種混合、麻疹など)の終了後が望ましい。
・ ワクチンの選択は成人に準拠するが、基本的予防接種を優先する。
・ 長期滞在する場合は、母子手帳の予防接種欄を英訳し持参させ、必要に応じて現地の医療機関で追加接種を受けさせる。
表5.小児における各トラベラーズワクチンの接種時期
ワクチン |
接種時期 |
A型肝炎 |
16歳以上の接種について認可されている |
B型肝炎 |
生後より接種できる |
黄熱病 |
1歳以上から接種 |
狂犬病 |
生後6ヶ月以上から接種 |
日本脳炎 |
生後6ヶ月以上から接種 |
破傷風 |
生後3ヶ月以上から接種、通常は三種混合ワクチンとして接種される |
コレラ |
1歳以上から接種 |
表6.日本と海外での基本接種の相違
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日本 |
海外 |
BCG |
生後3ヶ月よりツ反陽性まで |
出生時1回、あるいは接種しない |
ポリオ |
生後3ヶ月より2回 |
生後2ヶ月頃より3〜4回 |
DPT |
生後3ヶ月より4回 |
生後2ヶ月より3〜4回 |
DT |
中1頃に追加 |
4〜6歳でDT、思春期頃にTなど |
麻疹 |
1歳より単独1回 |
生後9ヶ月頃よりMMRで接種 追加接種を行うことある |
Hib |
接種しない |
DPTと同時に接種する |
(母子衛生研究会の資料から)
4.接種スケジュール
・ 生ワクチン以外は医師の判断で同時接種することが可能。
・ 生ワクチンを接種したら1ヶ月間は他のワクチンを接種できない。
・3回接種が必要なワクチンは2回まで終了した時点で出国させる。
表7.トラベラーズワクチンの接種間隔と有効期間
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接種回数 |
第2回接種 |
第3回接種 |
有効期間* |
A型肝炎 |
3回 |
2週〜1ヶ月 |
6ヶ月〜1年 |
5年間 |
B型肝炎 |
3回 |
1ヶ月 |
6ヶ月〜1年 |
10年以上 |
黄熱病 |
1回 |
- |
- |
10年間 |
狂犬病 |
3回 |
1ヶ月 |
6ヶ月〜1年 |
2年間** |
日本脳炎 |
3回 |
7日〜14日 |
1年 |
4年間 |
破傷風 |
3回 |
1ヶ月 |
6ヶ月〜1年 |
5〜10年間 |
コレラ |
2回 |
7日 |
- |
3〜6ヶ月 |
*有効期間を過ぎたら追加接種(通常は1回)を行う。
**狂犬病はハイリスク以外に追加接種が必要ないとする意見もある。
5.日本で市販されていないトラベラーズワクチン
・ 医師の個人輸入で入手し、接種することが可能。
・ 輸入には厚生労働労働省の医薬局監視指導課とともに医政局経済課への届け出が必要。
表8.日本で輸入可能なトラベラーズワクチン
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製剤(代表的製品) |
接種回数 |
有効期間 |
腸チフス |
注射用精製抗原ワクチン (Typhim Vi :Aventis社) 経口生ワクチン (Vivortif Berna : SSVI社*) |
1回接種 3〜4回接種 |
3年間 3〜5年間 |
髄膜炎菌 |
注射用精製抗原ワクチン (Menomune : Aventis社) |
1回接種 |
3〜5年間 |
ダニ脳炎 |
注射用不活化ワクチン (Encepur : Chiron Behring社) |
3回接種 |
3年間 |
*Swiss
Serum and vaccine Institute社