第1セッション:No. 3

感染症危機管理と実地疫学専門家養成コース(FETP)


国立感染症研究所感染症情報センター 岡部信彦


 国立感染症研究所においては「国立感染症研究所健康危機管理実施要領」が定められている。ここでいう「健康危機管理」とは、感染症及び感染性が強く疑われる状況等その他、なんらかの病原体等を原因として生じる国民の生命、健康の安全を脅かす事態に対して行われる健康被害の発生予防、拡大防止、治療等に関する業務であって、国立感染症研究所の所管に属するものをいう、と定義されている。
 ここには、所内各部署で得られた健康危機管理に関する情報について、どのように伝達され、またどのように国に対してその情報を提供するかなどが定められている。重要と思われる事項については、感染症健康危険情報評価検討会(情報評価検討会)を招集し、健康危険情報の評価検討を行うが、これまでに、過去の情報評価検討会で検討した主な話題は、香港新型インフルエンザH5N1、鳥インフルエンザH9N3、エインテロウイルイス71型による脳炎、ニパウイルス脳炎、ニューヨークでの西ナイル脳炎、24時間風呂とレジオネラ症、輸入プレーリードッグとペスト などについてである。感染症情報センターでは、毎週1回感染症に関する情報誌、医学雑誌、インターネット情報などについて感染症情報のレビューを行い、これらの情報の共有と、健康危機管理に関する情報の提供を行っている。
 感染症危機管理というと稀な感染症の勃発に対する備え、ととらえられることが多い。そのこと自体は重要であるが、日常においては、日常的疾患のサーベイランスをきちんと行い、そこから浮かび上がる異常を把握し、正しく評価して行動することが重要である。
 1999年4月より感染症新法が施行され、感染症サーベイランスの新しい体制が整備された。その中で、サーベイランスは国の責務であると法律で明記された。同法には、都道府県知事は積極的疫学調査を実施できることが明記されている。この調査とは、突発的な健康障害が集団発生したとき、現地に迅速に赴き原因究明の疫学調査を行うことであるが、そのための専門家を養成する体制(Field Epidemiology Training Program, FETP)は、我が国には今まで存在しなかった。そこで1999年9月より感染研にFETPコースが設置され、感染症情報センターで実施されることになった。
 現在自治体より2名、大学医学部より3名の医師が派遣され、2年コースの研修に参加している。約1ヶ月間の基礎研修の後、感染症疫学の研究および発表、感染症情報の発信、感染症疫学の教育経験、海外のFETPとのコミュニケーションなどを行い、現在はこれに加えて、国内外での感染症発症事例についての現地調査協力、感染症サーベイランスの継続的な解析と評価、重点的サーベイランス強化への協力などに参加している。
 今回の研修会では、これらの感染症危機管理とFETPの活動内容をご紹介申し上げる。

 

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