第3セッション:No. 3

事 例 紹 介
結核-中学校における結核集団発生


高知市保健所  豊田 誠


                   

はじめに:高知市内の中学校にて、患者発生30人、感染者153人にのぼる大規模な結核集団発生事例を経験したので、対応の経過について報告する。


経過:(1) 初発患者は中学校3年女子生徒、診断の遅れ6ヶ月、咳の持続期間2ヶ月、肺結核bII2、喀疾塗抹G6号、HR感性、感染危険度指数12。
(2) 直後の家族検診は全員異常なし。定期外集団検診は接触の濃厚な順に同心円状に行い、同クラス生徒、合同授業クラス生徒等を対象にしたレントゲン検査で患者2名が発見されたため、その他の3年生徒に検診を拡大したが新たな患者は発見されなかった。
(3) 2ヶ月後の検診では、ツベルクリン反応検査を実施し発赤径分布を検討したところ、同クラス生徒は40mmをピークに1峰性、合同クラス生徒は2峰怯分布、対象を拡大したその他の3年生徒でも2峰性分布、さらに対象を拡大した1, 2年生徒で10mmをピークの1峰性の分布を認めた。2ヶ月後の検診を契機に、12名が結核患者として治療開始となり、これ以外に155名が初感染結核として予防内服紹介となった。
(4)2ヶ月検診終了後、有症状受診で3人の結核患者が発見された。
(5)6ヶ月後の検診では、経過観察者から6名、予防内服者から1名の結核患者が発見された。予防内服中の発病者はG7号、INH耐佐であった。
(6)12ヶ月後の胸部レントゲン検診では、経過観察者から5名、予防内服中の生徒から1名の肺結核患者が発見された。
 初発患者との接触状況別の感染率、発病率を比較すると、接触の濃厚なグループほど感染率、発病率ともに高くなっていた。接触状況別の患者発見経過をみると、初発患者発見2ヶ月後までの検診では、接触の濃厚であった者に集中して患者が発見され、以降は接触が少ない者からも発病が散発していた。患者30名の感染危険度指数は全員0であり、培養陽憧であった者のRFLPパターンは、全員初発患者と一致していた。


考察:今回の事例は診断の遅れに加え、初発患者の感染カが最も強い時期に換気が不十分な教室で長時間の接触があったことが、大規模な集団感染につながったと考えられる。また、接触が軽微な者にも感染、発病が起こっており、highly infectious caseに該当すると考えられる。
 ツ反強陽佐の30歳以上の教聴員には、予防内服を指示せず、経過観察としたところ、2ヶ月以降の発病は30-39歳の教員で多く、化学予防の発病予防効果を計算すると92%という結果が得られた。一方、予防内服中にINH耐佐で発病した生徒は、予防内服開始時、高校での定期健診でもレントゲン写真で明瞭な陰影は認められず、菌の発育が非常に速いことが推測された。
 対応では、当初より検討委員会を立ち上げ繰り返し対策を協議し、保護者説明会を頻回に行った。マスコミ対応については窓口を本庁に一本化し、現場と切り離し、プライバシーに関連する部分以外は十分に説明した上で公表した。2ヶ月の検診終了後は、講演や取材に対しても積極的に応じ、1年後には報告書を作成し関連機関へ配布し、結核の啓発活動を行った。


謝辞:当初より対策全般についてご指導、ご助言を賜った、結核研究所長 森亨先生に深謝申し上げます。

 

高知市中学校結核集団感染対応の経過 平成12年5月現在
月 日
経 過
H11 1/28 高知市内中学3年生徒 血痰を主訴に受診、専門病院を紹介され、入院となる。bII2,ガフキー6号、(後にINH、RFP感受性と判明)
HlO年8月頃体調をくずし腰痛、発熱で受診。10月頃胸痛が出現し受診。12月上旬より咳出現。近医を2度受診し,投薬を受けるが,胸部レントゲンは撮影されず。咳が出現してからも,学校や塾,スポーツクラデに休まず参加し,1月下旬には保育園での保育実習にも参加していた。感染危険度指数:12
 2/1 直後の家族検診で、同居家族は胸部レントゲン検査で全員異常なし。
 2/9 同クラス、合同クラス、同塾、同クラブ生徒、初発患者クラスの教務担当の教聴員を対象に胸部レントゲン検査実施。生徒から結核患者2名が発見される。
 3/5 他の3年生徒、仝教職員に対象を拡大して胸部レントゲン検査実施。
精査の結果、結核患者は発見されない。
 3/19 同クラス、合同クラス、同塾、同クラブ生徒のツ反の結果、同クラスのツ反発赤径分布は40mmをピークに1峰性,合同クラス等でも2峰憧分布。
 3/25 マスコミの報道始まる。
他校で塾一緒の生徒のツ反の結果、約半数が予防内服紹介となる。
2ヶ月後の家族検診にて、家族から2名の発病が確認される。
直後の検診で胸部陰影のため経観されていた教諭、治療開始となる
 3/27 他の3年生徒へのツ反の結果、ツ反発赤径の分布2峰性。
 3/28 スポーツクラブの小学生のツ反の結果、強陽性者1割程度。
 3/29 保育園のツ反の結果、強陽性者なし。
 4/3 1,2年生徒のツ反の結果、ツ反発赤径の分布1峰性。
予防内服紹介者から、初診の胸部レントゲン検査にて、9名が既に発病していることが、医療機関にて確認される。
 6月 経過観察者の中から、有症状で医療機関を受診し、2名の結核性胸膜灸患者と1名の肺結核患者が発見される。
 7月 経過観察者と予防内服者を対象に胸部レントゲン検査。
家族から1名、家族以外から5名の肺結核患者が発見される。
1名は予防内服中の生徒で、rII1、ガフキー7号、INH5/μg/ml耐性。
 11月 検診後経過観察となっていた教諭が、治療開始となる。
 12月 経過観察者と予防内服終了者を対象に胸部レントゲン検査
経過観察者から3名、予防内服が当初より不規則であった者1名から肺結核患者が発見される。
H12・4 月 12月の胸部レントゲン検査で要精査となり、その後の未受診であった生徒1名と、12月の胸部レントゲン検査で要経観となっていた教諭1名が治療開始となる。
 7月 経過観察者と予防内服終了者を対象に胸部レントゲン検査
 12月 経過観察者と予防内服終了者を対象に胸部レントゲン検査

_H11・4までに、検討委員会(学校、教育委員会、学校医、保健所)を6回、保護者説明会を10回開催し、検診の対象、内容,時期、検診結果について、協議、報告する。
_H11・4_Sに、医師会、学校、保健所、一般市民に対しては、講演、広報、マスコミ等により、今回の事例の経過説明や、結核の啓発普及活動に努める。
_H12・4に、「報告書」を市内医療機関へ、「結核のQ&A」を対象者・保護者へ配布し、啓発を図るとともに、7回目の検討委員会で18ケ月後の定期外検診追加を決定する。

 

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