第2セッション:No. 1

I類感染症:出血熱を中心に(特にウイルス)


国立感染症研究所感染病理部  倉田 毅

 

1.はじめに:一類感染症に分類されている疾患は、ウイルス性出血熱(Vital Haemorrhagic Fever: VHF)の4 疾患とペストである。
2.VHFとは何か:
 1) VHFの定義:ヒトに感染することにより、皮膚や内臓に出血を生ずるウイルス病は各種あるが、VHFは次の3点で特徴づけられる。○1かなり限られた地域(特にアフリカのサハラ砂漠以南)に常在するウイルスによる(ただし1疾患を除く)。○2臨床的には発熱、頭痛、咽頭痛などを主徴とし、重症インフルエンザ様症状を示し、しばしば出血を生じショック状態に陥る。○3これは最も重要で、感染者あるいは患者の血液(または体液)によってヒトからヒトへの感染が生ずることであり、マスク、手袋等の医療用具の基本的欠如により予期せぬ大発生となる。この定義に添う疾患は現在4 つある。ラッサ熱 (Lassa Fever)、エボラ出血熱(Ebola Haemorrhagic Fever)、マールプルグ病(Marburg Disease)、クリミア・コンゴ出血熱(Crimean-CongoHaemorrhagic Fever : CCHF) である。
 2) VHFの問題点: 上記4疾患中CCHFは世界中に最も広く分布していること、家畜や野生噛乳類がウイルスを保有していること、マグニが媒介することなどから最も厄介な疾患である。ダニの体内で垂直伝播が起こっていることと、渡り鳥が遠隔地ヘダニを運ぶことにより汚染地域が拡大していくなどから人畜共通感染症としても重要である。ラッサ熱は西アフリカー帯に広く分布する野ネズミの一種マストミス(染色体32と38がウイルスを保有している)が自然界の宿主である。その尿、唾液、血液がヒトの手足の傷口などに接してウイルスが伝播する。エボラ出血熱と、マールブルグ病は同じ新しい科(フィロウイルス)に属する。両ウイルスの自然界の宿主は不明である。エボラ出血熱はしばしば病院、家族を場として大発生を起こしているが、マールブルグ病はアフリカミドリザルが関与したマールブルグでの発生を除きいずれも12例の発生にとどまっている。新しくは1999年4 月末にコンゴ民主共和国(旧ザイール)東部のウガンダ国境で発生している。エボラ出血熱のヒトからヒトへの感染は全て汚物、吐物を含む血液または体液により、また汚染注射器の繰り返し使用によって伝播している。宿主がわからぬ以上この2疾患は今後共アフリカ地域で繰り返し発生がみられると思われる。
 3) VHF への対応:4疾患のウイルスは病原体取り扱い上の分類ではいずれもレベル4に属する。取り扱いには最高度安全施設(MBSL:Maximum Biosafety Laboratory) が必要となる。米国防疫センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention) ではウイルス・リケッチア部門の特殊病原体部を設け世界中のVHF の発生に対応している。現在、宇宙服式、キャビネット式を含めてヒト疾患診断用に12ケ所、動物用に10ケ所の実験施設が稼働している。仏のパスツール研究所ではエボラ発生が繰り返されるガボンの現地にも施設を作り発生に備えると共に、日常的に種々の昆虫、動物類からのウイルス分離などを試みている。わが国では1981年3月国立感染症研究所村山分室にキャビネット式施設が完成したが、政治的理由によって本来の目的に一度も使用されることなく現在に至っている。
 4). おわりに:VHFはいずれも血液により感染が伝播する。発生のあるたびに世界中がパニックになるが、基本的には前述の医療用具で対応できる。診断には遺伝子検出で対応できるが、患者の治療・退院の指標は血液、尿などからのウイルス分離検出が必須であり、対応施設が必須であることはいうまでもない。

 

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